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本編

12.進化?覚醒?

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朝起きたら、イケメンがいた。

しかも、ただのイケメンじゃない。朝ごはんつきのイケメン。イケメンが朝ごはん作ってた。

「…エリアス、さん?」

髭を綺麗に剃りあげ、真っ直ぐな黒髪を襟足で縛っている男の人。綺麗な蒼い瞳が、こちらを見つめてくる。

「おはよう、マスター。…朝食を作った。座ってくれ。」

「…エリアスさん、だ。」

(だって、だって、だって、声が…)

─…お疲れ様

(っ!?)

─…今日一日、よく頑張ったな?…疲れただろう?

(っ!!)

─…ステラは偉い。よくやってる。

「ッファー!!」

「?なんだ、どうした?」

「っ!何でもないですっ!」

脳内で自動再生され始めたボイス。エリアスさんに聞こえていなくても、恥ずか死ぬ。意味はないけど、耳を押さえて脳内ボイスの停止を試みた。元はと言えば、この耳が、こいつらがイイ仕事したせいで─

「マスター、座ってくれ。」

「はい…」

耳を押さえていても聞こえる声に頷いて、自分の席へと着いた。

「…あの、エリアスさん。やっぱり、昨日もソファで寝た、んですよね?」

「ああ。だが、マスターが気にするような障りは本当に無いんだ。もっと劣悪な環境でも寝れるよう、鍛えてある。」

「でも、」

「寝床の話は、夜、帰ってきてからでもいいだろう?…時間がなくなる、先に朝食を。」

確かに、ベッド問題は今すぐどうこう出来るものじゃない。エリアスさんの言葉に甘えて、フォークを手にした。

「…美味しそう。」

「昨日と同じで、味の保証は無いが…」

「いえ、昨日も本当に美味しかったです。」

言って、食事に手をつける。

「…うん、やっぱり、美味しいです。」

「…そうか。」

「…」

(……………………………え?)

今、笑っ、た──?

「っ!?」

「どうした?」

「っ!?」

何か、何、なんだ?

(エリアスさんが変!?え、いや、元から!?元からこんなだった!?)

昨日まではもっとドライな感じ、だった気がするエリアスさん。それが、何故、朝起きたらこんな甘やかイケメンに──?

(あ、いや、でも、昨日、帰って来てからは…)

─…おいで、慰めてやるから

(既に甘かった気がするー!!)

ということは、アレだろうか?昨日は脳みそバンしてたせいで耐えられただけで、エリアスさんは元からこういう感じ?それとももしや、認めたくはないけれど、エリアスさんがイケメンだと認識した途端、「イケメンは何しても」の法則が私の脳内で働いた?

「…マスター、手が止まっている。」

「あ、はい、すみません。」

「謝るな。…朝食を、きちんととって欲しいだけだ。」

「…」

「何故、目をそらす?」

「え…?」

イケメンがこっち見てるから?

(いや、でも、やっぱり、おかしい。おかしい気がする。)

昨日の朝は、こんなじゃなかったはず。目の前のイケメンともじゃもじゃエリアスさんを脳内で結びつけるのは難しいけれど、でも、見た目だけじゃなく、態度が。

「…」

「…」

見られてる。凄く見られてる。パンを取る振りでチラッとエリアスさんを確認したら、ガン見されてた。

(…昨日も、こんなに見られてた?)

ざんばら前髪のせいで見えていなかっただけなんだろうか?だとしたら、エリアスさんには早急に前髪を伸ばしてもらわなければ。

(…昨日だって、あんな欲望さらけ出せたのは、エリアスさんの顔、よく見えなかったおかげだし…)

元から、前世の癒し替わり、二次元が無いなら三次元で我慢しようと思って購入したエリアスさん。顔なんて関係無かったし、こっちがどれだけ欲望をさらけ出しでも逃げられない、拒否できないという意味で、奴隷は最適だと思った。

(…我ながら、ゲスい。)

なのに、エリアスさんは文句一つ言わずに私の欲望を満たしてくれた。ひと一人膝に乗っけるという苦行に耐え、優しい言葉をたくさんくれて、今朝は、朝ごはんまで。

(…しかも、昨日のこと、触れないでいてくれてるし。)

優しさの塊。いい人。いい人過ぎる。そんな人相手に、自分は何て浅ましい願いを─

「マスター、食べながらでいいから聞いてくれ。」

「っ!あ、はい!」

「…俺に、外出許可をくれないか?」

「え?」

「マスターの不在中に、出来れば買い物に出られるようにしてほしい。」

「…」

「…俺の逃亡を危惧しているのなら、追加誓約でも何でも、好きなものをかけてくれて構わない、」

「ちょ、ちょっと待って下さい!エリアスさん、外出できないんですかっ!?」

「…そう、だな。…知らなかったのか?」

「っ!?」

やらかした。エリアスさんは苦笑、って感じだけど、そんな、笑って許されるようなことじゃ─

「っすみません!禁止事項に入ってるってことですよね!?本当、すみません!私の確認ミスです!え!?あ!じゃあ、エリアスさん、昨日ずっと一日家に!?うわー!本当に、ごめんなさい!」

「…いや、外出できないことが不満だというわけじゃないんだ。ただ、食料品なんかの買い出しと、出来れば、マスター、あなたを仕事場まで迎えに行きたい。」

「え!?」

「マスターの仕事は、いつも昨日のように遅くなるのだろう?夜道は危険だ。迎えに、」

「いやいやいや!そんな!心配は全然!今まで一度も、何も、危険な目なんて会ってませんから!」

「…だとしても。…俺が不安だ。」

「!?」

(なんでー!?)

本当、どうした!?エリアスさんに何が!?

(…精神支配、精神汚染系?奴隷契約って、そんなのあるの?)

怖い。

後で、契約書はもう一度読み直そう。

「…それから、マスター、俺のことはエリアスと呼んでくれ。」

「え…?」

「ずっと気になっていたんだが、主人に敬称をつけられるのは、どうにも落ち着かない。」

「…そんなもの、ですか?」

「ああ、頼む。それに、話し方も。出来れば昨夜のように砕けてくれた方が嬉しい。」

「!」

昨夜という単語に自分の痴態を思い出して、赤面する。それでも、エリアスさんは優しく笑うだけ。こちらをからかう空気は微塵もない。

「…じゃあ、あの、私のことも、ステラでお願い。」

「…いいのか?」

「うん。あの、エリアスのこと買った身でこんなこと言うのはアレなんだけど、えっと、エリアスとはそんな感じでやっていきたいというか…」

「…分かった。」

エリアスの笑みが温かい。言葉も。こんな風に嬉しい言葉をたくさんもらえたのって、生まれ変わってからは初めてかもしれない。

(…大切にしよう。)

エリアスとの生活。こんな時間をなるべく長く続けられるように。

その日は一日ポワポワした気分で、仕事が鬼のように捗った。





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