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Ⅱ 【完結】五歳年下で脳筋な隊の同僚をからかい過ぎた話

Ⅱ 7.

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7.


「…クリスタくん、ルッツくんとは、」

「隊長、今は、第一からの協力要請について協議中のはずですが?」

「うん、勿論、そうなんだけどね?ほら、僕の立場もあるじゃない?君と彼との関係について、チョイチョイ、ね?」

「隊長…」

昔から、知らぬ仲ではない。文官出身の第三隊隊長の、ゴツい身体に似合わぬ柔和な笑みに嘆息する。

完全なる事務方だった彼が、その作戦立案能力を買われて、第三で隊長職を拝命することになった当時、彼はもっと前職を感じさせる外見をしていた。それが、第三に配属後、次に再会した時には、既にもう、今の姿で―

「…恐ろしい。第三の呪いか…」

「…何の話かな?まあ、何となくわかってしまったけど」

「…失礼しました」

「…クリスタくん、僕はね、第三ここの次は作戦本部への配属、またもや机の前での戦いが決まってるんだよ。その前に、一度は現場を経験しておくべきだと、ここに送られたんだけど、思った以上に居心地が良くて、楽しかったんだ。…ルッツくんの、おかげでね?」

「隊長…」

くっきりと浮かんだ彼の目尻の皺が、その言葉の真実を語っている。

「現場を知らない頭脳労働者の僕に、彼は最初から垣根を持たなかったから。いつの間にか、彼の勢いに押されて身体を鍛えることになって、気づけば彼らの『仲間』に成ってたよ」

「それは…」

取った手段はアレだが、まあ、それで隊長が現場に馴染めたというのなら、筋肉の…もとい、ルッツの功績は大きいのだろう。手段はアレだが―

「だから僕は、昔から知ってる君と彼が結ばれるなら、こんなに素晴らしいことはないと思っているんだ。だから、お節介は承知で言わせてもらえば、彼から逃げ回るのではなく、ちゃんと向き合ってみてはどうかな?」

「…ルッツに、そういう想いは、」

「うん。でもクリスタ君、ルッツくんのこと気に入ってるでしょ?弟?違うな、ペット?みたいな感覚?」

「!?」

見透かされていたルッツへの感情に、赤面する思いがした。

確かに、「白百合姫、白百合姫」と連呼するルッツのことを、密かに忠犬のような男だと思っていたし、どちらかと言えば、好ましく思っていたのも事実。それを、まさか、叔父とも慕う人物に気づかれていたとは―

逃げ出したくなったこちらの気持ちに気づいてか、

「はい、じゃあ、この話はここまで。こっからは、第一に頼まれてる巨大亀ビッグタートル討伐のお手伝いについて」

「…了解です」

隊長の言葉に甘え、頭を切り替える。ルッツへの想い、その正体に薄々は気付き始めている自分を、今は誤魔化して。








「以上が、作戦概要だ。基本的にうちの役目は、第一と第二の支援。二手に別れてからは、各々の隊の指揮下に入る。各隊長の指示に従うように」

「…あのさ、クリスタ」

「…何だ」

討伐任務当日、最後の指示を行うこちらの緊張感を台無しにするルッツの言動はもう、今更なので何も言うまい。基本的に、第三は弛い。

「何で、俺とお前の班、別れてんの?」

「…」

お前が鬱陶しいからだ―

そう言いかけた言葉は、きっちり飲み込んだ。こちらの言葉を鵜呑みにしかねない男に、同じ愚は冒さないと決めている。

「…お前達、第一班は、第一隊と共に亀の頭を叩く、力勝負だ。第二班は、第二と共に、亀が頭を出さざるを得ないよう、亀の尾を破壊する。尾には魔法攻撃が有効だから、私達が行く」

「尾って、あれだろう?蛇みたいなのが、ウネウネしてる」

「ああ。八本全て破壊し尽くせば、奴も頭を出してくるだろう。時間は掛かるが、被害が最少で済む、定石だ」

「ああ、まあ、それは、わかるんだけどさぁ」

「…」

鬱陶しい。非常に鬱陶しい。

グズグズと留まり続けようとする男は、二人の関係をきっぱりと否定したあの日以降も、何かとこちらに構ってこようとする。むしろ、悪化しているのではないかとさえ思う。しかも、「待て」が効かない分、忠犬というよりはもはや、金魚の糞―

「よう!クリスタ!」

「…」

「…誰、アイツ?」

遠くから、呼ばれた名。効き馴染みのある声に振り返り、姿勢を正す自身の横で、ルッツが不機嫌な声を上げた。

「『アイツ』ではない、第一の隊長だ。ギーアスターの三男クリフ・ギーアスター、『白百合姫』の兄だろうが」

「ふーん」

楽しいものを見つけたと言わんばかりの笑顔で近づいて来る男を、不敬な視線で睨め付けるルッツの横腹に肘を入れてみたが、本人は全く堪えた様子もなく、

「何で、お前のこと知ってんの?」

「…最初の配属が第一だったんだ」

「よぉ!クリスタ!何か、久し振りだな!元気そうじゃねーか!」

目の前に立ち塞がった、無駄に士気の高い男に、慇懃に礼を返す。

「お前、こっち来んの?第二の方?」

「第二隊の支援に入ります」

「あーそっか、残念!あ、じゃあ、ルッツとか言う奴は?うちの姫さんにちょっかい掛けようって公言してる馬鹿は?」

「…」

キラキラと、それはもう、楽しくて仕方無いという目をしている男から、隣に立つ男へと視線を向ける。こちらは正反対、不機嫌を身体中に漲らせる男を、一歩、前に押し出した。

「ルッツです。第一の支援に回しますので、指揮してやって下さい」

「おお!お前か!デカイな!ゴツいな!」

「…ども」

「ルッツ…」

相手は仮にも第一の隊長、指揮官である。本人に気にした様子は無くとも、その態度は何なのだと、普段なら叱り飛ばすところだが、彼は既に第一の指揮下、時間も無い。溢れそうなため息を飲み込んで、自分の持ち場への移動を決めた。

「…じゃあな、ルッツ」

「…おぅ」

返事を返したルッツに軽く手を上げ、背を向けた。背中にじっとり貼り付く視線には気づかない振り、振り返らずに、その場を後にする。




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