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召喚された異世界に馴染めず王都を追い出された巫女が、彼氏が出来て喜んでたら、知らない内に王都で人が死んでいた
しおりを挟む瘴気生まれる地サイルートには、百年に一度、厄災の年が訪れる。厄災を祓うは、異国より来る「女神の巫女」。女神の力授けられし巫女が、サイルートを救う―
「おやおや?巫女様ともあろうお方が、このような場所を共も付けずに出歩かれるとは」
「…うるさい。あんたに関係無い」
「何をおっしゃいますやら。私は巫女様の忠実な僕、聖騎士でございます。どこかにお出でになるなら…ああ、それとも、とうとう、後宮を追い出されてしまいましたか?」
「…」
「それはそれは。ですが、まあ、これで巫女様もお分かりになったのではないですか?この国は貴女の玩具等ではない。過ぎる我儘は、御身を滅ぼします」
「っ!あんた達が!あんた達が勝手に私を喚んだんでしょう!?私の十四年を、あんた達が無かったことにした!」
「それについては、何度も頭を下げました。巫女様もご納得頂けたはず、」
「言葉だけで納得するわけない!私を納得させたいなら、許して欲しいなら、この国に来て良かったと、そう思わせてみなさいって言ったのよ!」
「…ええ、ですから、陛下は巫女様の我儘を聞き入れ、貴女を後宮に入れた。正妃であるシエラ様を、愛していらっしゃるにも関わらず」
「馬鹿じゃないの!?好きでもない男の愛人にされて、それで何で私が喜ぶと思うのよ!」
「…国で、最も尊ばれる地位にある御方に庇護されるのです、」
「だったら、正妃にしなさいよ!」
「正妃?貴女に、それが務まると?」
「っ!?」
「…良いではないですか。今まで、陛下の側室という立場で、散々、好き勝手なされたのです。今後は、御身を振り返られ、」
「嫌!私の何もかも奪っておいて、無理やり巫女なんてやらされたのに!たった三年、好きにお金使っただけで、我儘って言われて、納得なんて出来るわけない!」
「…その貴女が浪費した国庫は、民による血税。元から、貴女にそれを使う権利など、」
「あるわよ!当たり前じゃない!私がこの国を救ったのよ!?皆、皆、私が助けたの!私に感謝して!全て捧げてもいいくらいよ!」
「…何と、醜悪な…」
「それが嫌なら、最初っから、私を喚ぶな!!」
「…巫女様、どちらに…」
「…あんたに関係ないって言った」
「…」
その日、一人の少女が城を出た―
「…陛下、巫女が城を出て行かれたようです」
「…そうか…」
「追手を、監視をつけますか?」
「良い、捨て置け」
「はっ」
「…あの、陛下、ランドルフ様…」
「シエラ、大丈夫だ。そんな顔をするな」
「…ですが、巫女様が出て行かれるなど…」
「厄災の年は過ぎた。それより更なる二年も過ぎている。もはや、この国が瘴気に飲まれることはない」
「…ですが…」
「シエラ。気に病んでいるのか?お前を虐げ続けたあの娘を?」
「虐げた、など…」
「逆らえぬをいいことに、散々、お前に当たり散らしていたではないか」
「…お寂しかったのだと思います、巫女様も」
「お前は、あのような者にまで心を砕くのだな。私には、お前のその優しさが、何よりの救いだ」
「…ランドルフ様…」
城を出た少女は王都を抜けた。その背を追う者は居ない―
「最っ低!」
「…」
「なんで、あんた、私を殺さないわけ!?そんな毛むくじゃらで、ごっつい為りして!山賊じゃないの!?盗賊とか!?人殺しとか!?」
「…」
