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Ⅰ 【完結】八歳年上で色気過多な幼馴染みの冒険者を捕まえるお話【27472字】
Ⅰ 10.
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「ご、ごめんなさい!本当に!続けて!続けて下さい!」
闖入者の出現に、時間が停止してしまった教会内。マティアスの迷走っぷりが可笑しくて、神聖な式の真っ最中だというのに、堪えきれずに噴き出してしまった。未だ収まらない笑いを抱えて、神父へと式の進行を促す。
そのまま、三人並んでいたブライズメイド仲間の元を離れて、教会の入口、呆然と立ち尽くすマティアスへと向かう。
「…フィー…」
「うん。マティアス、話は後でね」
「…」
魂が抜けてしまったようなマティアス。いつもどこか余裕をたたえて飄々としている彼からは想像も出来なかった姿。彼を置いてきた時には、すごく腹が立っていたはずなのに、こんな姿を見せられたら、
―あ、駄目だ
また、噴き出しそうになるのを懸命に堪えた。動かないマティアスの手をとって、そっと引いてみる。
「マティアス、こっち」
「…」
黙って手を引かれるマティアスを、前列―ブライズメイド仲間の元―へと導いていく。
「…フィー、そのドレス…」
「うん」
力無い声で、背後からボソボソと呟かれた言葉に小さく返す。
「…菫色…」
「うん」
「…リボンがついてる」
「うん」
マティアスを連れて元いた場所にしれっとおさまれば、漸く動き出した神父によって式が再開された。
―後で、ロクシーヌに謝らなくちゃ
思ったより、ずっと早かったマティアスの到着。この場に居るのが身内だけだといっても、式を引っ掻き回してしまったことは間違いない。ロクシーヌに謝罪して、それから、怒られよう。この日を楽しみにしていた両家の親から、マティアスと一緒に。
「…」
「…」
右側からずっと注がれている視線。繋いだままの手。くすぐったい温かさに包まれ、弛みっぱなしの口元、花嫁と花婿の誓いのキスを静かに見守った。
感動に包まれて、というには、参列者全員に雑念が有りすぎたまま、式が終わった。救いだったのは、―式を妨げた謝罪に対して―主役である花嫁がキラッキラの眼差しで「マティアスが言ってたことは本当!?」「お姉ちゃんも結婚するの!?」と質問攻めの上、返事も待たずに盛大に祝福してくれたことだろう。
そんなお祝いモードの妹とは正反対の反応を示したのが、両家の父親達だった。
両家揃い踏みのカスターヌ家の応接間。重苦しい怒気を発する父親達に相対するように座るマティアスと私。チラリとマティアスの方をうかがえば、「王都中の女性を虜にする」と言われているその美貌の横顔が、今は無惨なほどに腫れ上がっている。
「…大丈夫?」
「…」
返ってきたのは小さな苦笑。大丈夫なはずなんてない。絶対、痛い。「回復」魔法をかけてあげたいのに、
「フィリス、マティアスを甘やかすな」
「…はい」
甘やかしているわけではない、心配なだけで。
だけど、マティアスを一発ずつ殴り付けて、一応は話を聞いてくれる態勢になった父親二人をこれ以上刺激するわけにはいかない。ここは大人しくしていよう。彼らの拳を避けずに殴られたマティアスのためにも。
「…それで、先ほどの…。マティアスが言っていたことは本当なのか?」
「本当だよ」
「マティアス!」
全肯定なんて捨て身にもほどがある。再び殴りかかりそうになった父親達を何とか宥めて、座らせる。
「マティアス、あなたも適当なこと言わないで。私達、そういう関係になってないよね?」
「フィーは寝ちゃってたから」
「そうだけど!」
何なのだ。このマティアスの無駄な煽りは。穏便に話を進めたいのに、一々、父親達の怒りを買いそうなことを匂わせて。
「いくら私に経験無いからって、それくらいのことはわかるし、気づくよ!マティアスには何もされてない!」
まあ、「何も」というわけではないけど―
一瞬、そう考えてしまったのがわかったのか、マティアスが、それはもういい笑顔で笑った。スッゴく、思わせ振りに―
「っ!?とにかく!子どもとか、そんなの、絶対ないから!」
それ以上、マティアスが不用意な発言をしないよう、慌てて二人の父親の方を向く。
「ちょっと、色々、誤解があって。マティアスはあんなこと言っちゃったけど、全部嘘だから」
「フィーが俺のものっていうのは、本気、」
「っ!えっと、だから、つまり、私達、お互いが好きだったんだけど!ちょっとすれ違っちゃって!ロクシーヌの式を邪魔しちゃったことは、本当にごめんなさい!」
マティアスの言葉を遮って叫んだ言葉に、何とも言えない空気が生まれた。まさに苦虫を噛み潰したみたいな父親達に、困惑したままの母親達。キラキラの笑顔でいるのはロクシーヌだけで、私だって恥ずかしくて逃げ出したい。それでも、やらかしてしまったことの後始末をつけようと、そう思っているのに―
