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第二章 ツンデレ天邪鬼といっしょ
4-1.
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4-1.
「あ…」
鞄から玄関の鍵を取り出そうとしたところで、その底に入れっぱなしの派手なビニール袋が目に入った。買ってからだいぶ日の経つ、本来の出番は数日前に過ぎてしまった、チョコレート。
「…結局、渡せなかった…」
贈るつもりだった相手とは、綾香の部屋で怒られたあの日から、結局、一度も顔を合わせていない。態々チョコレートのために呼び出すのも申し訳なく、そもそも、怒らせてしまった彼が呼び出しに応じてくれるかだってわからない。
謝罪も出来ないままグルグルしている内に、バレンタインも過ぎてしまい、今さらもう、本当に渡す機会なんて―
「あ!一花ちゃん!」
「?綾香さん…」
ちょうどエレベーターから降りてきたところらしい綾香が駆け寄ってくる。
「元気そうですね。もう、体調は?」
「完全回復!その節は、一花ちゃんには大変お世話になりました!メールでしかお礼言えてなかったから、会えて良かった!」
言葉通り、元気そうな綾香の様子にホッとする。
「あれ?一花ちゃん、何か元気ない?」
「え?」
「!?もしかして、私のインフルうつっちゃった!?うそ!どうしよう!?」
「あ、いえ、綾香さん、大丈夫です。うつってないですよ、元気です」
先ほどまで思い悩んでいたせいか、「元気がない」と指摘されてしまい、慌てた。そこまで、分かりやすく態度に出していたつもりはなかったのだが―
「…本当に?大丈夫?」
「はい」
「あー、良かった!オミにはバッチリうつっちゃったから、一花ちゃんもかと思って、焦っちゃった」
笑いながら軽くそう言う綾香の言葉に、聞き逃せない言葉を拾う。
「…桐生さん、うつっちゃったんですか?」
「そう!39℃越えの高熱でぶっ倒れちゃったんだよね!いやー、あれは申し訳なかった」
「…」
「オミが倒れて私も休んでた分、今は仕事が大忙しなんだよねー。私もこれから、ちょっと遠出しなくちゃいけなくて」
思い出したように自室の扉を開け始めた綾香の背に問いかける。
「…あの、大丈夫なんですか、桐生さん」
「あー、大丈夫、大丈夫。もう熱は下がったみたいだし、あの子、体力だけはあるからさ」
「…」
「気になる?」
「…いえ、そういうわけじゃ」
振り向いた綾香の瞳がキラキラ輝いていて、思わず言葉を濁した。
「ふふ。まあ、気になるならメールの一つでも送ってあげて?それだけでも、全然嬉しいだろうから」
「…」
泊まりがけの仕事に出るという綾香と廊下で別れ、一人になった部屋の中、またグルグルと考え出してしまったのはあの日のこと。彼の言葉、私の態度―
「…態度、悪かった、よね…」
冷静に考えて、私のためだったと思える言葉たち。それに反発して、拗ねて、背を向けた―
「…せめて、謝罪だけでも…」
メールをしておこう。それでどこまで許されるかはわからないけれど。「体調はどうですか」の一言を添えて。
「イチカ、イチカ!だれにお手紙したの?シロの知ってる人?」
「…桐生さんに、だよ」
「おへんじ待ってるの?」
「ううん、お返事は、どうだろう?仲直り、っていうか、ごめんなさいってお手紙したんだ」
本当はちゃんと顔を合わせて言うべきなのだろうが、
「…イチカ、キリュウに会いたいなの?」
「んー、そう、だね。でも、会う勇気がね。なかなか…」
「じゃあ、シロも!シロもテンちゃんにお手紙するのよ!」
「?」
言うやいなや、尻尾の先から数本の毛を引き抜いたシロ。驚く間も無く、何かを唱えたシロがそれを空中に投げれば、
「消えた…?…シロちゃん、『テンちゃん』って、あの天邪鬼のことだよね?」
「そうなの!」
元気いっぱいに答えるシロ。今のが「手紙」を送る術、連絡手段のようなものなのかと感心していると、ふいにスマホから「着信」を報せる音が鳴った。
