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Ⅱ 【完結】五歳年下で脳筋な隊の同僚をからかい過ぎた話

Ⅱ 2.

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2.


「よーし!そこまでだ!お前ら!」

「とりあえず、飲め!」

「そうだ!飲め飲め!飲んで、潰れた奴ぁ負けだ!大人しく、勝った奴に従え!」

「…」

恐らく、止めてくれたのだろう―

それが、優しさとか親切とかいうものとはまた別物だとわかってはいるが、本気の衝突になりかけていた私とルッツの間に、無理矢理、酒瓶を並べた男達。

「ルッツが負けたら、クリスタで童貞卒業な!」とか、「クリスタが負けたら、黙ってルッツの童貞貰ってやれ!」とか、軋轢の原因とは全然関係ないところで敗北ペナルティを決め、それに自分達でゲラゲラ笑っている筋肉集団。

だが、まあ、これでも一応、命を預け合っている仲間なのだ。隊の結束に亀裂を生まないため、非常にわかりにくくではあるが、フォローを入れられた、のだろう。なのに―

「おーし!その勝負のってやる!クリスタ!俺が勝ったら、お前もちゃんと姫様に筋肉捧げんだぞ!」

「…」

「お前の貧弱な筋肉でも、まあ、無いよりはましだ!」

「…」

そんな、周囲の気遣いとかそういうものも全然、これっぽっちもわかっていなさそうな上、更に頭の悪いペナルティを口にするルッツに、おさまりかけていたイラつきが再燃する。

「ほら!お前の分、さっさと空けろ!」

「…」

テーブルに二つのジョッキを並べ、自分の分のジョッキを一気に空けたルッツのドヤ顔が、イラつきに拍車をかける。黙って、目の前に置かれたジョッキを飲み干せば、

「よーし!いい飲みっぷりだ!」

「潰れても気にするな!」

「潰した方に責任持ってお持ち帰りさせっからよ!」

外野の余計な煽りに、ジョッキをまた一つ空けたルッツが叫ぶ。

「持ち帰んねーよ!クリスタは俺と同じ、姫様の筋肉になんだからよ!」

ならない。人を勝手にそんなわけのわからないものにするな。

「クリスタ!お前、やべぇじゃん!」

「姫様の筋肉に成りたくなきゃ、勝つしかねぇ!」

「…」

完全に出来上がっている仲間達の酒の肴にされているのはわかっているが、私自身、多少なりとも酔いがまわっている。煽られるまま、目の前に置かれた杯をまた一つ空ければ、ルッツが大袈裟に驚いて見せて、

「クリスタ!ひょっとして、お前、俺の童貞狙ってんのか!?」

「…」

(我慢だ、耐えろ)

最高に腹の立つ煽りに、思考と感情がコントロールを失いつつあるのを自覚する。

「くそ!そうか!だが、すまん!俺は、お前じゃ、勃つ自信がねぇ!お前とはこれからも、姫様の筋肉仲間として、」

「…」

イラつきが、最大限に達した。

いいだろう。意味のわからない戯れ言で、ここまでコケにされだのだ。このまま、引き下がるわけにはいかない。無かったことにしてやるつもりも、もう無い。元来、私は負けず嫌いなのだ。決めた、泣かす。絶対に、泣かす。

思考が、黒い方へと傾いた。酔いに任せて、案を練る。ルッツに、二度とふざけた台詞を吐かせぬために。




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