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本編
17.焦燥 Side K
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(クソクソクソッ!)
仕事を途中で切り上げてまで訪れた部下の家、不在だと分かった瞬間、その家の扉を蹴り上げていた。幸い、響いた鈍い音に近所の者が顔を出すでもなく、ただひたすら、女の帰りを待ち続けていた。結局、現れたのはステラではなくミリセントだったが、ステラの捕獲を任せ、あの場を離れることは出来た。問題はこの後、どう動くべきかなのだが─
(クソッ!あの無能が!一体、何を考えているっ!?)
ただでさえ追い詰められている状況、昨日までの生産ノルマは何とかギリギリこなしているものの、今日一日でまた一気に進捗が後退した。おまけに─
「っ!?」
「…」
視界の先に現れた男、建物の陰、しかし、こちらがはっきりと視認出来る位置に立ち、じっと見つめて来る。
(っ!マズい…)
危険な前触れ、だが、それを無視すれば、危険は更に増す。陰鬱な男の方へと進路を変え、歩き出した男の後を追う。追った先の路地裏、果たして、現れたのは予想通りの男で─
「お久しぶりですね。ケートマン室長。」
「あ、ああ。」
押し出しがいい商人然とした姿の男、正確な年齢は知らないが、恐らく四十代、自分とそう歳の変わらないはずの男の眼光にひるむ。
「お久しぶり過ぎて、我々の取引についてお忘れではないかと思い参上致しました。…それで?お約束のものは?」
「っ!すまない、まだ、もう少し時間を、」
「おや?確か、先日、お伺いした部下が同じようなお返事を頂いたと記憶しております。その、一週間前にも。…これは一体どういうことか、お伺いしても?」
「すまない!決して、出し惜しみをしているわけではないんだ!だが、部下が仕事をサボり勝ちで、正規の納品も間に合っていない状況で、」
「そうですか。部下の方が。」
頷く男の理解を得て、勢い込む。
「!そ、そうなんだ!だから、」
「それは、勿論、部下を使いこなせいない無能な上司の責任、ということでよろしいのですよね?」
「っ!?」
「スクロールのご提供を頂けないのであれば、お貸ししている三百万、きっちり耳を揃えてお支払い頂くか、もしくは…」
男の眼光が鋭くなる。口元に浮かぶ冷笑に背筋が凍った。
「っ!明日!明日までに!必ず明日までに用意する!だから!」
「おやおや。これは、有難いお言葉ですね。明日まで。確かに、お約束を承りました。…私との一対一でのお約束、違うことなきよう、よろしくお願いいたしますね。」
「わ、かった。必ず…!」
最後に、薄く笑った男が背中を向ける。そのまま、街灯の光の外、夜の闇に消えていく後ろ姿を見送った。
「っ!クソっ!」
毒づいてみても、心の重荷は少しも減らない。張り付いたままの焦燥感、路地裏を出て、大通りへと向かう。脳裏に浮かぶのは女の笑みと柔らかな肢体、馴染んだ温もりに包まれれば、この不安もきっと─
仕事を途中で切り上げてまで訪れた部下の家、不在だと分かった瞬間、その家の扉を蹴り上げていた。幸い、響いた鈍い音に近所の者が顔を出すでもなく、ただひたすら、女の帰りを待ち続けていた。結局、現れたのはステラではなくミリセントだったが、ステラの捕獲を任せ、あの場を離れることは出来た。問題はこの後、どう動くべきかなのだが─
(クソッ!あの無能が!一体、何を考えているっ!?)
ただでさえ追い詰められている状況、昨日までの生産ノルマは何とかギリギリこなしているものの、今日一日でまた一気に進捗が後退した。おまけに─
「っ!?」
「…」
視界の先に現れた男、建物の陰、しかし、こちらがはっきりと視認出来る位置に立ち、じっと見つめて来る。
(っ!マズい…)
危険な前触れ、だが、それを無視すれば、危険は更に増す。陰鬱な男の方へと進路を変え、歩き出した男の後を追う。追った先の路地裏、果たして、現れたのは予想通りの男で─
「お久しぶりですね。ケートマン室長。」
「あ、ああ。」
押し出しがいい商人然とした姿の男、正確な年齢は知らないが、恐らく四十代、自分とそう歳の変わらないはずの男の眼光にひるむ。
「お久しぶり過ぎて、我々の取引についてお忘れではないかと思い参上致しました。…それで?お約束のものは?」
「っ!すまない、まだ、もう少し時間を、」
「おや?確か、先日、お伺いした部下が同じようなお返事を頂いたと記憶しております。その、一週間前にも。…これは一体どういうことか、お伺いしても?」
「すまない!決して、出し惜しみをしているわけではないんだ!だが、部下が仕事をサボり勝ちで、正規の納品も間に合っていない状況で、」
「そうですか。部下の方が。」
頷く男の理解を得て、勢い込む。
「!そ、そうなんだ!だから、」
「それは、勿論、部下を使いこなせいない無能な上司の責任、ということでよろしいのですよね?」
「っ!?」
「スクロールのご提供を頂けないのであれば、お貸ししている三百万、きっちり耳を揃えてお支払い頂くか、もしくは…」
男の眼光が鋭くなる。口元に浮かぶ冷笑に背筋が凍った。
「っ!明日!明日までに!必ず明日までに用意する!だから!」
「おやおや。これは、有難いお言葉ですね。明日まで。確かに、お約束を承りました。…私との一対一でのお約束、違うことなきよう、よろしくお願いいたしますね。」
「わ、かった。必ず…!」
最後に、薄く笑った男が背中を向ける。そのまま、街灯の光の外、夜の闇に消えていく後ろ姿を見送った。
「っ!クソっ!」
毒づいてみても、心の重荷は少しも減らない。張り付いたままの焦燥感、路地裏を出て、大通りへと向かう。脳裏に浮かぶのは女の笑みと柔らかな肢体、馴染んだ温もりに包まれれば、この不安もきっと─
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