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第一章 純真妖狐(?)といっしょ

2-2.

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2-2.

「…シロ、おなか空いたの」

「ご飯食べる?」

泣き止んでからも大人しく抱かれていたシロが毛布からモゾモゾと這い出して、こちらを見上げる。

「何が食べたい?あ、でも冷蔵庫、ほとんど空っぽだ」

朝食は簡単に済ませるつもりでいたから、玉子くらいしか入っていない。かといって、レトルトや即席麺を食べさせるのも躊躇われるし、

「あれ?そもそも、シロちゃんは何を食べれるのかな?普通のご飯、食べれる?」

「?」

わかっていなさそうなシロを膝から下ろして、携帯に手を伸ばした。

―狐?人の姿?何て検索すればいいんだろ

結局、「狐」、「女の子」で検索した結果、並んだ文字に目が釘付けになった。

「…『妖怪』、『妖狐』」

確かに、言われてみればそうなのかもしれない。狐耳に着物を着ている姿は、『妖』という言葉がピッタリだ。ただ、『妖怪』と言われて想像するよりはかなりサイズが小さいだけで。

「…シロちゃんは『妖狐』なの?『妖怪』?」

「?シロは、『キツネ』なのよ?」

「…そっかぁ」

『妖狐』という概念、呼称がシロに通じないのは、まだ幼い彼女がそれを知らないだけなのか、本当に全く別の存在だからなのか。

シロを改めて抱き上げて、というよりは掬い上げてみても、両手の上にチョコンと座ってしまえるサイズ。見上げてくる表情もあどけない。

「…」

「?」

恐らくは、人が『妖狐』と呼ぶ存在なのではないかと思うのだ。少なくとも、私が知っているただの『狐』とは大分違うから―

「…あ、そうだった、ご飯。…妖狐の食べ物って」

更に調べれば、出てきたのは「人の精気を食らう」という情報。少し迷って、シロに手を差し出した。

「…精気ってどうやって吸うのかな?これでいいの?」

「?」

首を傾げるシロに、どうやらお互いに理解できていないということだけは、わかった。

ニコリと笑ったシロが指先に頬をスリスリとすり寄せる。

「…可愛いなぁ」

だけど、『精気』というものが減ったような気はしないから、

「…多分、違うんだね。シロちゃんは何食べたいの?」

「あのね!あのね!」

パァッと顔中を輝かせるシロ。

「シロは、甘くてフワフワが大好きなのよ。お空の雲みたいにフワッて、お口の中で消えていくの!」

「うーん、綿菓子、かな?」

何となく想像はついたものの、流石に綿菓子を用意するのは難しい。

「…甘いもの、甘いもの」

玉子と砂糖なら、ある。市販のお菓子は何となくだが、狐?妖怪?に食べさせていいものなのか不安があるから、

「シロちゃん、玉子食べられる?」

「シロは、甘い玉子焼きも好きなの!」

「甘い玉子焼きかぁ。みりんがあったかなぁ」

ベッドから抜け出し、パジャマの上に上着を羽織ってキッチンに立った。戸棚を覗いて確かめる。

「みりん無いなぁ。お醤油でいいか。…あっ!」

油がない。そうだった、買わなきゃって思って、忘れてた。

「…シロちゃん、ゆで玉子、とかは?」

「甘いの?」

「うっ」

甘いゆで玉子、錦玉子だろうか?手間がかかるし、多分、シロが望んでいるものとも違う気がするから。

「…アレ、やって見ようかな」

「?」

以前、ネットで調べて作ったことがあるカルメ焼き。何故か無性に食べたくなって挑戦してみたものの、お玉で作ることに散々失敗し、最終的に電子レンジでの作り方にたどり着いた。その時は上手くいったけれど、

「…二回は失敗出来るから、多分、大丈夫」

「?」

玉子の数を確認して、一つを取り出す。フヨフヨと宙を漂うシロに手元を覗かれながら、黄身と白身をわけて、

「こっちは後で玉子かけご飯かな。重曹は、この前使ったのが…」

探しだした材料を並べて、スマホのブラウザを立ち上げる。またいつか作るかもと「お気に入り」に登録していたページを開いて確かめた。

「うん、出来そう」

「甘いのなの?」

「甘いよー」

言いながらも手を動かして作業を進める。シロの期待に満ち満ちた眼差しに見守られて、最後、カップの中で温めた砂糖水に重曹と卵白を加えて一気にかき混ぜた。

「ふわぁー!」

カップの中のお菓子の変化に、シロが歓声を上げる。

「ちゃんと膨らんだねー。良かった」

「フワフワなの!フワフワなのよ!」

「ねー?フワフワに見えたよね?でも、食べるとサクサクなんだよ」

「サクサク?サクサクなの?」

待ちきれないと言わんばかりのシロを制止する。

「まだすごく熱いから。ちょっと待ってね」

「待てるの!シロはちゃんと待てるのよ!」

「うん…」

目の前に置かれたカップ、キラキラした瞳で見つめるシロの表情。そこに先程までの陰りが無いことにホッとした。




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