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第一章 純真妖狐(?)といっしょ
7-2.
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7-2.
「さて!じゃあ、今さらなんだけど、改めて自己紹介するね!」
「…はい」
ようやくたどり着いた自分の部屋、羞恥の極みだった状態から解放されて人心地つくかと思いきや、今度は、自分の部屋に男の人が居るという慣れない状況に落ち着かない。
しかも―視界に入れないようにはしているけれど―その相手からずっと向けられている視線。気づかない振りをして、必死にやりすごすしかなくて―
「オミ!本当、もう、いい加減にしなさいよ!一花ちゃんを見すぎ!」
「…そうか?」
「現在進行形でガン見してんでしょ!こっち向いて!私の話を聞きなさい!」
綾香の叱責に、ようやく離れていく視線。止めてくれた彼女に感謝の視線を向ければ、必死に頭を下げられた。
「ごめん、本当、ごめんね、一花ちゃん。普段はこんなやつじゃないんだけど、今日は本当、なんだろう、気持ち悪いやつで、ごめん!」
「いえ、気持ち悪いとかじゃ!大丈夫です!」
確かに見られることに気恥ずかしさはあるけれど、嫌悪を感じているわけではない。それに何より、彼は間違いなく私とシロの命の恩人だから。
「…お名前、聞いてもいいですか?」
「桐生和臣、大学三年、綾香とは従姉同弟士だ」
「…大学、晴学生、なんですよね?」
一度大学でも遭遇しているから、それは確かなはず。だけどそれでは、彼が刀を持っていることや化け物を倒したことへの説明がつかない。足りないその先の情報を知りたくて、彼の言葉を待った。
「家が…いや、母方の血筋が、ちょっと特殊で、それ系の仕事を手伝ってる」
「…特殊?」
想像がつかずに聞き返した問い。それに答えてくれたのは綾香で、
「うちの父とオミの母親が兄妹なんだけど、『山藤』の家は代々『幽鬼』っていう化け物と戦ってるの。オミはそのお手伝い」
「『ユウキ』…?」
「そう!さっき、一花ちゃん達を襲ったやつ!人間を襲って食べる化け物。ああいう奴らのことを私達は『幽鬼』って呼んでるの」
聞き慣れない「幽鬼」という言葉に、一つだけ、どうしても確認しておきたいことがあった。
「あれは、お化けとか…『妖怪』とは違うんですか?」
「うん、全くの別物だよ」
「…あの、じゃあ、シロのことを捕まえたり、その、斬ったりは…」
「しない!しない!」
勢いよく首を振る綾香、
「『シロ』って、一花ちゃんに憑いてる『妖狐』のことでしょ?私達、妖怪とは協力関係にあるし、保護の対象でもあるから」
「…」
キッパリと否定する綾香の言葉に安堵して、では何故、桐生がシロを襲っていたのかがわからなくなる。答えを求めて彼に視線を向けるが、その表情からは何も窺えない。恐る恐る、口を開いた。
「…初めて会ったとき、シロが、『友達を桐生さんに殺された』って言ってて…」
「…」
「あの!でも、その『友達』がさっきの『幽鬼』?だったことも、今はわかってるんです。だからきっと、その、桐生さんに…」
殺された―
日常ではまず口にすることの無い言葉。その不穏さに言い淀んでしまう。
気まずさから俯けば、頭上から聞こえる声、
「…さっきの幽鬼は『誘引型』というやつで、離れた場所から誘引突起や幻覚を使って『餌』を誘き寄せる」
「…」
「あの日、俺が討伐任務で斬ったのは、あいつが変化させていた『誘引突起』だけだった。キツネに邪魔されたせいで本体の方は取り逃がしてしまったからな」
「…」
では、その後シロに刃物を突きつけていたのは何故なのか。邪魔したことへの腹いせ、だった―?
