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第二章 ツンデレ天邪鬼といっしょ
4-2.
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4-2.
「もしもし…?」
ここ数年で一番の勇気を振り絞って、通話ボタンをタップした。一言呼び掛けてから相手の応答をうかがうが―
「…あの、鈴原ですけど…」
流れる沈黙に耐えきれずに、もう一度こちらから呼び掛けてみるが、やはり返る返事がない。一旦、耳元から離した端末の画面、そこに表示されている名前は、やはり桐生のもので、
「桐生さん?あの、何か用が…」
「…会いたい」
「っ!?」
いつもより、少しざらついた声。病み上がりのせいなのか、若干の違和感を感じるが、それよりも、重要なのは―
「あの、桐生さん…何て?」
「会いたい。すぐに来て」
「っ!?」
耳にした言葉が信じられずに、端末を思いっきり耳元から離す。画面を確認すれば、既に通話は切れた後。だけど、そこに数十秒の通話記録がしっかりと残されているから、現実逃避も出来なくて、
「…どうしよう…」
相手の意図が読めずに、戸惑う。彼らしくない―短い付き合いの中で断定は出来ないけれど―、俄には信じられない言葉、「会いたい」とはどういう―?
「!?」
そこで漸く思い至った可能性に青ざめた。
「熱、体調が悪化した、とか?」
だとしたら、呆けている場合ではない。私に頼らないといけないくらいに弱っているのだとしたら、一刻を争うのではないだろうか。
―だけど、
「…桐生さんち、場所がわからない」
それに、私が行ったところで、出来ることなんてたかが知れている。綾香の時に役立たずに終わったのは紛れもない事実。悩んだ末にもう一度スマホを取り出し、綾香の電話番号を呼び出した。
「はーい!もしもし?一花ちゃん、何かあった?」
「綾香さん!桐生さんが!」
ワンコールで出た相手に勢い込んで状況を説明すれば、返ってきたのは思いの外、落ち着いた声で、
「うーん、一昨日電話した時にはもう元気だって言ってたんだけどなー?念のため、昨日までは学校休むとは言ってたけど…」
「…じゃあ、」
「あー、私、今からバス乗って新幹線なんだよね。ごめん、住所メールするから、一応確認して、ヤバそうだったら救急車呼んでくれる?」
「わ、わかりました!」
通話を切った後、メールが届くのを待たずに、制服のまま鞄を引っ掻けて家を飛び出した。駅に向かう途中、届いたメールから、彼の家が同じ沿線上にあることを知って安堵する。電車に揺られる時間を焦れながらやり過ごし、たどり着いた住所にあった家は普通の一戸建てで。桐生のイメージから勝手に想像していた「古風な日本家屋」ということもない普通の佇まいに、些か拍子抜けした。
「…」
一瞬の躊躇いの後、表札の隣にあるインターホンを押す。確かにチャイムが鳴るのが聞こえて暫く待ったが、応答がない。熱でチャイムに出ることさえ出来ないのだろうか?
