上 下
23 / 37
本編

22.再就職先も王宮?

しおりを挟む
「…あの、エリアス?…確か、前職は『傭兵』って言ってなかった?」

「ん?ああ、まぁ、似たようなものだ。」

(いやいやいやいやいや!)

スクロールを書き書き、何とかたどり着いた隣国、ロートにて、エリアスが「前職のコネがあるから、紹介してやる」と気軽に言うものだから、ラッキーくらいの感覚でついていったら、ついて行った先がまさかの王宮だった。

「っ!無理だよ!?いきなりこんな立派なところに再就職とか、無理無理無理!」

「なぜ?ハイマットでも文官をしてたんだ。同じだろ?」

「違うよね!?他国出身の国外逃亡者がいきなり王宮に就職とか無理だから!身元が怪し過ぎるよ!」

「ああ、まぁ、その辺は気にするな。…これでも一応、それなりの地位に居たからな、ステラの身一つくらい、何とでもなる。」

「…」

エリアスの言葉に不安が増した。

(というか、もう、不安しかない…)

王宮内で「それなりの地位」に居た人物を、私は今、ガッツリと隷属させてしまっているんだけれど─

「ステラ、来い。」

「…」

呼ばれて、手を差し出されてしまえばもう、ついていくしかない。子牛の気分で連れて行かれた先、たどり着いたのは重厚な扉、エリアスが、ノックも何も無しにその扉を開け放った。

「…よぉ。」

「エリアス!?」

部屋の中、立派な執務机に座っていた巨漢のおじ様が、弾かれたようにして立ちあがった。その視線が、確認するよう、エリアスの顔、身体を眺めまわして、最後に私とエリアスの繋いだ手を凝視したので、慌てて手を引っ込める。

「…無事なよう、だな。キール達から、ハイマットに居ると報告は受けていたが…」

「あー、まぁ、見ての通り。心配されるようなことにはなってない。」

「そうか…」

言って、おじ様は力が抜けたかのように、椅子に座り込んでしまった。

「…正直、お前がベルツ公の包囲網を抜け出せるとは思っていなかったんだ。…捕まって秘密裡に飼われるか、どこかで野垂れ死にしていてもおかしくないと…」

「勝手に殺すな。」

「ああ。…本当に良かった。」

「…」

噛みしめるようなおじ様の言葉に、エリアスはただ苦笑している。そんなエリアスを見て、おじ様もちょっと復活したらしい。次に口を開いた時には、その言葉に好奇心をのぞかせていた。

「それで?どうやって、国境を越えた?検問所には、公の手が回っていただろう?容易には突破出来なかったと思うが…」

「ああ。奴隷商に身を売った。」

「…は?」

「密輸品として検問を越えたんだが、案外、上手くいった。」

「…」

「まぁ、その内、ハナトの検問所は手入れしないとマズいな。奴隷商とズブズブに繋がってやがるから、」

「ちょ、ちょっと待て!奴隷!?お前が奴隷だと!?」

「ああ。」

顔面蒼白で叫ぶおじ様、エリアスは飄々としてるけど、絶賛、エリアスの「主人」中である私は、おじ様の剣幕にビビりまくっている。

(ほらー!ほらほらほらー!)