「何とか言いなさいよ!こいつら、この転がってるやつら、どうすんのよ!?せっかく私を狙って、私を殺すとこだったのよ!?それを!あんたが余計な真似するから!」
「…すまん」
「すまんって何よ!?そういう、適当に謝られるのが、一番、腹立つ!やっと!やっと、決心出来たとこだったのに!こんなクソみたいな世界、さっさと死んでやるって!クズみたいな奴らに殺されて、この世界を怨んで怨んで、怨み抜いて死んでやるって、決めてたのに!」
「…」
「っ!頭、触んな!」
「…」
「っ!」
「…」
「…おと、おとうさんも、お母さんも、お姉ちゃんも居ない、こんなとこ、こんな世界。もう、やだ。帰りたい、帰りたいのに、ど、どうやったら帰れるのよ。…ねえ、何で?何でみんな居ないの?何で、私がこんなとこに一人、一人なの?ねえ、何で?何でよぉ…」
死を望んだ少女は救われ、救った男は泣き続ける少女を抱き締めた―
「…名前、何て言うの?」
「…ジーク」
「ふーん。…私は、『ミコト』。家族とか、友達には『ミコ』って呼ばれてたんだけど…。ジークは絶対に呼ばないで」
「…」
「絶対、『ミコト』って呼んでよ?」
「…わかった」
「あと、私のこと拾ったんだから、ちゃんと、責任持って連れてってよ?」
「…わかった」
「…うん」
魔物を狩り、瘴気蝕む世界を孤独に旅した男は、少女の連れを得る―
「ジークってさ、力強いよね」
「…」
「私を助けた時もそうだったけどさ、何で私を抱えたままで戦えるわけ?私、別に身長とか体重とか普通だと思うんだけど。何で、片手で持ち上げられるの?」
「…ミコトは軽い」
「ふーん?…まあ、今のはちょっといい気分だったかな?よし、ジークを私の従者にしてあげよう」
「…」
「何?何か、文句ある?」
「…無い」
男は、少女の従者となった―
「あ、おい、ボイス、それ」
「え?何?」
「聖紋。巫女様の、従者の証ってやつ?それ、消えかけてないか?」
「は?マジで?」
「本当。首んとこのが、薄くなってる」
「あー、マジかー。見えねぇけど、後で鏡で確認するわ」
「…大丈夫なのか?それ」
「んー?まあ、いいんじゃねぇ?俺、元々、貴人の従者やるような身分でもないし、つか、そもそも巫女様が既に居ねぇし?消えても、別に問題無いだろ?」
「ああ、やあ、まあ、そんなもん、か?」
「そうそう。実際、巫女様の従者なんて、肩書きばっかで、何も得しなかったしなー。我儘なガキのお守りやらされるだけで」
「…お前、仮にも巫女様相手に…」
「良いんだって。一人で城出てったらしいから、今頃どっかでくたばってるだろう?怒るやつなんていねぇよ」
「あ、消えた。聖紋、消えたぞ」
「お?マジか?現れたのも突然だったけど、消えるのも、」
「あ!?え!?おい!ボイス!?」
「…なん、か…からだが…」
「っ!待ってろ!医者!いや、その前に!部屋!部屋に運んでやっから!」
「…」
「ボイス!?ボイス!?」
その日、王都において最も瘴気に弱い男が死んだ―
「ジーク、美味しいもの食べたい。焼いた肉とか、焼いた魚とか、焼いた草?とかじゃなくて」
「…」
「え?ジーク!?待って!何処行くの!?待って、置いてかないで!」
「…直ぐ戻る。待ってろ」
「…」
「…遅い」
「…ジーク遅い」
「…ジーク遅い、ジークの馬鹿」
「遅い遅い遅い遅い遅い」
「…待たせた」
「…これ、何?」
「タプラの卵だ。サモ粉と合わせて焼く」
「焼いたら?どうなるの?」
「…」
「…あ、何かパンケーキっぽい?」
「…カルナの蜜をかければ、甘い」
「わぁ。ジーク、見た目に似合わないもの作るねー」
「…熱いぞ」
「!甘い!美味しい!」
「…そうか」
