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第二章 ツンデレ天邪鬼といっしょ

3-1.

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3-1.

「…私、何やってんのかな?」

「?」

放課後、校舎裏に面した二階の窓、頬杖をついて見下ろす光景を眺めながら呟いてみる。

「イチカは、『ミズホをみまもってる』のよ?イチカが言ってたの」

「うっ。そうだね、何か本当に自分でもただの覗き見にしか思えないんだけど、一応、そうだよね」

ニッコリ笑って答えてくれたシロの言葉に、何故か余計に追い詰められた気分になって、視線を窓の向こうの光景、一組の男女の姿に戻した。

視線の先では、名島を呼び出した瑞穂が、今まさにバレンタインのチョコレートを手渡すところで、顔を真っ赤に染めている彼女の姿が見える。

流石に抵抗があったから、声までは聞こえない距離、だから、彼女が何と言っているのかはわからないけれど―

「あ!」

思わず、身を乗り出した。見えたのは、瑞穂の頭の上、またあの小さな姿。次の瞬間には、瑞穂に刺さったハートの尻尾。途端、瑞穂が、表情を変えて、

「っ!ケンカになっちゃった。止めにいかないと」

遠目にも明らかな険悪な雰囲気。どうすればいいかなんてわからないけれど、何とかしなくてはと焦る。

「イチカ、イチカ、大丈夫なのよ!」

「シロちゃん?」

駆け出そうとしたところで、シロに止められる。その顔は先ほど同様、楽しそうに微笑んでいて、

「テンちゃんが言ってたのよ?二人は『そうしそうあい』で『らぶらぶ』だから、うまくいくの!」

「シロちゃん、そんな言葉どこで…って言うか、『テンちゃん』って?」

「『テンちゃん』なのよ?」

フヨフヨ漂って、窓の外を差したシロの指先を追えば、

「…ひょっとして、『天邪鬼』のこと?あ、尻尾、抜けたみたいだね」

瑞穂の頭の上から離れた天邪鬼が、―本当に、何がそんなに可笑しいのか―笑いながらクルクルと回っている。

「え?あれ?」

その下で、先ほどまであれ程険悪だったはずの二人が、何故か頬を染めあっていて、

「…上手くいったの?かな?」

「テンちゃんは、『こいするおとめ』のみかたなの!チクッした後は、みんな『とってもすなお』になっちゃうのよ!」

「…」

何故か誇らしげに胸を張るシロは可愛いが、何が一体どうなったのか。それでも、まあ、二人が上手くいったのなら、と思っていると、こちらを見上げた瑞穂がブンブンと大きく手を振りだした。

「あー。名島くん、びっくりしてる。そりゃそうだよね」

まさか、こんなところから見られていたとは彼も思わなかっただろうから。遠目に目があった彼に精一杯頭を下げて、手を合わせれば、苦笑が返ってきた。

そのままこちらにやって来そうな瑞穂には、腕で大きくバッテンを作って手を振った。

これ以上無粋にはなりたくないし、瑞穂には出来れば、

「…名島くんに、ちゃんと言い訳しといて欲しい」

明日、事情を説明して謝るつもりだが、その前に少しでも彼の心象をよくして貰えれば。

歩き出した二人の背中を見送って、日が暮れ出した窓の外に背を向ける。

「さて。シロちゃん、私達も帰ろうか?」

声をかけて辺りを見回すが、肝心のシロの姿が見えない。もう一度、窓の外に視線を向ければ、いつの間に仲良くなったのか、天邪鬼とジャレ合うシロの姿が見えた。

「…」

こうして見ると天邪鬼もシロとそう変わらない、可愛い女の子に見えてしまうから不思議だ。

桐生が放っておくしかないと言うからには、本当に、危険な存在ではないのだろう。今回の件も、結果として何事もなかった―むしろ良い結果に落ち着いた―のだから、私が心配し過ぎてジタバタする必要は全くなかったわけだ。

結局―

「…私の、空回り?」

口にすると余計に凹む。更に言えば、その空回りに桐生まで巻き込んでしまっているのだから―

「…チョコ、お礼、お詫びに、なるかな…」

受け取って貰えるか、その前に、自分が渡せるかの自信もないチョコレートは、あの日から鞄に入ったままでいる。




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