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第一章 純真妖狐(?)といっしょ

2-3.

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2-3.

「甘いのー、サクサクなのよー。シロは、サクサクも好きなのー」

「そっかぁ、良かった」

ポロポロと溢しながらカルメ焼きにかじりつくシロを眺めながら、ふと気づいた。

「そう言えば、シロちゃんにもらったお守り」

「?」

「お料理の間とか、ポケットに入れてたけど、ずっとシロちゃんとおしゃべり出来てたね。手に持っていなくても大丈夫なの?」

「うーん?お守りは『みにつけておくもの』なのよ!」

「…手に持ってなくても、所持してればオッケーってことなのかな?」

幸せそうにお菓子を頬張るシロから返事はないけれど、常に身に付けておくとなると方法は限られてくる。家の中はともかく、外にも必ず持っていくとしたら、

「…携帯、スマホだよね」

言って、キッチンに起きっぱなしにしていた携帯を取りに行く。一年ほど前に機種変更したスマホ、最早「傷一つない」とは言えないそれと、シロから貰ったお守りを見比べて、

「…チャーム、みたいに出来るかも」

思い出したのは、買ったはいいものの結局付けずにしまいこんでしまっているスマホリングの存在。それに、お守りをぶら下げられれば―

体の比率からいくと到底食べきれないだろうと思っていたカルメ焼きを食べ尽くしそうな勢いのシロ。その正面に座って、スマホにリングとお守りを取り付ける。

「…このお守りって、シロちゃんの尻尾から出来てるんだよね?何でピンクなの?」

それこそ、シロの尻尾はフワフワで真っ白なのに。

「?ピンクはカワイイのよ?イチカにぴったりな色なの」

「…そっ、か」

嬉しそうに返された予想外の返事に、思わず言葉に詰まった。ピンクが似合うなんて、記憶に有る限りでは初めて言われた気がする。

「…これがあれば、私はシロちゃんに触れて、シロちゃんの言葉がわかるんだよね?シロちゃんは?私以外の、人間の言葉ってわかるの?」

「わからないの」

お菓子を抱えたまま、ブンブンと首を振るシロ。

「シロは、まだ子どもだから、ちょっとしかわからないの。大きくなって、お勉強したら、わかるのよ?」

「へー、そういうものなんだ」

私が外国語をマスターするようなものなのかと納得して、頷いた。

「…コワイ人の言葉も、ちょっとだけわかったの」

「うん?」

「シロのこと、『キツネ』って呼んだの。あと『退治』って言ってたのよ」

「…『退治』?」

コクリと頷いたシロが、手の中に残るカルメ焼きをじっと見つめて、

「カザネとチハヤが言ってたのよ。おうちの外はコワイ人がいっぱいで、見つかったから『退治』されちゃうから、お外はダメだって、お約束なの…」

「…シロちゃん」

知らない名前は彼女の家族の名前だろうか。彼女の身を案じての言葉に、彼女を守ろうとする家族の存在を知る。

「シロ、遊びたかったの。お外で、ちょっとだけ…」

項垂れてしまった頭をそっと撫でた。

「…おうち、一緒に探そうね。シロちゃんが早くおうちに帰れるように」

「うん!ありがとうなの!」

再び顔を上げたシロ、かといって、シロの家に関しては手がかりが全く無い状態。想像さえ出来ない「妖怪の住む場所」について、もし、少しでも手がかりがあるとしたら、それは多分昨夜のあの男―

―あの人は、シロを『キツネ』、多分、『妖狐』だと知っている?

その上で、シロを『退治』しようとしたというのなら、そういうこと、『妖怪』という存在に詳しい可能性がある。今まで実際に会ったことはないが、妖怪を退治する霊能者、というものなのではないだろうか。

―だとしたら、

「…」

お皿の上、散らばったお菓子の欠片を拾い集めて食べるシロを眺める。

だとしたら―とてもそうは見えないけれど―シロは人間とは敵対する存在、なのかもしれない。昔話や怖い話に出てくる妖怪は、得てして人を傷つけ、時に命さえ奪う。

思い出されるのは、子どもの頃にたった一度だけ遭遇したことのある不思議体験。子ども心に、まさに「狐に化かされた」と思ったものだけれど。あの時も、下手をすればすぐ下の弟は死んでしまう可能性だってあった。

「…」

思いだした恐怖に、思わず顔が強張る。

「?イチカ?イチカもコワイの?悲しいの?」

あの時の、心臓が痛くなるくらいの恐怖の原因が、目の前で私を心配するこの子と同じもの、なのかもしれない。

「あのね、あのね、だけど、大丈夫なのよ?」

「ん?」

「コワイ人だけじゃないの!イチカは優しいのよ!甘いサクサクをシロに作ってくれたの!とってもおいしくて、シロはシロは、うれしいのよ!」

「…そっか」

化かされてる、のかもしれない。騙されてるのかも―

だけど、今は、それでもいいかもしれないと思う。例え、化かされているのだとしても、必死に私を慰めようとするこの子を、逃がしてあげたい。無事に家に、家族の元へ帰してあげたいと、そう思った。




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