そうだバックレよう~奴隷買ったら、前世の常識とか倫理観とかどうでもよくなった~

リコピン

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本編

7.仕事のモチベが上がったのは

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(…やばい。)

起きたら朝だった。

仮眠のつもりが爆睡、気付けば朝、十二時間以上てたってことになる。思わず時計と窓の外を二度見した。交互に。

(ヤバい、エリアスさん…)

見知らぬ場所に連れてこられて、一晩以上放置ほうちとか、どうすりゃいんだってなってるはず。

「っ!」

慌てて着替えて、部屋を飛び出した。

「ごめんなさい、エリアスさん!お腹空きましたよね!?何か食べました?」

「…いや。」

ソファに腰かけていたエリアスさんが、のそりと立ち上がる。

「すみません!本当にごめんなさい!朝ごはん、今から急いで作ります!」

「…」

言って、返事を待たずに台所に駆け込んだ。大したものは出来ないものの、鍋に湯を沸かし、保存肉とパンを適当にオーブンに放り込んで温める。コンロとオーブンに魔導スクロールを突っ込んで、独特な起動音が鳴ったところで、今度は洗濯。昨日、洗うと言って洗えていないエリアスさんの服を洗濯槽に入れて、こちらは昨日と同じスクロール三本で回す。その間に野菜を切って鍋に。味付けは固形スープで適当にしてしまったけれど、今日はこれで我慢してもらうしかない。

「エリアスさん、もう出来るので、そっち座っててください。」

「…」

エリアスさんに、二人掛けの小さなダイニングテーブルについてもらい、その前に、スープを並べる。

「パンとお肉は、もうちょっと待ってくださいね。」

言って、洗濯槽に向かう。既に止まっていた洗濯槽に乾燥用スクロールを入れて再起動。後はもう、乾くまで放っておけばいい。

オーブンの中のパンと肉も適度に温まっていたから、これでよしとして、

「お待たせしました。…本当、お腹すきましたよね、ごめんなさい。あの、好きなだけ食べてくださいね。お代わりも、すぐ用意できるので。」

「…いや、これで充分だ。」

言って、スプーンでスープをすくうエリアスさん。口元に運ぶその所作が美しい。

(ああ、でも、髭は剃った方がいいよなぁ。…お手入れセット的なもの?あるのかなぁ。)

エリアスさんの正面に座って、自分もスープに口をつける。

(…食べられないこともないけれど、美味しくもない。)

いつもと同じ食事。だけど、人に食べさせるものではないなと反省する。

(…調味料とかも、もうちょっと買い足さないと。)

それから、と考えながら、エリアスさんの動きに気を取られる。むさくるしい見た目に反して、動きが本当に綺麗なエリアスさん。

「…エリアスさんって、…前職はなんだったんですか?」

「…吟遊詩人だ。」

「ああ!なるほど!」

「…」

「えー!すごい!じゃあ、楽器とか弾けるんですか?」

「…冗談だ。」

「え?」

「…他国で、傭兵の真似事をしていた。」

「…」

(そうだった。)

チラリと、部屋の隅を見る。そこに置かれた大振りのナイフ。武器を持っているし、戦闘奴隷だったんだから、吟遊詩人ってことはないだろう。傭兵ジョーク的なものだったんだろうけど、本気で信じてしまった。申し訳ない。エリアスさんもリアクションに困ったはず。

(いや、だって、エリアスさんが真顔で言うから…)

一瞬の微妙な空気、エリアスさんの方から話を振ってくれた。

「…主人マスターは?仕事は何をしている?」

「あ、え、マスター?…ああ、そうだ、えっと、名乗り遅れてましたが、私、ステラっていいます。えーっと、それで、仕事の方は、王宮の魔導省で働いてます。」

「魔導省?」

「はい。あ、エリアスさん、他の国の人なら、あまり聞き馴染みないかもしれませんね。」

「…ああ。」

「この国って魔法技術に関しては先進国なので、他国にその技術や製品を輸出してるんです。スクロールや組込み機械、後は、それを作る技術者の派遣とか、ですね。」

「なるほど…」

「私も、職場では魔導スクロールを作ってます。」

そう答えて、心が一気に重くなった。

「…ああ、えっと、作るというか、書いてます、スクロール…」

「…作ると書くでは違うのか?」

「うっ。」

私の、突かれると痛いところ。

「…スクロールって、書くだけなら誰にでも、紙とペンさえあれば書けてしまうんです。ただ、魔術を発動させるためには、そこに魔力を込める必要があって、…これが中々…」

「大変なのか?」

「はい。メチャクチャ魔力持っていかれるんですよー、私じゃあ、一日十本が限度で…」

思わず遠い目をしてしまった視界に、壁掛けの時計が見えた。

「あー、もー、こんな時間ー。仕事いかなきゃだー。やだー仕事行きたくないー。」

「…」

いつものように、テーブルに突っ伏して、独り愚痴ってから、ハタと気付く。

「…」

「…」

顔を上げれば、目の前には立派な体格の男性。でも、その男性は今、私の庇護下にある。彼の衣食住から職場環境までの全てが、私に掛かっている。

「…よし。」

「?」

「愚痴愚痴言ってる場合じゃない!稼がなきゃ!」

扶養家族が増えたのだ、頑張るしかない。立ち上がり、食器を下げて、部屋に向かう。着替えを済ませて出てきたところで、エリアスさんが所在なさげに立っていた。

「エリアスさん、私、仕事に行ってくるので、その間、好きに過ごしててください。食糧庫の中のもの好きに食べてもらって、あ、エリアスさんの服、もう乾いてると思うので、洗濯槽から出して着て下さいね。着替えは今日、買って帰ります。えーっと、あとは…、あっ!?」

気づいた。とんでもないことに─

「エリアスさん!?昨日、どこで寝ました!?」

「ソファで、」

「ですよね!?あー!もー!ほんっと、すみません!狭かったですよね!?寝違えてません!?大丈夫ですか!?」

「いや、特に障りは、」

「嘘ですよね!?その長い手足じゃ障りありまくりですよね!?…あーもー、駄目だー…」

本当に、衝動買いなんてしちゃ駄目。寝床の確保なんて、基本中の基本なのに。

(…でも、どうしよう。今日、は無理、だけど、次の休みの日って言っても…。お金も、エリアスさん買っちゃったから、心許ない…)

悩んだところで、既に時間があまり無いことに気づく。

「ごめんなさい、流石に今日ベッド買いに行く時間は取れないので、帰って来てから何か考えます!エリアスさんも、さっき言った以外に必要なものあったら、リストアップしといてください!じゃあ、行ってきます!」

言った後で、「行ってきます」なんて言うの、何年ぶりだろうと思う。思って、口がちょっとニヤけてしまった。

(よし!今日も気合入れて頑張ろう!そして、エリアスさんに高級ベッドを!)





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