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4.先輩がよくわかりません
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「議事録は書けたか?」
ゴールデンウィーク明けの月曜日。
会議が終わってしばらくすると、逢坂先輩があたしの手元をのぞき込んで、深いため息をついた。
「ちょっと貸せ」
「ちょ……待ってください、今書いてるところ……!」
抵抗むなしく、ノートはあっさりと逢坂先輩にさらわれた。
「兄ちゃん、遥香ちゃんにだけ厳しすぎー」
口をとがらせる爽太くんをムシして自分の席に戻ると、手元のメモを見ながら、さらさらとノートに書き込みはじめた。
生徒会に入って逢坂先輩と仲よくなる予定だったのに、要領が悪く全然使えないあたしは、こんなふうに叱られてばかりで、どんどん印象が悪くなってる気しかしないよ……。
絶望に打ちひしがれながらも、議事録ノートに視線を落とす先輩をこっそり観察する。
形のよい唇がブツブツつぶやくのに合わせて小さく動き、長いまつ毛が目の縁に影を落としている。
こんなふうに観察したことなんかなかったけど……意外とカッコいい……のかも?
いやいや。
あたしが好きなのは逢坂先輩の声だし。
カッコいいとか関係ないし。
そんなことをグルグル考えていたら、目の前にずいっと議事録ノートが差し出された。
慌てて両手で受け取って、中身を確認する。
「……完ぺきです」
いや、完ぺきすぎです、逢坂先輩。
大事なポイントをしっかりと押さえた上で、不要なところはきっちりカット。
ものすごくわかりやすい。
あたしがごちゃごちゃと書き込んできた今までの議事録が、ゴミみたいに見えてくるよ。
こんなのと比較されたら、落ち込むしかないでしょ……。
ダメだって思うのに、顔がだんだんとうつむいていく。
「徐々に慣れてくれれば問題ない。俺のメモでよければ、会議のあとにいくらでも見せてやる」
逢坂先輩の言葉に顔をそっとあげると、先輩と目が合った。
言い方は厳しいけど……ひょっとして『がんばれ』ってはげましてくれてるの?
「はい、ありがとうございますっ」
思いがけない逢坂先輩のやさしさに、口元が自然とほころんでしまう。
そんなあたしを見て、逢坂先輩がぎゅっと眉間にシワを寄せた。
「ご、ごめんなさい……」
そうだよね。やさしい言葉をかけてもらったからって、甘えてばかりじゃダメだ。
「もっともっとがんばります! 先輩にご迷惑をおかけしないように」
慎重に言葉を選びながら言ったんだけど、
「まだはじまったばかりだ。焦る必要はない」
と、そっけなく返されてしまった。
う~ん……逢坂先輩がよくわからない。
やさしいような、怖いような、でも怖くはないような……むずかしいです、逢坂先輩。
ゴールデンウィーク明けの月曜日。
会議が終わってしばらくすると、逢坂先輩があたしの手元をのぞき込んで、深いため息をついた。
「ちょっと貸せ」
「ちょ……待ってください、今書いてるところ……!」
抵抗むなしく、ノートはあっさりと逢坂先輩にさらわれた。
「兄ちゃん、遥香ちゃんにだけ厳しすぎー」
口をとがらせる爽太くんをムシして自分の席に戻ると、手元のメモを見ながら、さらさらとノートに書き込みはじめた。
生徒会に入って逢坂先輩と仲よくなる予定だったのに、要領が悪く全然使えないあたしは、こんなふうに叱られてばかりで、どんどん印象が悪くなってる気しかしないよ……。
絶望に打ちひしがれながらも、議事録ノートに視線を落とす先輩をこっそり観察する。
形のよい唇がブツブツつぶやくのに合わせて小さく動き、長いまつ毛が目の縁に影を落としている。
こんなふうに観察したことなんかなかったけど……意外とカッコいい……のかも?
いやいや。
あたしが好きなのは逢坂先輩の声だし。
カッコいいとか関係ないし。
そんなことをグルグル考えていたら、目の前にずいっと議事録ノートが差し出された。
慌てて両手で受け取って、中身を確認する。
「……完ぺきです」
いや、完ぺきすぎです、逢坂先輩。
大事なポイントをしっかりと押さえた上で、不要なところはきっちりカット。
ものすごくわかりやすい。
あたしがごちゃごちゃと書き込んできた今までの議事録が、ゴミみたいに見えてくるよ。
こんなのと比較されたら、落ち込むしかないでしょ……。
ダメだって思うのに、顔がだんだんとうつむいていく。
「徐々に慣れてくれれば問題ない。俺のメモでよければ、会議のあとにいくらでも見せてやる」
逢坂先輩の言葉に顔をそっとあげると、先輩と目が合った。
言い方は厳しいけど……ひょっとして『がんばれ』ってはげましてくれてるの?
「はい、ありがとうございますっ」
思いがけない逢坂先輩のやさしさに、口元が自然とほころんでしまう。
そんなあたしを見て、逢坂先輩がぎゅっと眉間にシワを寄せた。
「ご、ごめんなさい……」
そうだよね。やさしい言葉をかけてもらったからって、甘えてばかりじゃダメだ。
「もっともっとがんばります! 先輩にご迷惑をおかけしないように」
慎重に言葉を選びながら言ったんだけど、
「まだはじまったばかりだ。焦る必要はない」
と、そっけなく返されてしまった。
う~ん……逢坂先輩がよくわからない。
やさしいような、怖いような、でも怖くはないような……むずかしいです、逢坂先輩。
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