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第一章 純真妖狐(?)といっしょ

3-1.

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3-1.

「イチカ、イチカ、お出かけなの?シロも!シロも、行くのよ!」

「…そう、だよねぇ」

家の玄関、制服に身を包んだまではいいが、シロをどうするかを決めきれずに佇む。

昨日のスーパーへの買い物ならともかく、学校へ連れていくとなると少し勇気がいる。授業中は私が自由に動き回れないから、いざというときにまずい気がして。

「シロちゃんは、誰にも見えない、んだよね?」

「大丈夫なのよ!ビックリしたり、寝たりしないから!」

「…それは、驚いたりしたら見えちゃうってこと?」

確かに、私が初めてシロを見た時、シロは気絶して倒れていたけれど。

「大丈夫なの!シロ、かくれるの上手なの!」

「うーん」

必死に言い募るシロの姿に―本当は最初から八割方、諦めてはいたけれど―こちらが折れることにした。

「よし。じゃあ、シロちゃん、お約束。今からおうちに帰ってくるまで、驚いたり、寝たりしちゃ駄目。守れる?」

「はい!なのよ!シロはちゃんとお約束を守れるの!」

「あはは。じゃあ、行こうか?バックに入ってく?」

「お外が見たいの!イチカの上がいいの」

飛んできたシロが肩に座るのを確かめる。『お約束』を守れずに、迷子になってしまっているシロの言葉をそのまま信じるわけにはいかないだろうから、最大限、私が気を付けよう。気を引き締め直して扉に手をかける。

「シロちゃん、寒くなったらポケットかバックの中、入るんだよ?」

「はい、なの!」





二週間ぶりの通学路、家を出た時からずっと、シロは物珍し気に周囲をキョロキョロと眺めている。

「おはよー、一花」

「おはよう、瑞穂みずほ。明けましておめでとう」

「あ、そうだった。あけおめー」

背後からかけられた声、何だかダルそうな様子の声の主に苦笑する。高校入学と同時に出来た友人が、休み明けにこうなってしまうのはいつものこと。特に、今回は受験前、最後の追い込みだったから。

「…ヤバい。学校行くのしんどい。帰りたい」

「でも、もし今帰っても、家で勉強するんでしょ?」

「うっ」

受験生として逃れられない運命なのか、一日に一度も勉強をしないと不安に襲われてしまうのは、多分、彼女も同じ。

「それなら一緒に学校行った方が楽しいよ?…名島君にも会えるし?」

「…」

態と口にした彼女の想い人の名に、わかりやすく黙り込んだ瑞穂が、深々と頭を下げた。

「…とりあえず、今年もよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

同じ様に頭を下げて、笑い合う。




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