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第一章 純真妖狐(?)といっしょ

6-1.

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6-1.

「やっほー、一花ちゃん!いま帰り?」

「綾香さん」

学校からの帰り道、電車を降りた駅で声を掛けてきたのは、ここ最近で何度も耳にした声で、

「今日も、帰りが一緒になりましたね」

「だね。仕事、って言ってもバイト、かな?それの関係で、最近はこの時間に帰ってるんだー」

「暗くなるのが早いから、綾香さんと一緒に帰れるのは嬉しいです」

自然、並び合って帰途につく。交わす雑談は主に彼女の大学生活のことで、話し手の会話運びの面白さに何度も声を上げて笑ってしまう。微笑む綾香と目が合って、

「…一花ちゃん、元気になってきたみたいで良かった」

「…『元気』、ですか?」

「うん。一週間前、最初に帰りが一緒になったときは、何だか辛そうな顔してたから」

「…」

一週間前、あの男の「忠告」だと言う言葉に落ち込んでいた時のことだろう。あの時は、言い返した程には自分のやっていることに自信が無かったから―

「…ちょっと、迷ってたことがあるんですけど、でも結局、今は自分のやりたいようにやるしかないかなーって、結論を先送りにすることにしたと言うか…」

「うんうん、いいんじゃない?悩むにしても、落ち込んでたらいい答えも浮かばないだろうから、ね?」

「はい」

楽観的に言ってのける―この明るさに、ここ数日ずっと助けられたのは間違いない―彼女の言葉に、また笑う。

瞬間―

「っ!!」

「…綾香さん?」

先ほどまでの柔らかさが消え去り、険しい表情を見せる綾香の様子に動揺する。

一体、何が―?

それを尋ねる間もなく、彼女に腕をとられた。

「…一花ちゃん、ちょっと止まって」

「…」

言われるまま足を止めれば、綾香がスマホを取り出してどこかへ電話をかけ始めた。

「…今、どこ?…石が鳴ってるの、直ぐに来て」

「…」

たったそれだけ、こちらの居場所も告げずに綾香が再びこちらを振り向いて、

「…一花ちゃん、後でちゃんと説明するから、今は私の言うことを聞いてくれる?」

「綾香さん…?」

「ごめんね、だけど、お願い」

「…はい」

訳のわからないまま、それでも、切羽詰まった様子の綾香の言葉に頷いた。腕をとられて歩き出す。向かうのは―

「…ちょっと、危ないやつにつけられてるっぽいんだよね」

「っ!?」

「助けを呼んだから、合流したいの。ついてきてくれる?」

「…」

「かなり怪しいこと言ってるのはわかってるんだけど、ソイツを連れて人がたくさんいるとこに行きたくないんだ」

綾香の言葉に、脳裏に過る姿がある。

「…狙われてるのは、私ってことですか?」

―あの男、だろうか

でも、だとしたら、何故、綾香にそれがわかったのだろう?不審な存在について教えられた今でも、私にはその気配さえ感じることが出来ないというのに。

納得のいかないことは多々ある。けれど、

「…わかりました。ついて行きます」

「一花ちゃん…ありがとう」

ホッとした様子の綾香に頷いた。彼女の先導に従って、暗くなり始めた通りを急ぐ。人気ひとけのない方へと歩を進めるうちに、見えてきた雑木林。小さな神社か何かがある場所だったと思うけれど―

「…」

「?綾香さん?」

突然立ち止まった彼女に呼び掛けるが、返事はない。強張った表情のまま、前を見つめる彼女の視線の先を追って、

「っ!?」

小さく、悲鳴がもれた。誰も居ないと思っていた場所、そこへユラリと影が現れたのだ。まるで、空中から染み出したように。恐怖から、無意識に逃げたそうとして、

「!綾香さんっ!?」

「…ダメよ、一花ちゃん」

腕を掴む手に力がこめられる。前を見据えたまま、いつもとはまるで違う表情を浮かべる綾香の横顔。

「っ!」

背中に、ゾクリと冷たいものが走った―




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