「…通常、『幽鬼』や『妖怪』は人の目には見えないし、触れることも出来ない。俺たちも、補助道具を使って幽鬼と闘っている」
「一花ちゃんと駅出た後、私がアイツの存在に気付いたでしょ?あれもそういう道具のおかげなの。私の場合は感知出来るだけで、『見る』ことは出来ないんだけどね?」
補足してくれる綾香の言葉に頷いた。
「…俺の場合、『見る』のも『触れる』のも、この太刀を介してになる」
「それじゃあ…」
彼がシロの着物に刃を突き立てていたのも、抜き身の刀で待ち伏せされたのも―
「…あの時、キツネは保護するつもりだった」
「…」
桐生の言葉に、胸の内にジワジワと広がる思い―
「一度見失えば、キツネをまた見つけ出すことは難しい。言葉も通じない以上、捕まえておくにはああしておくしかなかった」
「…」
彼の凪いだ眼差しと言葉に、一気に体の力が抜ける。流石にへたりこむことはなかったけれど、許されるならベッドに倒れこみたいくらいだ。
―良かった…
心からの安堵。
シロが襲われることを、命を奪われることを案じていたけれど、その危険が無いことに。彼が警戒すべき敵ではなく、シロを守ろうとしてくれた味方であることに―
「っあの!すみません、今まで。色々誤解して、失礼な態度をとってしまって!」
「いや…」
「それは仕方ないよ!一花ちゃんは全然悪くないからね?こっちの仕事の性質上、機密扱いで詳しい説明も出来なかったし」
擁護してくれた綾香が、困ったように笑う。
「その辺の詳しいことは、私達が勝手に話せないんだ。この後、悠司さんが説明してくれるから、」
「『ユウジさん』って、あの、アロハの人ですか?」
「…あんた、俺のことアロハの人って呼んでんのか?」
「っ!?」
不意打ちで背後から聞こえた声に、肩が跳ねた。
「すみません!」
勢いよく振り返り、必死に言い訳する。
「あの、お名前を知らなくて!それで!」
「ん?俺、名乗ってなかったか?」
いつの間に部屋に入ってきていたのか。物音も気配も感じなかった男が、玄関で靴を脱ぎ始める。
「『冴木悠司』、よろしくな。一応、こいつらの上司ってか、俺んとこが本家で、綾香んとこがうちの分家っていう関係だな」
失態をそれ以上責めることはなく自己紹介する男の言葉に、何度も頷く。
「まぁ、あんたにはその辺、ちゃんと説明しとかないといけなくなっちまったからなー。まだもう少し、付き合ってもらえるか?」
「さて!じゃあ、今さらなんだけど、改めて自己紹介するね!」
「…はい」
ようやくたどり着いた自分の部屋、羞恥の極みだった状態から解放されて人心地つくかと思いきや、今度は、自分の部屋に男の人が居るという慣れない状況に落ち着かない。
しかも―視界に入れないようにはしているけれど―その相手からずっと向けられている視線。気づかない振りをして、必死にやりすごすしかなくて―
「オミ!本当、もう、いい加減にしなさいよ!一花ちゃんを見すぎ!」
「…そうか?」
「現在進行形でガン見してんでしょ!こっち向いて!私の話を聞きなさい!」
綾香の叱責に、ようやく離れていく視線。止めてくれた彼女に感謝の視線を向ければ、必死に頭を下げられた。
「ごめん、本当、ごめんね、一花ちゃん。普段はこんなやつじゃないんだけど、今日は本当、なんだろう、気持ち悪いやつで、ごめん!」
「いえ、気持ち悪いとかじゃ!大丈夫です!」
確かに見られることに気恥ずかしさはあるけれど、嫌悪を感じているわけではない。それに何より、彼は間違いなく私とシロの命の恩人だから。
「…お名前、聞いてもいいですか?」
「桐生和臣、大学三年、綾香とは従姉同弟士だ」
「…大学、晴学生、なんですよね?」
一度大学でも遭遇しているから、それは確かなはず。だけどそれでは、彼が刀を持っていることや化け物を倒したことへの説明がつかない。足りないその先の情報を知りたくて、彼の言葉を待った。
「家が…いや、母方の血筋が、ちょっと特殊で、それ系の仕事を手伝ってる」
「…特殊?」
想像がつかずに聞き返した問い。それに答えてくれたのは綾香で、
「うちの父とオミの母親が兄妹なんだけど、『山藤』の家は代々『幽鬼』っていう化け物と戦ってるの。オミはそのお手伝い」