「ふふ。すごい、何か久しぶり、こういう味。…お姉ちゃんと失敗しまくった味。懐かしい」
「…」
「…ジークも、食べる?」
「いや、俺はいい」
「ふーん?美味しいのに…。…よし!今日からジークを私の専属シェフにしてあげよう!」
「…」
「なに?嫌なの?」
「…嫌、ではない」
男は、少女のシェフとなった―
「スラード料理長、ご機嫌だな」
「ああ。何でも、この前、王妃陛下にお出しした『プリン』が、陛下のお気に召したらしくてな。直接、お褒めの言葉を賜ったらしい」
「…『プリン』って、それ、お前、巫女様が…」
「…黙ってろよ?料理長、自分の考案にして、『プリン』に正妃陛下のお名前を戴くらしいから」
「…」
「まあ、陛下がお気に召すのも当然かもな。巫女様にお出しした時とは、素材の質が違う。わざわざ、メンケルから取り寄せたタプラの卵に、ヴールの乳、仕上げにカルナの蜜まで使ってたからさ」
「…巫女様にお出ししたのは、まあ、俺達でもちょっとなって、なったもんな」
「…巫女様は喜んでくれてたぞ?平民だって言ってたから、その辺、気にならなかったのかもしんねぇけど…」
「…」
「…」
「っ!?」
「っ!何だ!?デカイ音、何の!?」
「料理長!?」
「っ!大丈夫ですか!?」
「意識が無い!医者を!」
その日、王都において二番目に瘴気に弱い男が死んだ―
「…ジークってさ、家族、いるの?」
「…いや」
「ふーん。…彼女、とかは?」
「…」
「…いるの…?」
「…いや」
「ふーん?まあ、男は顔じゃないからさ、彼女いないくらい、別に気にする必要無いんじゃない?ジークの良さは、そういうんじゃなくて、何か、別のとこにあるっていうか、」
「…」
「まあ、背は高いし、筋肉もあるから、そういうの好きな女子って結構いると思うけど?頼りがい?わかんないけど、落ち着いてるって言うか、あ、そう言えば、ジークって何歳なの?」
「…二十八」
「はぁっ!?私より、十二も上!?オジサンじゃん!?」
「…」
「あ、いや、でも、別にオジサンが悪いってわけじゃ…枯れ専?とか、オジサンって地味にマニアックな人気あるし、十二歳の年の差夫婦だって普通にいるし、」
「…」
「だから、別に、ジークが無しってわけじゃないって言うか…」
「…」
「…」
「…」
「…ジークって、好きな人、いるの?」
「…いる」
「…………誰?」
「…ミコトが好きだ」
「っ!?はぁっ!?何よソレ!そんなこと、突然言わないでよね!最初に言いなさいよ!私、私が、っ!とにかく!そういうのはもっと早く言いなさいよ!」
「…好きだ」
「っ!?」
「…ミコトが、」
「もういい!もう、言わないで!」
「…」
「…まあ、私も別に、ジークのこと、嫌いじゃないし…、彼女になってあげても、いいけど…?」
「…ああ」
「ん…」
男は、少女の最愛となった―
「ランドルフ様!ランドルフ様!」
「…シエラ、すまない…」
「ランドルフ様!お気を確かに!シエラを!シエラを置いていかないで下さいまし!」
「…シエラ、君には多くの苦労をかけた…」
「苦労だなんて!そんな!」
「…厄災といい、巫女のことといい…。私が君を選んだばかりに、君は要らぬ苦労をすることになった」
「いいえ!いいえ!シエラは、ランドルフ様のお側に居られて幸せでした!」
「…私が、巫女を選んでいれば…、君を手放せていれば…」
「!」
「…だが、許せ、シエラ。私は、」
「っ!ランドルフ様!」
「…私は、君しか愛せなかった…」
「ランドルフ様!?ランドルフ様!ランドルフ様ー!!」
「…」
その日、王都において三番目に瘴気に弱い男が死んだ―
「ちょっと!?いきなり何なの!?」
