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本編
4.即決、プレミアム価格で即時決済
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(っ!?なんでーっ!?)
店の奥に続く扉、そこから戻って来た店主の後ろに続く三人を見て、絶叫しそうになった。
(なんでなんで!?なんでこの人たち、肌着だけなのっ!?)
服は?服はどうしたの?
(え?え?もしかして、奴隷ってそうなの?肌着だけの簡易包装!?)
駄目だ、目のやり場に困る。上はともかく、下はパツパツの短パン。今時、小学生だってこんなのはいてない。
(っでも!顔はもっと見れないー!!)
妥協案として、彼らの膝辺りに視線を固定することにした。胸元では、顔が視界に入ってしまう。でも、正直、太もも辺りまではバッチリ見えてる。
(うーうー。それで?こっからどうするの?三人から選ぶの?どうすれば…)
「…如何でしょう。お客様?この三人の中にお気に召す者がおりますか?」
「あ…」
言われて、奴隷商さんの方に視線を逃がし、考える。ここまで来たら、もう後には引けないから。
「…あの、一人ずつ、自己紹介をしてもらってもいいですか?」
「自己紹介?」
「はい、あの、名前と年齢だけでいいので。」
こちらの言葉に頷いた店主が、三人を促して自己紹介をさせる。最初の二人の声をフンフン聞き終わり、三人目、最後の一人の声になった時、再び、天啓が舞い降りた
「…エリアス、二十七だ。」
(っ!?コレだー!!)
高すぎず、低すぎず、だけど艶のある声。それに、それに、彼の太ももは他の二人より、ずっとしっかりして見える。
(完璧。これ、この人。)
即決して、覚悟を決める。
「…すみません、えっと、この人、エリアスさんを下さい。」
「…」
「かしこまりました。…では、手続きを行いますので、こちらへ。」
「…はい。」
言われるまま、エリアスさんの方は極力見ないようにしながら、案内されたテーブルにつく。テーブルの上に置かれた書類。それを、確認するように促された。
「こちらが、奴隷契約書。サイン一つで、奴隷契約をお客様にお移しすることができます。内容をご確認の上、サイン頂ければ。…ちなみに、金額は、こちらになります。」
「えっと、八百二十万…」
そう言えば、値段も確認していなかった。書かれた数字に、ちょっと考える。前世の感覚でいうと高級車くらい。勿論、前世では手も足も出なかったお値段。
(こっちの感覚でいくと、どれくらいなんだろう?)
家と職場の往復だけの毎日。大きな買い物なんてしたことないから、感覚がつかめない。
(家は賃貸だし。)
今借りている部屋の家賃十万レンからすると、多分、ひと一人のお値段としては妥当─
(…なのかな?全然分かんない。)
「…お客様?もし、お値段でお悩みでしたら、こちらも精一杯、勉強させて頂きますので、ご希望のお値段をおっしゃって頂ければ…」
「あ。はい、ごめんなさい。大丈夫です。」
「え?」
「八百二十万で買います。問題ないです。」
「…」
「あ!でも、そうだ、すみません。私、現金は持ち歩いてなくて。バルト銀行の口座引き落としって、可能ですか?」
「…それは、問題ありませんが。…少々お待ち頂いても?」
「はい。」
多分、カードの読み取り機を取りにいくのだろう。店主さんが残り二人の奴隷と共に店の奥へと下がっていく。
エリアスさんと私を残して─
(…気まずい。)
奴隷とご主人様の最初の挨拶ってなんだろう?初めまして?これからよろしく?でも、それって、こっちは選んだ立場だからいいけど、エリアスさんの立場からすれば、「よろしくなんてしたくねーよ」みたいな…?
