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第二章 ツンデレ天邪鬼といっしょ
3-3.
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3-3.
「っ!」
どれくらいの時間、踞っていたのだろう。玄関の鍵が回る音にハッとする。立ち上がり、玄関までの短い距離を急ぐ。開いた扉の向こう、待ち望んだ人の姿に心から安堵して、声を掛けようとしたのだが、
「っ!」
こちらを認識した彼の顔が瞬時に強張るのがわかり、言葉が出てこなくなった。
「…あんた、未だ居たのか」
「あ、ごめんなさい。でも、」
「俺は『帰れ』と言ったよな?」
「っ!?」
桐生の硬い口調、怒りの滲む眼差しに、体が震えた。
「…まったく、何を考えてるんだ、あんた…」
「その、綾香さんの熱が、すごく高くて、不安だったから…」
「アイツもいい年した大人なんだから、少しの間放っておくくらい問題ない。それくらいわかるだろう?」
「そう、かも、ですけど…でも、もし…」
「はぁ、もういい。さっさと帰れ」
「っ!」
言いかけた言葉を遮られた。聞く耳なんて持たないという桐生の態度に、それまで我慢していたもの、一人で、恐くて、どうすればいいかわからずに、ただ待つしか無かった自分への悔しさが一気に膨らんで、
「桐生さんだって!」
「…」
「遅すぎる!桐生さんがもっと早く帰ってきてくれれば!」
こんなに恐い思いをすることなんてなかった―
「…仕事中だったんだ」
「だからって!」
「っ!目の前で幽鬼に食い殺されそうな人間を放って置くわけにいかないだろうが!?」
「っ!?」
それは、その通りで、反論なんてする余地も無い程に正論だけど―
正論過ぎて、八つ当たりでしかない自分の態度に泣きたくなる。
「…大体、あんた、今週末試験だろう?」
「え?」
呟くように桐生が口にした最後の言葉の意味がわからずに顔を上げるが、彼の視線は逸らされたまま。言葉の意味を確かめていいものかどうか戸惑っていると、横から袖を引かれた。
「シロ?」
「イチカ!イチカ!ケンカはダメなのよ?」
「…別に、喧嘩じゃあ…」
ない―
ただ、私が怒られただけ。それに、八つ当たりで返してしまっただけで―
「…」
「ダメなのよ!イチカとキリュウは仲良しじゃないと、ダメなの!」
必死に「喧嘩」を止めようとしてくれるシロ。こんな小さい子にまで心配をかけて、自分は何をしているのだろうと思う。しかも、隣の部屋では綾香が熱で苦しんでいるままだというのに。
「…すみません、帰ります」
「…」
「綾香さん、早く病院に連れていってあげて下さい。一時間くらい前から熱が39.5℃あります」
「…わかった」
桐生に頭を下げ、目を合わせないように背を向けた。今は、子どもみたいに駄々をこねた自分が恥ずかしくてたまらない。背中に注がれる視線を感じたまま、逃げるように綾香の部屋を後にした。
「っ!」
どれくらいの時間、踞っていたのだろう。玄関の鍵が回る音にハッとする。立ち上がり、玄関までの短い距離を急ぐ。開いた扉の向こう、待ち望んだ人の姿に心から安堵して、声を掛けようとしたのだが、
「っ!」
こちらを認識した彼の顔が瞬時に強張るのがわかり、言葉が出てこなくなった。
「…あんた、未だ居たのか」
「あ、ごめんなさい。でも、」
「俺は『帰れ』と言ったよな?」
「っ!?」
桐生の硬い口調、怒りの滲む眼差しに、体が震えた。
「…まったく、何を考えてるんだ、あんた…」
「その、綾香さんの熱が、すごく高くて、不安だったから…」
「アイツもいい年した大人なんだから、少しの間放っておくくらい問題ない。それくらいわかるだろう?」
「そう、かも、ですけど…でも、もし…」
「はぁ、もういい。さっさと帰れ」
「っ!」
言いかけた言葉を遮られた。聞く耳なんて持たないという桐生の態度に、それまで我慢していたもの、一人で、恐くて、どうすればいいかわからずに、ただ待つしか無かった自分への悔しさが一気に膨らんで、
「桐生さんだって!」
「…」
「遅すぎる!桐生さんがもっと早く帰ってきてくれれば!」
こんなに恐い思いをすることなんてなかった―
「…仕事中だったんだ」
「だからって!」
「っ!目の前で幽鬼に食い殺されそうな人間を放って置くわけにいかないだろうが!?」
「っ!?」
それは、その通りで、反論なんてする余地も無い程に正論だけど―
正論過ぎて、八つ当たりでしかない自分の態度に泣きたくなる。
「…大体、あんた、今週末試験だろう?」
「え?」
呟くように桐生が口にした最後の言葉の意味がわからずに顔を上げるが、彼の視線は逸らされたまま。言葉の意味を確かめていいものかどうか戸惑っていると、横から袖を引かれた。
「シロ?」
「イチカ!イチカ!ケンカはダメなのよ?」
「…別に、喧嘩じゃあ…」
ない―
ただ、私が怒られただけ。それに、八つ当たりで返してしまっただけで―
「…」
「ダメなのよ!イチカとキリュウは仲良しじゃないと、ダメなの!」
必死に「喧嘩」を止めようとしてくれるシロ。こんな小さい子にまで心配をかけて、自分は何をしているのだろうと思う。しかも、隣の部屋では綾香が熱で苦しんでいるままだというのに。
「…すみません、帰ります」
「…」
「綾香さん、早く病院に連れていってあげて下さい。一時間くらい前から熱が39.5℃あります」
「…わかった」
桐生に頭を下げ、目を合わせないように背を向けた。今は、子どもみたいに駄々をこねた自分が恥ずかしくてたまらない。背中に注がれる視線を感じたまま、逃げるように綾香の部屋を後にした。
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