「ご、ごめんなさい!本当に!続けて!続けて下さい!」
闖入者の出現に、時間が停止してしまった教会内。マティアスの迷走っぷりが可笑しくて、神聖な式の真っ最中だというのに、堪えきれずに噴き出してしまった。未だ収まらない笑いを抱えて、神父へと式の進行を促す。
そのまま、三人並んでいたブライズメイド仲間の元を離れて、教会の入口、呆然と立ち尽くすマティアスへと向かう。
「…フィー…」
「うん。マティアス、話は後でね」
「…」
魂が抜けてしまったようなマティアス。いつもどこか余裕をたたえて飄々としている彼からは想像も出来なかった姿。彼を置いてきた時には、すごく腹が立っていたはずなのに、こんな姿を見せられたら、
―あ、駄目だ
また、噴き出しそうになるのを懸命に堪えた。動かないマティアスの手をとって、そっと引いてみる。
「マティアス、こっち」
「…」
黙って手を引かれるマティアスを、前列―ブライズメイド仲間の元―へと導いていく。
「…フィー、そのドレス…」
「うん」
力無い声で、背後からボソボソと呟かれた言葉に小さく返す。
「…菫色…」
「うん」
「…リボンがついてる」
「うん」
マティアスを連れて元いた場所にしれっとおさまれば、漸く動き出した神父によって式が再開された。
―後で、ロクシーヌに謝らなくちゃ
思ったより、ずっと早かったマティアスの到着。この場に居るのが身内だけだといっても、式を引っ掻き回してしまったことは間違いない。ロクシーヌに謝罪して、それから、怒られよう。この日を楽しみにしていた両家の親から、マティアスと一緒に。
「…」
「…」
右側からずっと注がれている視線。繋いだままの手。くすぐったい温かさに包まれ、弛みっぱなしの口元、花嫁と花婿の誓いのキスを静かに見守った。
感動に包まれて、というには、参列者全員に雑念が有りすぎたまま、式が終わった。救いだったのは、―式を妨げた謝罪に対して―主役である花嫁がキラッキラの眼差しで「マティアスが言ってたことは本当!?」「お姉ちゃんも結婚するの!?」と質問攻めの上、返事も待たずに盛大に祝福してくれたことだろう。
そんなお祝いモードの妹とは正反対の反応を示したのが、両家の父親達だった。
両家揃い踏みのカスターヌ家の応接間。重苦しい怒気を発する父親達に相対するように座るマティアスと私。チラリとマティアスの方をうかがえば、「王都中の女性を虜にする」と言われているその美貌の横顔が、今は無惨なほどに腫れ上がっている。
「…大丈夫?」
「…」
返ってきたのは小さな苦笑。大丈夫なはずなんてない。絶対、痛い。「回復」魔法をかけてあげたいのに、
「フィリス、マティアスを甘やかすな」
「…はい」
甘やかしているわけではない、心配なだけで。
だけど、マティアスを一発ずつ殴り付けて、一応は話を聞いてくれる態勢になった父親二人をこれ以上刺激するわけにはいかない。ここは大人しくしていよう。彼らの拳を避けずに殴られたマティアスのためにも。
「…それで、先ほどの…。マティアスが言っていたことは本当なのか?」
「本当だよ」
「マティアス!」
全肯定なんて捨て身にもほどがある。再び殴りかかりそうになった父親達を何とか宥めて、座らせる。
「マティアス、あなたも適当なこと言わないで。私達、そういう関係になってないよね?」
「フィーは寝ちゃってたから」
「そうだけど!」
何なのだ。このマティアスの無駄な煽りは。穏便に話を進めたいのに、一々、父親達の怒りを買いそうなことを匂わせて。
「いくら私に経験無いからって、それくらいのことはわかるし、気づくよ!マティアスには何もされてない!」
まあ、「何も」というわけではないけど―
一瞬、そう考えてしまったのがわかったのか、マティアスが、それはもういい笑顔で笑った。スッゴく、思わせ振りに―
「っ!?とにかく!子どもとか、そんなの、絶対ないから!」
それ以上、マティアスが不用意な発言をしないよう、慌てて二人の父親の方を向く。
「ちょっと、色々、誤解があって。マティアスはあんなこと言っちゃったけど、全部嘘だから」
「フィーが俺のものっていうのは、本気、」
「っ!えっと、だから、つまり、私達、お互いが好きだったんだけど!ちょっとすれ違っちゃって!ロクシーヌの式を邪魔しちゃったことは、本当にごめんなさい!」
マティアスの言葉を遮って叫んだ言葉に、何とも言えない空気が生まれた。まさに苦虫を噛み潰したみたいな父親達に、困惑したままの母親達。キラキラの笑顔でいるのはロクシーヌだけで、私だって恥ずかしくて逃げ出したい。それでも、やらかしてしまったことの後始末をつけようと、そう思っているのに―
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