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後日談
芽ぐみ 5
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夜間、ひと月ぶりに王都邸を訪れたのは主の妻一人。タールベルクでの魔物討伐が本番を迎える季節、あちらでの忙しさを考えれば、クリスティーナがこちらへ赴くことさえ難しいであろうに。
単身で訪れ、己を呼びつけた主の妻は、開口一番─
「…それで?トリシャと『本屋の君』の交流は、上手くいってるのね?」
「はい…」
些かの棘を含んだ問いに首肯で返せば、呆れを含んだ嘆息が返る。
「…トリシャに、『私はウェスリーをお勧めするけど』って伝えた方がいいかしら?」
「っ!」
洒落にならない言葉に何とか笑う。
「うっわー。何ですか、それ。…すごい、悪魔の誘惑じゃないですか。」
本当に、質の悪い揶揄い。分かっていても、つい、心がぐらつきそうになる。そんな甘さまで見透かしたように、こちらに向かって苦笑するクリスティーナ。
「…一応、その悪魔のお墨付きはあなたなのだけれど?」
「…光栄です。」
心から感謝して、それでも、無難に返した言葉にまたため息が聞こえる。「難儀ねぇ」と呟いたクリスティーナ、その表情から笑みが消えた。
「…素性は?まだ掴めていないの?」
「はい。…護衛を三人態勢にして、トリシャと別れた後の男を追わせているんですが、どうしても撒かれてしまいます。」
「…うちの騎士を撒く。…それってなかなかのものよね?」
「はい。…或いは、魔導師の可能性もあります。」
「…魔導師?」
思っていた以上に大物、その分、危険性も高くなってきた男の存在に、クリスティーナの眉根に薄っすらと皺が寄った。
「…トリシャが、…秘密にしたがっているようですが、口を滑らしました。男と魔術の話をしているようです。」
「…」
「後は、恐らく、爵位持ちかと思いますので、今後はそちらの線から調べを進めます。」
「爵位?」
「…それも、トリシャが気にしているようでした。昨夜、『嫁ぐ相手が領地を持たない下位貴族でも問題ないのだろうか』と…」
当然、「問題無い」と答えたが、「それなら、俺でもいいじゃないか」と一瞬でも考えてしまったことは口にしない。悔しさと憎しみで、相手の男を消してしまいたいと思った気持ちも─
「…待って。」
「…?」
「待って待って…」
急に、様子のおかしくなった主の妻。言われるままに、その言葉の先を待てば、
「…黒目黒髪って言ってたわよね?…でも、王都に住む三十代の下位貴族、うちの騎士達の尾行を躱すほどの実力がある魔導師。…嫌な予感しかしないわ。」
「…クリスティーナ様?」
「…ウェスリー、あなたに、ちょっと調べて欲しいことがあるの。」
単身で訪れ、己を呼びつけた主の妻は、開口一番─
「…それで?トリシャと『本屋の君』の交流は、上手くいってるのね?」
「はい…」
些かの棘を含んだ問いに首肯で返せば、呆れを含んだ嘆息が返る。
「…トリシャに、『私はウェスリーをお勧めするけど』って伝えた方がいいかしら?」
「っ!」
洒落にならない言葉に何とか笑う。
「うっわー。何ですか、それ。…すごい、悪魔の誘惑じゃないですか。」
本当に、質の悪い揶揄い。分かっていても、つい、心がぐらつきそうになる。そんな甘さまで見透かしたように、こちらに向かって苦笑するクリスティーナ。
「…一応、その悪魔のお墨付きはあなたなのだけれど?」
「…光栄です。」
心から感謝して、それでも、無難に返した言葉にまたため息が聞こえる。「難儀ねぇ」と呟いたクリスティーナ、その表情から笑みが消えた。
「…素性は?まだ掴めていないの?」
「はい。…護衛を三人態勢にして、トリシャと別れた後の男を追わせているんですが、どうしても撒かれてしまいます。」
「…うちの騎士を撒く。…それってなかなかのものよね?」
「はい。…或いは、魔導師の可能性もあります。」
「…魔導師?」
思っていた以上に大物、その分、危険性も高くなってきた男の存在に、クリスティーナの眉根に薄っすらと皺が寄った。
「…トリシャが、…秘密にしたがっているようですが、口を滑らしました。男と魔術の話をしているようです。」
「…」
「後は、恐らく、爵位持ちかと思いますので、今後はそちらの線から調べを進めます。」
「爵位?」
「…それも、トリシャが気にしているようでした。昨夜、『嫁ぐ相手が領地を持たない下位貴族でも問題ないのだろうか』と…」
当然、「問題無い」と答えたが、「それなら、俺でもいいじゃないか」と一瞬でも考えてしまったことは口にしない。悔しさと憎しみで、相手の男を消してしまいたいと思った気持ちも─
「…待って。」
「…?」
「待って待って…」
急に、様子のおかしくなった主の妻。言われるままに、その言葉の先を待てば、
「…黒目黒髪って言ってたわよね?…でも、王都に住む三十代の下位貴族、うちの騎士達の尾行を躱すほどの実力がある魔導師。…嫌な予感しかしないわ。」
「…クリスティーナ様?」
「…ウェスリー、あなたに、ちょっと調べて欲しいことがあるの。」
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