「巫女様、お迎えにあがりました」
「はあっ!?何、今さらそんなこと言ってんの!?あんた達が私を要らないって言ったんでしょ!?出ていけって、好きにしろって言ったんじゃない!」
「…お許しを、巫女様」
「要らないわよ!口ばっかりの謝罪なんて!結局、頭下げて見せるだけで、あんた達、いっつも私のことなんて適当に流して、何にもしないじゃない!」
「…巫女様…」
「巫女って呼ぶな!私はあんた達の巫女なんかじゃない!許すつもりだって、全っ然無いから!どんなに謝られても意味ないし!さっさと帰って!」
「お帰り頂けないのであれば、致し方ありません。多少、手荒なまねをしても、お連れするようにとの命ですので…」
「!」
「…」
「…何だ、お前は?邪魔立てするつもりか?」
「ジーク、駄目。三対一とか、無理。…こいつら、聖騎士?とかいうの、スッゴく強いから」
「…」
「下がれ、下郎」
「…ジーク、下がって、お願い」
「…巫女様、巫女様の態度如何によっては、この者が怪我をすることになります」
「!」
「怪我で済めばいいですが、加減出来ねば、この者の命を奪ってしまうやも…」
「最っ低!あんた達!ホンッと最低!」
「…」
「ほう?やる気か?我ら聖騎士に刃を向けるとは、貴様、よほど死にたいと見える。…下賎の輩が、生意気な」
「っ!?うっさいわね!ジークを馬鹿にするのもいい加減にしなさいよね!下賎はそっちでしょ!ジークは騎士!私の騎士なんだから!」
「面白いことを仰る。…巫女様、貴女の騎士は、我ら聖騎士。さあ、ご一緒においで下さい…」
「っ!私に剣を向けるような奴らが、私の騎士なわけないじゃない!私の騎士はジーク!ジークだけよ!」
「…お戯れもいい加減に、っ!」
「…え?」
「…」
「ちょ、ちょっと、何の冗談。…止めてよ、何?何なの?」
「…ミコト、離れろ」
「え?でも、これ…」
「…事切れている、な」
「な、何で?…私、私、何も…」
「…ミコト、ミコト、大丈夫だ。お前のせいではない」
「…」
「…此処を、離れるぞ」
「…」
「…ミコト?」
「…消えてる」
「?」
「おでこの、お花みたいな模様。…聖紋だって言ってた。巫女のものだって印。…この人達と、あと、王様とか、何人か。…それが、消えてる」
「…」
その日、王都において四番目と、五番目と、六番目に瘴気に弱い男達が死んだ―
「…」
「…巫女様のご帰還に、心よりの感謝を申し上げます」
「…王様、死んだの?」
「…」
「…何か、聖騎士の人達も…」
「…ランドルフ様のお身体は、瘴気に蝕まれていたそうです…」
「…でも、皆は元気そうだし、何で王様だけ?」
「…瘴気への耐性が極端に低かったようでございます」
「あんなに元気そうだったのに…」
「…」
「…私は、どうすればいいの?」
「以前のように、王都にて、健やかにお過ごし頂ければ…」
「王都から出ちゃ駄目?この国からは出ないようにするから」
「…申し訳ありません、巫女様…」
「…わかった。しばらくは居てあげる。だけど、私、好き勝手するからね?邪魔しないで」
「…承知、致しました」
その日、少女は王都へ帰還した―
「…ジーク、私、本当はね、この国の人達のことなんて、どうでもいいの。だって、全然知らない人達だし。別に、知らない人達全員の心配出来るほど、私、優しくないし。むしろ、この国のこと、嫌い」
「…ミコト」
「…ジークが居ればいい。ジークさえ居てくれたら、他の人なんて、要らない」
「…」
男は、少女の唯一となった―
(終)
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