「『ユウキ』…?」
「そう!さっき、一花ちゃん達を襲ったやつ!人間を襲って食べる化け物。ああいう奴らのことを私達は『幽鬼』って呼んでるの」
聞き慣れない「幽鬼」という言葉に、一つだけ、どうしても確認しておきたいことがあった。
「あれは、お化けとか…『妖怪』とは違うんですか?」
「うん、全くの別物だよ」
「…あの、じゃあ、シロのことを捕まえたり、その、斬ったりは…」
「しない!しない!」
勢いよく首を振る綾香、
「『シロ』って、一花ちゃんに憑いてる『妖狐』のことでしょ?私達、妖怪とは協力関係にあるし、保護の対象でもあるから」
「…」
キッパリと否定する綾香の言葉に安堵して、では何故、桐生がシロを襲っていたのかがわからなくなる。答えを求めて彼に視線を向けるが、その表情からは何も窺えない。恐る恐る、口を開いた。
「…初めて会ったとき、シロが、『友達を桐生さんに殺された』って言ってて…」
「…」
「あの!でも、その『友達』がさっきの『幽鬼』?だったことも、今はわかってるんです。だからきっと、その、桐生さんに…」
殺された―
日常ではまず口にすることの無い言葉。その不穏さに言い淀んでしまう。
気まずさから俯けば、頭上から聞こえる声、
「…さっきの幽鬼は『誘引型』というやつで、離れた場所から誘引突起や幻覚を使って『餌』を誘き寄せる」
「…」
「あの日、俺が討伐任務で斬ったのは、あいつが変化させていた『誘引突起』だけだった。キツネに邪魔されたせいで本体の方は取り逃がしてしまったからな」
「…」
では、その後シロに刃物を突きつけていたのは何故なのか。邪魔したことへの腹いせ、だった―?
「…通常、『幽鬼』や『妖怪』は人の目には見えないし、触れることも出来ない。俺たちも、補助道具を使って幽鬼と闘っている」
「一花ちゃんと駅出た後、私がアイツの存在に気付いたでしょ?あれもそういう道具のおかげなの。私の場合は感知出来るだけで、『見る』ことは出来ないんだけどね?」
補足してくれる綾香の言葉に頷いた。
「…俺の場合、『見る』のも『触れる』のも、この太刀を介してになる」
「それじゃあ…」
彼がシロの着物に刃を突き立てていたのも、抜き身の刀で待ち伏せされたのも―
「…あの時、キツネは保護するつもりだった」
「…」
桐生の言葉に、胸の内にジワジワと広がる思い―
「一度見失えば、キツネをまた見つけ出すことは難しい。言葉も通じない以上、捕まえておくにはああしておくしかなかった」
「…」
彼の凪いだ眼差しと言葉に、一気に体の力が抜ける。流石にへたりこむことはなかったけれど、許されるならベッドに倒れこみたいくらいだ。
―良かった…
心からの安堵。
シロが襲われることを、命を奪われることを案じていたけれど、その危険が無いことに。彼が警戒すべき敵ではなく、シロを守ろうとしてくれた味方であることに―
「っあの!すみません、今まで。色々誤解して、失礼な態度をとってしまって!」
「いや…」
「それは仕方ないよ!一花ちゃんは全然悪くないからね?こっちの仕事の性質上、機密扱いで詳しい説明も出来なかったし」
擁護してくれた綾香が、困ったように笑う。
「その辺の詳しいことは、私達が勝手に話せないんだ。この後、悠司さんが説明してくれるから、」
「『ユウジさん』って、あの、アロハの人ですか?」
「…あんた、俺のことアロハの人って呼んでんのか?」
「っ!?」
不意打ちで背後から聞こえた声に、肩が跳ねた。
「すみません!」
勢いよく振り返り、必死に言い訳する。
「あの、お名前を知らなくて!それで!」
「ん?俺、名乗ってなかったか?」
いつの間に部屋に入ってきていたのか。物音も気配も感じなかった男が、玄関で靴を脱ぎ始める。
「『冴木悠司』、よろしくな。一応、こいつらの上司ってか、俺んとこが本家で、綾香んとこがうちの分家っていう関係だな」
失態をそれ以上責めることはなく自己紹介する男の言葉に、何度も頷く。
「まぁ、あんたにはその辺、ちゃんと説明しとかないといけなくなっちまったからなー。まだもう少し、付き合ってもらえるか?」
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