「…電話」
スマホを取り出して、コールをしてみる。もしこれでも反応が無ければ救急車を。そこまで覚悟したところで、呼び出し音が途切れた。
「桐生さん!大丈夫ですか?」
「…会いたい」
また―
同じ言葉を繰り返すだけの桐生、意識も怪しくなっているのかもしれないという不安が募る。
「あの、今、桐生さんちの前なんです」
「すぐに来て」
「え、でも鍵が」
開けっ放しということだろうか?勝手に玄関を開けることに抵抗はあるけれど、だけど、ここでこれ以上、躊躇うわけにはいかないから。
ドアノブに手を掛けた、瞬間―
「…鈴原?」
「っ!?」
気配もなく、背後から掛けられた声。
聞こえるはずのない人の声に、大きく肩が跳ねた。
「あんた、ここで何してる?」
「…そん、な…」
ギシギシと音が鳴りそうなぎこちない動きで、背後を振り返った。
「…なん、で…」
「?」
黒いコート。手にはコンビニの白い袋。
そこには、どう見ても買い物帰りの格好で立ち塞がる桐生が、心底不思議そうな顔でこちらを見下ろしていた。
「もしもし…?」
ここ数年で一番の勇気を振り絞って、通話ボタンをタップした。一言呼び掛けてから相手の応答をうかがうが―
「…あの、鈴原ですけど…」
流れる沈黙に耐えきれずに、もう一度こちらから呼び掛けてみるが、やはり返る返事がない。一旦、耳元から離した端末の画面、そこに表示されている名前は、やはり桐生のもので、
「桐生さん?あの、何か用が…」
「…会いたい」
「っ!?」
いつもより、少しざらついた声。病み上がりのせいなのか、若干の違和感を感じるが、それよりも、重要なのは―
「あの、桐生さん…何て?」
「会いたい。すぐに来て」
「っ!?」
耳にした言葉が信じられずに、端末を思いっきり耳元から離す。画面を確認すれば、既に通話は切れた後。だけど、そこに数十秒の通話記録がしっかりと残されているから、現実逃避も出来なくて、
「…どうしよう…」
相手の意図が読めずに、戸惑う。彼らしくない―短い付き合いの中で断定は出来ないけれど―、俄には信じられない言葉、「会いたい」とはどういう―?
「!?」
そこで漸く思い至った可能性に青ざめた。
「熱、体調が悪化した、とか?」
だとしたら、呆けている場合ではない。私に頼らないといけないくらいに弱っているのだとしたら、一刻を争うのではないだろうか。
―だけど、
「…桐生さんち、場所がわからない」
それに、私が行ったところで、出来ることなんてたかが知れている。綾香の時に役立たずに終わったのは紛れもない事実。悩んだ末にもう一度スマホを取り出し、綾香の電話番号を呼び出した。
「はーい!もしもし?一花ちゃん、何かあった?」
「綾香さん!桐生さんが!」
ワンコールで出た相手に勢い込んで状況を説明すれば、返ってきたのは思いの外、落ち着いた声で、
「うーん、一昨日電話した時にはもう元気だって言ってたんだけどなー?念のため、昨日までは学校休むとは言ってたけど…」
「…じゃあ、」
「あー、私、今からバス乗って新幹線なんだよね。ごめん、住所メールするから、一応確認して、ヤバそうだったら救急車呼んでくれる?」
「わ、わかりました!」
通話を切った後、メールが届くのを待たずに、制服のまま鞄を引っ掻けて家を飛び出した。駅に向かう途中、届いたメールから、彼の家が同じ沿線上にあることを知って安堵する。電車に揺られる時間を焦れながらやり過ごし、たどり着いた住所にあった家は普通の一戸建てで。桐生のイメージから勝手に想像していた「古風な日本家屋」ということもない普通の佇まいに、些か拍子抜けした。
「…」
一瞬の躊躇いの後、表札の隣にあるインターホンを押す。確かにチャイムが鳴るのが聞こえて暫く待ったが、応答がない。熱でチャイムに出ることさえ出来ないのだろうか?
「…電話」
スマホを取り出して、コールをしてみる。もしこれでも反応が無ければ救急車を。そこまで覚悟したところで、呼び出し音が途切れた。
「桐生さん!大丈夫ですか?」
「…会いたい」
また―
同じ言葉を繰り返すだけの桐生、意識も怪しくなっているのかもしれないという不安が募る。
「あの、今、桐生さんちの前なんです」
「すぐに来て」
「え、でも鍵が」
開けっ放しということだろうか?勝手に玄関を開けることに抵抗はあるけれど、だけど、ここでこれ以上、躊躇うわけにはいかないから。
ドアノブに手を掛けた、瞬間―
「…鈴原?」
「っ!?」
気配もなく、背後から掛けられた声。
聞こえるはずのない人の声に、大きく肩が跳ねた。
「あんた、ここで何してる?」
「…そん、な…」
ギシギシと音が鳴りそうなぎこちない動きで、背後を振り返った。
「…なん、で…」
「?」
黒いコート。手にはコンビニの白い袋。
そこには、どう見ても買い物帰りの格好で立ち塞がる桐生が、心底不思議そうな顔でこちらを見下ろしていた。
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