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第二章 ツンデレ天邪鬼といっしょ

2-3. Side K

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2-3.

何を言い合っているのかまでは分からない距離―

遠目に、ジャレ合いながら店先の商品を選ぶ少女達を目で追う。先ほどの男達が彼女達に近寄ってくることはないか、牽制しながら―

「…」

初めは、彼女の友人なのだろうと思った。気安く声を掛けることが出来る、同年代の男友達。

それが、不快だった―

自分よりもかなり年下で、自分よりもずっと彼女に近い存在。

けれど、直ぐに感じた違和感。背後からでは表情までは窺えなかったものの、それでもここ最近で見慣れた彼女の背中が、緊張から強張るのがわかった。それに何より、キツネが―彼女が「シロ」と呼ぶ妖狐が―毛を逆立て男達を威嚇していたから。

だから、判断した。ヤツラを排除する、と。なのに、

―大丈夫

またか、と思った。複数人を相手に、緊張で畏縮してしまっている、それのどこが「大丈夫」なのか、と―

牽制と彼女への苛立ちから、彼女の言葉を無視して乗り込んで、彼女の名前を呼んだ。

だけど結局、

「くそ…」

振り向いた彼女が、あんな顔を見せるから。

一瞬の驚き、それから、あまりにもあからさまな「安堵」の表情。こちらが、自惚れてしまうくらいに―

「…くそっ」

見惚れた表情に思考が止まって、吐き出すつもりだった彼女への苦言も、男達への牽制も、何もかもが頭から吹っ飛んだ。

結局、突っ立っていただけ、何も出来なかった自分にムカついて、ついでに、助けられる形になってしまったあの鬼の幼体も気にくわないでいる。

それが、完全な八つ当たりだということも自覚しているから、ますます自分の情けなさに腹が立つ悪循環―

「…」

こんなに、何もかも上手くいかないと感じることなんて今まで無かった。生まれて初めて感じる無力感、口から漏れた溜め息には、多分に自嘲が含まれていた。




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