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Ⅱ 【完結】五歳年下で脳筋な隊の同僚をからかい過ぎた話
Ⅱ 8. Side L
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8.
遠ざかるクリスタの背中を、未練がましく見送り続けていれば、横に並んだ男に強引に肩を組まれた。
「何?お前、そんなにクリスタ好きなの?」
「『好き』…?」
好き?好きというのだろうか、この感情は。クリスタへの思いが、他の誰にも抱いたことのない、初めての感情だということは間違いない。ただ、そもそも「好き」というものが良くわかっていない自分が、クリスタを見て思うことの大半は、
―押し倒したい
この一言に尽きる。幻に終わった自身の童貞喪失が尾を引いているのかとも思ったが、「大半」の残り部分では、今まで通り、いや、今まで以上に、クリスタに苛立ちを感じていたりするから、自分の気持ちが良くわからない。
さっきも―
馴れ馴れしく人の肩を組んでくる隣の男が、クリスタを親しげに呼ぶのが気にくわなかった。それに、嫌な顔一つしなかったクリスタにも―
「しっかし、クリスタに惚れるとは、ルッツ、お前、豪気だなぁ」
「はぁ」
勝手に結論を出した男が、副官に呼ばれて移動を始める。肩を組まれたままの自分も、引きずられるようにして歩き出せば、
「よし!じゃあ、ちょっと、その辺詳しく俺と話そうぜ!」
「え、嫌っす」
「何でだよ!?」
耳元で五月蝿い男は案外、力が強く、結局、怪我をさせずに逃げ出す方法が見つからないまま、男の質問を延々と聞き続ける羽目になった。
「はぁ?じゃあ、お前、結局クリスタとは何にもやってないの?」
「まあ、そうっすね」
小山程はある巨大亀の甲羅の上、何故か、何故か、気づけば、初めて会ったばかりの男に、クリスタとのこれまでの出来事を洗いざらい話すことになってしまい、結果、呆れたような男の視線にさらされている。
「いや、ていうか、俺は何でギーアスター隊長にこんな話をしてんすかね?」
「俺が聞いたからだよ。後、亀が頭出さなくて暇だから」
足元、首のつけねから中に潜り込んだ亀の頭は甲羅の上からでは確認することが出来ない。大きく張り出した甲羅の中は、人一人くらいなら突っ込んでいけなくはないが、集団で特攻出来るだけの広さは無い。結局、尻尾部隊が蛇を狩りきるのを待つしかないのだが、
「ルッツ、お前さぁ、『白百合姫』に童貞捧げるつもりなんじゃねえの?」
「あー、いや、それはもう、ほぼ諦めてるっていうか」
ダラダラと話を続ける男に、こちらもつい惰性で付き合ってしまう。
「ふーん?でも、何でアイツなの?お前、『白百合姫』に直接会ったことある?」
「俺、実家が、ジェンツなんすよ」
「へー、お前、うちんとこの出身なんだ」
ギーアスター、つまり、男の一族が治める領地出身だと告げた途端、男の声から軽薄さが抜け、改まった口調になる。
「ルッツ、俺のことはクリフでいい。んで、もしお前が『白百合姫』に本気なら、俺が口をきいてやってもいいけど。どうする?」
「…」
「ルッツ?」
姫様の身内、兄の言葉、言われた瞬間に、「よっしゃ!」ではなく「困った」と思ってしまったのは何故か。その理由を考えようとしたところで、後方、クリスタ達の部隊から、怒声が上がった。
嫌な予感、焦って視線を向ければ、
「っ!?」
「おー、アイツ、危ないことしてんなー」
蛇に捕まった仲間を、助けようとしているのだろう。クリスタが、炎を纏い、蛇の胴へと突っ込んで行く姿が目に写る。
冷静に見ていられたのはそこまでだった―
「え!?あ!おい、待て!ルッツ!?」
抱えた斧を持ち直し、跳躍する。飛び降りた先、甲羅の奥に、見上げるほどの亀の頭。腰を落とし、斧を振るった。
瞬間―
地鳴りのような咆哮が響き渡る。ビリビリと震える空気、だが、振るった斧に思ったほどの手応えは感じられない。
「…やっぱ、かってぇな」
頭を出すこともなく、甲羅の奥、光る二ツの目がこちらに向けられる。どうやら、敵だとは、認識されたらしい。
「…出てこねぇんだったら、ここで潰すぞ?」
もう一度、構えた斧。振りかざし、特攻をかける。どんなに硬かろうが、関係ない。叩いて、潰して、殺す。