(うん、会話はおいおい、ということで。)
気まずい時間を誤魔化すため、目の前の書類に目を通してみる。奴隷の売買契約書。奴隷の行動を制限する契約魔法、他傷のほかに自傷を禁じているけれど、「主人の命令」があれば、その限りでない。命令一つで、自立行為の全てを禁止、許可することが出来るらしい。
(怖っ…)
なるべく、「命令」はしない方向でいこう。
「…お待たせ致しました。失礼ですが、一度、こちらにカードを通して頂いても構いませんか?」
「あ!はい…」
遠隔カード読み取り機が目の前に置かれた。
(こうして、お前とまた会う日が来るとは…)
懐かしく、そして、二度と思い出したくない思い出の品の登場に、カードを持つ手に力が入る。基本、スクロール作成が業務の私も、たまに別の班に呼ばれて、組込み式回路の構築を手伝うことがある。カード読み取り機はこの小さな端末の中に、数えきれないくらいの術式が複雑に編み込まれていて─
「…はい、ありがとうございます。カードの使用確認が取れました。問題無くお使い頂けます。」
「…あー、はい、良かったです。」
スムーズな動作、非常に便利。過去への遺恨は忘れることにしてカードを抜き取る。
「えっと、じゃあ、もうこのまま…?」
「はい、こちらにサイン頂き、カードの決済が完了すれば、こちらはお客様のモノになります。」
「…」
店主の言葉に頷いて、契約書に向き合う。きっちりサインし終わったところで気が付いた。
「っ!そうだ!すみません!」
「…何か?今からの契約キャンセルですと、契約書の作成手数料分のキャンセル料が、」
「あ!いえ、そうじゃなくて、あの、服を!」
「…は?」
「エリアスさんって、このままの引き渡しになるんですよね?オプションで!オプションで良いので、何か、着せられる服ってありませんか!?」
「…」
この恰好の成人男子を家に連れ帰るとか、軽く死ねる。必死に店主に詰めよれば、
(あれ?)
店主の目が、キラッと、獲物を狙う猛禽類の目に─
「…かしこまりました。」
「あ、はい?」
「…こちら、エリアスは、元は戦闘奴隷として販売していたものでして。」
「戦闘…」
「奴隷契約時に身に着けていた防具と武器がございます。…こちら、限定品、一点ものでございまして…」
「…限定品。」
「しかも、申し上げた通り、元はエリアス所持の装備。謂わば、エリアス専用装備というわけでございます。」
「専用、装備…」
「…如何致しましょう?」
「っ!?」
怪しい。この店主さんの微笑は似非臭い。けど、だけど─
(限定品!?しかも、専用装備なんて、そんなの、そんなの…!)
「あの、買います。まとめて、服と武器も、全部、買います…」
「っ!?」
一瞬、背後でエリアスさんが息をのんだような気がしたけど。振り向けない。その代わり、目の前の店主がニッコリ笑って、
「お買い上げ、ありがとうございます。」
「…」
流石、商売人、プレゼン力が違う。
お買い上げ金額は、千とんで二十万になった。
店の奥に続く扉、そこから戻って来た店主の後ろに続く三人を見て、絶叫しそうになった。
(なんでなんで!?なんでこの人たち、肌着だけなのっ!?)
服は?服はどうしたの?
(え?え?もしかして、奴隷ってそうなの?肌着だけの簡易包装!?)
駄目だ、目のやり場に困る。上はともかく、下はパツパツの短パン。今時、小学生だってこんなのはいてない。
(っでも!顔はもっと見れないー!!)
妥協案として、彼らの膝辺りに視線を固定することにした。胸元では、顔が視界に入ってしまう。でも、正直、太もも辺りまではバッチリ見えてる。
(うーうー。それで?こっからどうするの?三人から選ぶの?どうすれば…)
「…如何でしょう。お客様?この三人の中にお気に召す者がおりますか?」
「あ…」
言われて、奴隷商さんの方に視線を逃がし、考える。ここまで来たら、もう後には引けないから。
「…あの、一人ずつ、自己紹介をしてもらってもいいですか?」
「自己紹介?」
「はい、あの、名前と年齢だけでいいので。」
こちらの言葉に頷いた店主が、三人を促して自己紹介をさせる。最初の二人の声をフンフン聞き終わり、三人目、最後の一人の声になった時、再び、天啓が舞い降りた
「…エリアス、二十七だ。」
(っ!?コレだー!!)
高すぎず、低すぎず、だけど艶のある声。それに、それに、彼の太ももは他の二人より、ずっとしっかりして見える。
(完璧。これ、この人。)
即決して、覚悟を決める。
「…すみません、えっと、この人、エリアスさんを下さい。」
「…」
「かしこまりました。…では、手続きを行いますので、こちらへ。」
「…はい。」
言われるまま、エリアスさんの方は極力見ないようにしながら、案内されたテーブルにつく。テーブルの上に置かれた書類。それを、確認するように促された。
「こちらが、奴隷契約書。サイン一つで、奴隷契約をお客様にお移しすることができます。内容をご確認の上、サイン頂ければ。…ちなみに、金額は、こちらになります。」
「えっと、八百二十万…」
そう言えば、値段も確認していなかった。書かれた数字に、ちょっと考える。前世の感覚でいうと高級車くらい。勿論、前世では手も足も出なかったお値段。
(こっちの感覚でいくと、どれくらいなんだろう?)
