異世界 恋愛短編 コメディ

リコピン

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Ⅱ 【完結】五歳年下で脳筋な隊の同僚をからかい過ぎた話

Ⅱ 6.

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6.


己の作戦失敗に気づいたのは、割に直ぐのことだった。見立ての甘さに痛恨の思いを抱いたのも―

「…見てますねぇ、ルッツ君…」

「…」

「あれだけこっちを気にしながら、それでも、きっちりバイセルの群を相手に出来るあたりは、流石と言うべきなんでしょうけど」

「…帰還次第、厳重に注意しておきます」

「うん、まあ、ほどほどにね?」

第三隊において、階級はあって無いようなものの、今回、バイセル討伐任務の副官を担った身としては、隊の主力が注意力散漫、常以上に筋力頼りの戦いをしていることに対して、厳重な注意の一つや二つ、しておくべき、なのだろう。例え、その注意力散漫の原因に、心当たりが有り過ぎる場合においてでも―







「ルッツ、先程の戦闘は何だ?」

「え?や、何だって言われても…」

牛に似た中型モンスター「バイセル」の、五十に届こうかという大規模な群。刃の通りにくい皮を持つ奴等の大半を、巨大な斧の打撃で叩き潰してしまった―しかも、あんなふざけた戦い方をしていた―にも関わらず―、息一つ上がっていないルッツを、戦闘終了と同時に叱責する。

ここ数日の、勘づくなという方が難しいであろうルッツのあからさな態度。ルッツの背後、第三の仲間がにやけた顔で見守る中、ルッツが言いづらそうに言葉を選ぶ。

「あーやー、すまん。けど、やっぱ、気になって。…お前の方に、ハグレが行っちまったらマズイなーとか…」

「バイセルの一匹や二匹に、後れをとるつもりはない」

「それはまあ、そう、なんだろうけどさ…」

あまりに煮え切らない態度のルッツに、些か不安を覚える。ルッツのこの態度は、間違いなく先日の酒の席、その翌朝のことが原因であろうことは分かる。だが、それにしてもあまりに単純、騙されやす過ぎではなかろうか?平時ではあるか、これではハニートラップにも簡単に引っ掛かってしまうのではないかと、心配になってくる。

「ルッツ、お前…」

「いや、お前が強いのはわかってんだけどさ、その、体調というか、身体のこととかあるだろう?」

「…何だと?」

体調?私の?何の話をしている―

「いや、だからさー。俺も後から気づいたっつーか、気が利かなかったっつーか」

「…ルッツ、要領の得ない話をするな、言いたいことがあるなら、さっさと、」

「だから!お前の処女もらっちまったからさ!」

「なっ!?」

「そんだけでも、女は身体辛いって聞くし!」

「っ!?待て!ルッツ!」

くそっ!まさか、こいつ、未だ本気で―!

「俺、記憶ないから、避妊とかもぜってーしてねーし!」

「黙れ!ルッツ!」

「黙らねーよ!だから、お前の身体の心配くらいさせろっつー話だろーが!」

「っ!」

最っ悪だ―

作戦失敗なんてものではない、完全な自滅、ルッツをアホだアホだと思いながら、それでも、状況判断は出来る男だと信じていた己の方こそ、救いようの無いど阿呆だった。

(くそっ!)

ルッツの背後、出会って初めて見せる会心の笑みを見せる筋肉集団が鬱陶しくてたまらない。だが、聞かれてしまった以上、誤解はこの場で、奴らの前で解かなければ意味がない。

「…ルッツ…」

「…何だよ」

何だその、不貞腐れたような、照れたような、良くわからない態度は―

「…いいか、良く聞け。私とお前は、寝ていない」

「は?いや、だって、お前、あの状況は…そうだろ?それに、初めてとか、秘密にしよーとか、言ってたじゃねーか…」

「生まれて初めて、みっともなくも酒に酔い潰れ、二人で宿屋に宿泊した事実に関して、内密に、とは言ったな」

「…は?いや、でもよ…」

自身の認識に、漸く疑いを抱き出したルッツに、声を落として囁く。

「…ルッツ、よく思い出してみろ。あの場には私の破瓜の痕も何も無かっただろう?」

「!?」

「寝台にもシーツにもそれらしき痕は無かったはずだ」

「お前!処女じゃなかったのか!?」

「今でも処女だ!」

ルッツの大声につられて叫んで、頭を抱えたくなった。

(何なんだ、コイツは…)

何故、そうなる。何故、そもそもの前提を疑わない―

反射で返してしまったが、自身の処女性を、然程重要視しているわけではない。それでも、経験の無さを喧伝する趣味だって、当然持ち合わせていないわけで―

鬱陶しさを増した周囲の視線を視界の外に追いやって、

「わかるだろう?私は肌着だったが、私もお前も服を身につけたままだった、ルッツは、その、何だ、そういったことをした痕跡もなかっただろうが」

「…俺は、下履きしか着てなかったぞ」

「っ!それは!いつものことだろうが!暑かったのか何かは知らんが、寝たまま自分で脱ぎ捨てたんだろう!?大体、お前はあれだけ深酒しておいて、自分が出来たと思うのか!?」

完全に酔い潰れ、眠気にすら勝てていなかったではないか、それを―

「いや、でも俺、鍛えてるから」

「は?」

「筋肉、鍛えてるから」

「っ!だから、何なのだ!?」

駄目だ。アホだ。筋肉がどうした。関係ない。そもそも、そういう意味で鍛えるのは無理だろう。これ以上、言葉を重ねる虚しさに、最早諦めるしかないのかと悩み始めたところで、

「…まあ、でも、そっか、違ったのか。なら、まあ、良かった」

ルッツの安堵する声に、どうやら一応は言葉が通じていたらしいと、こちらも安堵する。

「…そうだ、何もなかった。だからもう、私のことは気にするな。今後、任務に支障を来すような真似は、」

「初めてを覚えてないってのは、嫌だったんだよな。すっげぇ後悔した」

「…は?」

「やっぱ、やんなら、記憶あるときにやんねーとな!よし、仕切り直しだ!クリスタ、俺と、」

「っ!?仕切り直しなどない!お前、私にそういう感情を持っていないだろう!?」

「まあ、筋肉捧げるまではいかねぇけど、童貞なら、」

「っ!」

殴った。取りあえず、腹に入れた一発は、こちらの拳が痛くなるだけに終わったが、後悔はしなかった。





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