(…さっさと終わらせねぇとな)
また、どっかの誰かが、無茶をやらかす前に―
遠ざかるクリスタの背中を、未練がましく見送り続けていれば、横に並んだ男に強引に肩を組まれた。
「何?お前、そんなにクリスタ好きなの?」
「『好き』…?」
好き?好きというのだろうか、この感情は。クリスタへの思いが、他の誰にも抱いたことのない、初めての感情だということは間違いない。ただ、そもそも「好き」というものが良くわかっていない自分が、クリスタを見て思うことの大半は、
―押し倒したい
この一言に尽きる。幻に終わった自身の童貞喪失が尾を引いているのかとも思ったが、「大半」の残り部分では、今まで通り、いや、今まで以上に、クリスタに苛立ちを感じていたりするから、自分の気持ちが良くわからない。
さっきも―
馴れ馴れしく人の肩を組んでくる隣の男が、クリスタを親しげに呼ぶのが気にくわなかった。それに、嫌な顔一つしなかったクリスタにも―
「しっかし、クリスタに惚れるとは、ルッツ、お前、豪気だなぁ」
「はぁ」
勝手に結論を出した男が、副官に呼ばれて移動を始める。肩を組まれたままの自分も、引きずられるようにして歩き出せば、
「よし!じゃあ、ちょっと、その辺詳しく俺と話そうぜ!」
「え、嫌っす」
「何でだよ!?」
耳元で五月蝿い男は案外、力が強く、結局、怪我をさせずに逃げ出す方法が見つからないまま、男の質問を延々と聞き続ける羽目になった。
「はぁ?じゃあ、お前、結局クリスタとは何にもやってないの?」
「まあ、そうっすね」
小山程はある巨大亀の甲羅の上、何故か、何故か、気づけば、初めて会ったばかりの男に、クリスタとのこれまでの出来事を洗いざらい話すことになってしまい、結果、呆れたような男の視線にさらされている。
「いや、ていうか、俺は何でギーアスター隊長にこんな話をしてんすかね?」
「俺が聞いたからだよ。後、亀が頭出さなくて暇だから」
足元、首のつけねから中に潜り込んだ亀の頭は甲羅の上からでは確認することが出来ない。大きく張り出した甲羅の中は、人一人くらいなら突っ込んでいけなくはないが、集団で特攻出来るだけの広さは無い。結局、尻尾部隊が蛇を狩りきるのを待つしかないのだが、
「ルッツ、お前さぁ、『白百合姫』に童貞捧げるつもりなんじゃねえの?」
「あー、いや、それはもう、ほぼ諦めてるっていうか」
ダラダラと話を続ける男に、こちらもつい惰性で付き合ってしまう。
「ふーん?でも、何でアイツなの?お前、『白百合姫』に直接会ったことある?」
「俺、実家が、ジェンツなんすよ」
「へー、お前、うちんとこの出身なんだ」
ギーアスター、つまり、男の一族が治める領地出身だと告げた途端、男の声から軽薄さが抜け、改まった口調になる。
「ルッツ、俺のことはクリフでいい。んで、もしお前が『白百合姫』に本気なら、俺が口をきいてやってもいいけど。どうする?」
「…」
「ルッツ?」
姫様の身内、兄の言葉、言われた瞬間に、「よっしゃ!」ではなく「困った」と思ってしまったのは何故か。その理由を考えようとしたところで、後方、クリスタ達の部隊から、怒声が上がった。
嫌な予感、焦って視線を向ければ、
「っ!?」
「おー、アイツ、危ないことしてんなー」
蛇に捕まった仲間を、助けようとしているのだろう。クリスタが、炎を纏い、蛇の胴へと突っ込んで行く姿が目に写る。
冷静に見ていられたのはそこまでだった―
「え!?あ!おい、待て!ルッツ!?」
抱えた斧を持ち直し、跳躍する。飛び降りた先、甲羅の奥に、見上げるほどの亀の頭。腰を落とし、斧を振るった。
瞬間―
地鳴りのような咆哮が響き渡る。ビリビリと震える空気、だが、振るった斧に思ったほどの手応えは感じられない。
「…やっぱ、かってぇな」
頭を出すこともなく、甲羅の奥、光る二ツの目がこちらに向けられる。どうやら、敵だとは、認識されたらしい。
「…出てこねぇんだったら、ここで潰すぞ?」
もう一度、構えた斧。振りかざし、特攻をかける。どんなに硬かろうが、関係ない。叩いて、潰して、殺す。
(…さっさと終わらせねぇとな)
また、どっかの誰かが、無茶をやらかす前に―
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