やっぱり、駄目なやつ!こんな立派な部屋でお仕事をしているおじ様とため口が許される立場、それだけで、エリアスの「それなり」の高さがうかがえてしまう。

こっそり、エリアスの背中に隠れるように後退しておく。

「…何故、何故、そのような事態に…」

「あ?だから、国境越えるためだって。」

「他にいくらでも方法があっただろう?お前なら、単身で山を越えることも可能だったはず…」

「俺が野営嫌いなの、知ってるよな?」

「いや、だが、代わりに奴隷落ちを選ぶなど…」

おじ様が項垂れてる。私も、若干、エリアスはおかしいんじゃないかなーと思い始めてる。

「まぁ、それだけが理由じゃないがな。」

「…」

「奴隷紋がありゃあ…」

言いながら、エリアスが詰め襟をグイと押し下げた。

「流石にあの女も、諦めるしかないだろ?」

「…確かに、…いや、だが…」

エリアスの首筋にはっきり見える黒々とした契約紋。それを、痛ましそうな目で確認したおじ様が、深々とため息をついて。

「…お前は本当に、とんでもないことをしでかす。…契約紋など、奴隷契約を解消できたとしても、一生消せないではないか。」

「だから良いんだろ?…それに、まぁ、奴隷生活ってのも割と気に入っている。」

「…気に入っているだと?」

「っ!?」

そこで漸く、というか、全然望んで無かったというか、おじ様の意識がこちらへ向けられた。エリアスの背後から覗いていたのに、バッチリ目が合ってしまった。

「…もしやと思うが、そちらのお嬢さんが、お前の…?」

「ああ。俺の主人マスターだ。」

「…」

「…」

躊躇なく言い切ったエリアスの隣で、私とおじ様の途方に暮れた視線が合った。

(…良かった、怒ってはいなさそう。)

安堵して、小さく頭を下げておく。

「あー、それで、まぁ、奴隷にはなっちまってるけど、それで問題なきゃ、俺を団に復帰させてもらいたいってのと、うちのマスター、良ければ騎士団で雇ってやってくれないか?」

(…騎士団。)

やっぱりね、やっぱりね。分かってた─

王宮で、傭兵みたいな、つまり、武力行使系のお仕事、そんなの、騎士団一択しかないと思う。ついでに多分、王宮内に部屋があるということは、目の前のおじ様はかなりの高位にある方、多分、「長」とか付きそうな役職。だから、腹を括る。もう、ここまで来たら、仕方ない。

エリアスの陰から、一歩、前へ─

「あの、初めまして、ステラと言います─」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

開発者を大事にしない国は滅びるのです。常識でしょう?

ノ木瀬 優
恋愛
新しい魔道具を開発して、順調に商会を大きくしていったリリア=フィミール。しかし、ある時から、開発した魔道具を複製して販売されるようになってしまう。特許権の侵害を訴えても、相手の背後には王太子がh控えており、特許庁の対応はひどいものだった。 そんな中、リリアはとある秘策を実行する。 全3話。本日中に完結予定です。設定ゆるゆるなので、軽い気持ちで読んで頂けたら幸いです。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。

りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。 伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。 それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。 でも知りませんよ。 私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

異世界から帰ってきたら、大好きだった幼馴染みのことがそんなに好きではなくなっていた

リコピン
恋愛
高校三年生の夏休み直前、勇者として異世界に召喚された明莉(あかり)。無事に魔王討伐を終えて戻ってきたのは良いけれど、召喚される前とは色んなことが違っていて。 ずっと大好きだったイケメン幼馴染みへの恋心(片想い)も、気づけばすっかり消えていた。 思い描いていた未来とは違うけれど、こちらの世界へついてきてくれた―異世界で苦楽を共にした―友達(女)もいる。残りわずかの高校生活を、思いきり楽しもう! そう決めた矢先の新たな出会いが、知らなかった世界を連れてきた。 ―あれ?私の勇者の力は、異世界限定だったはずなのに??

男がほとんどいない世界に転生したんですけど…………どうすればいいですか?

かえるの歌🐸
恋愛
部活帰りに事故で死んでしまった主人公。 主人公は神様に転生させてもらうことになった。そして転生してみたらなんとそこは男が1度は想像したことがあるだろう圧倒的ハーレムな世界だった。 ここでの男女比は狂っている。 そんなおかしな世界で主人公は部活のやりすぎでしていなかった青春をこの世界でしていこうと決意する。次々に現れるヒロイン達や怪しい人、頭のおかしい人など色んな人達に主人公は振り回させながらも純粋に恋を楽しんだり、学校生活を楽しんでいく。 この話はその転生した世界で主人公がどう生きていくかのお話です。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ この作品はカクヨムや小説家になろうで連載している物の改訂版です。 投稿は書き終わったらすぐに投稿するので不定期です。 必ず1週間に1回は投稿したいとは思ってはいます。 1話約3000文字以上くらいで書いています。 誤字脱字や表現が子供っぽいことが多々あると思います。それでも良ければ読んでくださるとありがたいです。

処理中です...