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本編
19.卑怯だと思う
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(…でも、実際、お金、逃亡資金は要るよね。)
ということで、防音効果の全くなかった上掛けとエリアスの腕の中から抜け出して、ベッドを下りる。
「…ステラ?」
「うん、あの、逃亡資金、稼ごうかなーと…」
「?」
オフィスワークの強み、外に出ることなく仕事が出来る。荷物の中から、DIY用の巻紙と持ち運び用の羽ペンを取り出した。
「スクロールをいくつか作って売れば、少しは稼ぎになるはず。」
「ここで作るのか?」
「うん。言ったでしょ?紙とペンさえあれば、書けちゃうって。…ごめん、ちょっとの間、集中するね。」
「分かった…」
エリアスの返事を聞きながら、備え付けの小さなテーブルの上に巻紙を広げていく。
(作るなら『灯り』が無難、かな?)
灯り用のスクロールなら、王都から離れた場所でも日常的に使われているため需要がある。
(それに、『灯り』なら、十本くらいはイケるから。)
魔力量の問題で、残念ながら大量生産というわけにはいかないけれど、それでも、四、五万の稼ぎにはなるはず。
(…よし。)
気合を入れて、ペンを取る。集中して、一気に書き上げた『灯り』のスクロールは十枚、それに魔力を流し込んでいきながら気が付いた。
(あれ…?)
スクロール十枚に魔力を流し込んだ後でも余力がある。試しに、もう十枚スクロールを書いて魔力を流し込んでみれば、ちょうど十枚目を流し込み終わったところで、魔力が尽きるのを感じた。
(…魔力が増えてる、ってことはない、よね…?)
成人後も魔力量が増えるという話は聞いたことがない。微増することがあったとしても、単純に考えて二倍になる可能性はほぼゼロ。
(…何で?)
理由が分からずモヤっとはしたけれど、二倍に増えたところでスクロール二十枚分では誇れるほどの魔力量ではないので、その問題は放置することにした。
「エリアス、あの、これ、魔道具屋さんとかに持ち込みしようと思うんだけど…」
「『灯り』か?」
「うん、そう。なるべく人目につかないようにしたいから、私一人で、」
「駄目だ。」
「…」
先ほどとは逆の状況、こちらの作業を邪魔しないためか、離れた距離に立っていたエリアスが急に距離を詰めてきて、
「手配されるなら、ステラ、お前の方だと言っただろう?」
「…けど、でも、エリアスの方が目立つし、私なら没個性だし、」
「駄目だ。」
「…」
自分の容姿に自覚がないのか。こんなイケメンがその辺フラフラしてたら目立ちまくりだと思うのに、エリアスは怖い顔をして譲ろうとしない。
にらみ合うこと暫し、
「…ステラ…」
「っ!?」
エリアスが両肩に手を置いて、耳元、唇が触れそうな距離まで顔を寄せ─
「…頼む。」
「っ!」
「…俺に行かせてくれ、な…?」
「っ!?」
「…お願いだ、イッてもいいだろ…?」
「っ!?分かりました!お願いします!!」
緊急退避、両手に掴んでいたスクロールの束をエリアスに押し付けるようにして、距離を取った。
「…ありがとう。」
「っ!!」
スクロールの束を受け取ったエリアスが、楽しそうに?嬉しそうに?笑って、
「直ぐ戻る。…大人しく待ってろ。」
「…」
言って、颯爽と扉の向こうに消えていったエリアスを唖然と見送った。
(何で、何で、あんな…!)
今、絶対、顔が赤い。心臓、バクバク言ってるし、うぎゃあって身もだえしたいし、とにかく─
(卑猥!卑猥に過ぎる!!吐息多めの『お願い』はズルいと思う!!)
ということで、防音効果の全くなかった上掛けとエリアスの腕の中から抜け出して、ベッドを下りる。
「…ステラ?」
「うん、あの、逃亡資金、稼ごうかなーと…」
「?」
オフィスワークの強み、外に出ることなく仕事が出来る。荷物の中から、DIY用の巻紙と持ち運び用の羽ペンを取り出した。
「スクロールをいくつか作って売れば、少しは稼ぎになるはず。」
「ここで作るのか?」
「うん。言ったでしょ?紙とペンさえあれば、書けちゃうって。…ごめん、ちょっとの間、集中するね。」
「分かった…」
エリアスの返事を聞きながら、備え付けの小さなテーブルの上に巻紙を広げていく。
(作るなら『灯り』が無難、かな?)
灯り用のスクロールなら、王都から離れた場所でも日常的に使われているため需要がある。
(それに、『灯り』なら、十本くらいはイケるから。)
魔力量の問題で、残念ながら大量生産というわけにはいかないけれど、それでも、四、五万の稼ぎにはなるはず。
(…よし。)
気合を入れて、ペンを取る。集中して、一気に書き上げた『灯り』のスクロールは十枚、それに魔力を流し込んでいきながら気が付いた。
(あれ…?)
スクロール十枚に魔力を流し込んだ後でも余力がある。試しに、もう十枚スクロールを書いて魔力を流し込んでみれば、ちょうど十枚目を流し込み終わったところで、魔力が尽きるのを感じた。
(…魔力が増えてる、ってことはない、よね…?)
成人後も魔力量が増えるという話は聞いたことがない。微増することがあったとしても、単純に考えて二倍になる可能性はほぼゼロ。
(…何で?)
理由が分からずモヤっとはしたけれど、二倍に増えたところでスクロール二十枚分では誇れるほどの魔力量ではないので、その問題は放置することにした。
「エリアス、あの、これ、魔道具屋さんとかに持ち込みしようと思うんだけど…」
「『灯り』か?」
「うん、そう。なるべく人目につかないようにしたいから、私一人で、」
「駄目だ。」
「…」
先ほどとは逆の状況、こちらの作業を邪魔しないためか、離れた距離に立っていたエリアスが急に距離を詰めてきて、
「手配されるなら、ステラ、お前の方だと言っただろう?」
「…けど、でも、エリアスの方が目立つし、私なら没個性だし、」
「駄目だ。」
「…」
自分の容姿に自覚がないのか。こんなイケメンがその辺フラフラしてたら目立ちまくりだと思うのに、エリアスは怖い顔をして譲ろうとしない。
にらみ合うこと暫し、
「…ステラ…」
「っ!?」
エリアスが両肩に手を置いて、耳元、唇が触れそうな距離まで顔を寄せ─
「…頼む。」
「っ!」
「…俺に行かせてくれ、な…?」
「っ!?」
「…お願いだ、イッてもいいだろ…?」
「っ!?分かりました!お願いします!!」
緊急退避、両手に掴んでいたスクロールの束をエリアスに押し付けるようにして、距離を取った。
「…ありがとう。」
「っ!!」
スクロールの束を受け取ったエリアスが、楽しそうに?嬉しそうに?笑って、
「直ぐ戻る。…大人しく待ってろ。」
「…」
言って、颯爽と扉の向こうに消えていったエリアスを唖然と見送った。
(何で、何で、あんな…!)
今、絶対、顔が赤い。心臓、バクバク言ってるし、うぎゃあって身もだえしたいし、とにかく─
(卑猥!卑猥に過ぎる!!吐息多めの『お願い』はズルいと思う!!)
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