家と職場の往復だけの毎日。大きな買い物なんてしたことないから、感覚がつかめない。
(家は賃貸だし。)
今借りている部屋の家賃十万レンからすると、多分、ひと一人のお値段としては妥当─
(…なのかな?全然分かんない。)
「…お客様?もし、お値段でお悩みでしたら、こちらも精一杯、勉強させて頂きますので、ご希望のお値段をおっしゃって頂ければ…」
「あ。はい、ごめんなさい。大丈夫です。」
「え?」
「八百二十万で買います。問題ないです。」
「…」
「あ!でも、そうだ、すみません。私、現金は持ち歩いてなくて。バルト銀行の口座引き落としって、可能ですか?」
「…それは、問題ありませんが。…少々お待ち頂いても?」
「はい。」
多分、カードの読み取り機を取りにいくのだろう。店主さんが残り二人の奴隷と共に店の奥へと下がっていく。
エリアスさんと私を残して─
(…気まずい。)
奴隷とご主人様の最初の挨拶ってなんだろう?初めまして?これからよろしく?でも、それって、こっちは選んだ立場だからいいけど、エリアスさんの立場からすれば、「よろしくなんてしたくねーよ」みたいな…?
(うん、会話はおいおい、ということで。)
気まずい時間を誤魔化すため、目の前の書類に目を通してみる。奴隷の売買契約書。奴隷の行動を制限する契約魔法、他傷のほかに自傷を禁じているけれど、「主人の命令」があれば、その限りでない。命令一つで、自立行為の全てを禁止、許可することが出来るらしい。
(怖っ…)
なるべく、「命令」はしない方向でいこう。
「…お待たせ致しました。失礼ですが、一度、こちらにカードを通して頂いても構いませんか?」
「あ!はい…」
遠隔カード読み取り機が目の前に置かれた。
(こうして、お前とまた会う日が来るとは…)
懐かしく、そして、二度と思い出したくない思い出の品の登場に、カードを持つ手に力が入る。基本、スクロール作成が業務の私も、たまに別の班に呼ばれて、組込み式回路の構築を手伝うことがある。カード読み取り機はこの小さな端末の中に、数えきれないくらいの術式が複雑に編み込まれていて─
「…はい、ありがとうございます。カードの使用確認が取れました。問題無くお使い頂けます。」
「…あー、はい、良かったです。」
スムーズな動作、非常に便利。過去への遺恨は忘れることにしてカードを抜き取る。
「えっと、じゃあ、もうこのまま…?」
「はい、こちらにサイン頂き、カードの決済が完了すれば、こちらはお客様のモノになります。」
「…」
店主の言葉に頷いて、契約書に向き合う。きっちりサインし終わったところで気が付いた。
「っ!そうだ!すみません!」
「…何か?今からの契約キャンセルですと、契約書の作成手数料分のキャンセル料が、」
「あ!いえ、そうじゃなくて、あの、服を!」
「…は?」
「エリアスさんって、このままの引き渡しになるんですよね?オプションで!オプションで良いので、何か、着せられる服ってありませんか!?」
「…」
この恰好の成人男子を家に連れ帰るとか、軽く死ねる。必死に店主に詰めよれば、
(あれ?)
店主の目が、キラッと、獲物を狙う猛禽類の目に─
「…かしこまりました。」
「あ、はい?」
「…こちら、エリアスは、元は戦闘奴隷として販売していたものでして。」
「戦闘…」
「奴隷契約時に身に着けていた防具と武器がございます。…こちら、限定品、一点ものでございまして…」
「…限定品。」
「しかも、申し上げた通り、元はエリアス所持の装備。謂わば、エリアス専用装備というわけでございます。」
「専用、装備…」
「…如何致しましょう?」
「っ!?」
怪しい。この店主さんの微笑は似非臭い。けど、だけど─
(限定品!?しかも、専用装備なんて、そんなの、そんなの…!)
「あの、買います。まとめて、服と武器も、全部、買います…」
「っ!?」
一瞬、背後でエリアスさんが息をのんだような気がしたけど。振り向けない。その代わり、目の前の店主がニッコリ笑って、
「お買い上げ、ありがとうございます。」
「…」
流石、商売人、プレゼン力が違う。
お買い上げ金額は、千とんで二十万になった。
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