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本編

6.違和感だらけの女 Side E

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「…」

「…」

静かに崩れ落ちた女が、無言で服を差し出してきた。受け取り、着込んだところで、女が再び動き出す。

「…あの、エリアスさん、ご飯、食べます?お昼にはちょっと早いんだけど、私、朝、食べてなくて。」

「…いや、いらん。」

「あー、そっかー。…じゃあ、私もいいかなー。」

呟いた女が、フラフラと奥の部屋の扉へと向かう。

「じゃ、あの、私、ちょっと寝るので、好きに時間潰しててください。夕方、起きたらご飯作ります。」

「…分かった。」

「あーあと、服。洗濯槽の使い方って、分かります?分からなかったら、適当にその辺においといてください。起きたら洗います。」

言って、本当に部屋の奥へと消えて行った女。

(どういうことだ?)

想像とは異なる女の態度。とてもではないが、加虐趣味を持つ女の言動とは思えない。

(実際、今も放置されてるしな。)

もし、コレまでが女の趣味、プレイの一貫だと言うなら、最早、自分には遠く理解の及ばない世界。

「は…」

考えても仕方ないこと、女の趣味のことは一旦忘れて、これから先のことについて思考を巡らす。

(予想外だったが、装備が戻って来たのは助かった。)

部屋の隅、自分で置いた服と己の得物を眺める。この二つを手に入れるため、大金を惜しげもなくはたいた女。

(…いや、装備だけではないか。)

女は、己自身のことも躊躇なく言い値で購入した。総額一千万を超える金額を即決する姿に、どこぞのお嬢様、金持ちの娘かとも思ったが、この部屋を見る限り、その線は薄い。

庶民的な暮らしをする年若い女、それが、今のところ、女の素性について分かっていること。女が王宮の文官だというのは推測でしかないが、ただ、その推測が当たっていようと、あの若さであれだけの大金を持っていた説明にはならない。出所でどころは気になるところだが、己は奴隷の身。「時間を潰す」に室内の物色は含まれないだろう。

(…先ずは、当初の予定通り、女に取り入る、か。)

その上で油断を誘い、情報を得る。女の背後に何もなければ、外出許可を得て逃げ出せばいいだけのこと、後はどうとでもなる。

(それまではせいぜい愛想よく、すべきなんだろうがな…)

女に阿るという行為に嫌悪が湧くが、それも任務だと思えば─

取り敢えず今は、女が起きるのを待つことしか出来ない。大人しく、部屋の隅、置かれたソファの上で目を閉じた。





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