少し緊張しながら着信画面を確認して、固まる。
「…桐生、さん?」
「あ…」
鞄から玄関の鍵を取り出そうとしたところで、その底に入れっぱなしの派手なビニール袋が目に入った。買ってからだいぶ日の経つ、本来の出番は数日前に過ぎてしまった、チョコレート。
「…結局、渡せなかった…」
贈るつもりだった相手とは、綾香の部屋で怒られたあの日から、結局、一度も顔を合わせていない。態々チョコレートのために呼び出すのも申し訳なく、そもそも、怒らせてしまった彼が呼び出しに応じてくれるかだってわからない。
謝罪も出来ないままグルグルしている内に、バレンタインも過ぎてしまい、今さらもう、本当に渡す機会なんて―
「あ!一花ちゃん!」
「?綾香さん…」
ちょうどエレベーターから降りてきたところらしい綾香が駆け寄ってくる。
「元気そうですね。もう、体調は?」
「完全回復!その節は、一花ちゃんには大変お世話になりました!メールでしかお礼言えてなかったから、会えて良かった!」
言葉通り、元気そうな綾香の様子にホッとする。
「あれ?一花ちゃん、何か元気ない?」
「え?」
「!?もしかして、私のインフルうつっちゃった!?うそ!どうしよう!?」
「あ、いえ、綾香さん、大丈夫です。うつってないですよ、元気です」
先ほどまで思い悩んでいたせいか、「元気がない」と指摘されてしまい、慌てた。そこまで、分かりやすく態度に出していたつもりはなかったのだが―
「…本当に?大丈夫?」
「はい」
「あー、良かった!オミにはバッチリうつっちゃったから、一花ちゃんもかと思って、焦っちゃった」
笑いながら軽くそう言う綾香の言葉に、聞き逃せない言葉を拾う。
「…桐生さん、うつっちゃったんですか?」
「そう!39℃越えの高熱でぶっ倒れちゃったんだよね!いやー、あれは申し訳なかった」
「…」
「オミが倒れて私も休んでた分、今は仕事が大忙しなんだよねー。私もこれから、ちょっと遠出しなくちゃいけなくて」
思い出したように自室の扉を開け始めた綾香の背に問いかける。
「…あの、大丈夫なんですか、桐生さん」
「あー、大丈夫、大丈夫。もう熱は下がったみたいだし、あの子、体力だけはあるからさ」
「…」
「気になる?」
「…いえ、そういうわけじゃ」
振り向いた綾香の瞳がキラキラ輝いていて、思わず言葉を濁した。
「ふふ。まあ、気になるならメールの一つでも送ってあげて?それだけでも、全然嬉しいだろうから」
「…」
泊まりがけの仕事に出るという綾香と廊下で別れ、一人になった部屋の中、またグルグルと考え出してしまったのはあの日のこと。彼の言葉、私の態度―
「…態度、悪かった、よね…」
冷静に考えて、私のためだったと思える言葉たち。それに反発して、拗ねて、背を向けた―
「…せめて、謝罪だけでも…」
メールをしておこう。それでどこまで許されるかはわからないけれど。「体調はどうですか」の一言を添えて。
「イチカ、イチカ!だれにお手紙したの?シロの知ってる人?」
「…桐生さんに、だよ」
「おへんじ待ってるの?」
「ううん、お返事は、どうだろう?仲直り、っていうか、ごめんなさいってお手紙したんだ」
本当はちゃんと顔を合わせて言うべきなのだろうが、
「…イチカ、キリュウに会いたいなの?」
「んー、そう、だね。でも、会う勇気がね。なかなか…」
「じゃあ、シロも!シロもテンちゃんにお手紙するのよ!」
「?」
言うやいなや、尻尾の先から数本の毛を引き抜いたシロ。驚く間も無く、何かを唱えたシロがそれを空中に投げれば、
「消えた…?…シロちゃん、『テンちゃん』って、あの天邪鬼のことだよね?」
「そうなの!」
元気いっぱいに答えるシロ。今のが「手紙」を送る術、連絡手段のようなものなのかと感心していると、ふいにスマホから「着信」を報せる音が鳴った。
少し緊張しながら着信画面を確認して、固まる。
「…桐生、さん?」
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