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第一章 純真妖狐(?)といっしょ

7-1. Side K

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7-1.

「…」

「…あの、」

「何?」

腕の中、大人しく収まる少女とようやく目が合った。が、未だ他所他所しい彼女との距離に、焦れる―

「えっと、私、重いですよね。もう降ろしてもらっても大丈夫だと思うので…」

「…このままの方が、てっとり早い」

「え?」

戸惑いの表情、それでもこちらに向けられたままの彼女の顔を眺めていれば、横から聞こえた咳払い―

「てか、オミが見すぎなのよ。そんなにジロジロ見られてたら、そりゃ一花ちゃんだって居心地悪いに決まってるでしょ!」

「…」

言い切った綾香の言葉。それが的を得ているのか確かめるため、再び、彼女に視線を向けた。

「…」

「…」

腕の中、さっきよりも縮こまってしまった彼女の伏せられた顔。その耳までが真っ赤に染まっていることがわかって、

「…腕、首にまわして」

「え?首?え?」

驚いた彼女が反射的に顔を上げた。合った視線を真正面に捕らえる―

「重くは無いけど、抱えにくい。俺の首に、腕まわして」

「!?む、無理です!降ります!!」

再び抵抗し始めた体を、強く抱き締める。

「…『男子禁制』」

「…?」

「…俺が部屋まで送ってくのに理由がいる」

「…」

それだけで、こちらの言葉を理解したらしい彼女が抵抗をやめた。

「このまま…受付で『怪我人を送ってきた』って言い訳できるからな」

嘘ではない言葉に、綾香の援護が入る。

「一応、オミは本当に私の身内ではあるんだけど、それでも理由なくマンション内に立ち入れないんだよね。…一花ちゃん、ごめん!」

「…」

手を合わせる綾香、その姿を目を見開いて眺める彼女の表情がくるくると変わって、

「…わかり、ました」

「ありがとう、一花ちゃん!もうちょっとの辛抱だからね!」

頷く彼女の視線が一瞬だけこちらに向けられ―だけど直ぐに―逸らされた。

「…」

―もう一度、笑わないだろうか?

先ほど彼女が見せた笑み。恐らくは、未だ彼女の手の中に居る怪異に向けられたソレを、今度は俺に向かって―

だけど、視線すら合わない現状、それを望むべくもないから―

「…腕、まわして」

「…」

しつこく促せば、今度はおずおずと伸ばされてきた腕が自身の首にかけられた。

ぐっと近くなった彼女との距離、感じる熱。今はそれに満足しておくことにする―




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