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後日談
芽ぐみ 2
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転移陣を使って王宮を訪れている予定の主夫妻、先触れ無しに王都邸へと現れた主の妻を迎える。主を伴わない姿に感じた違和感は、あちらも同じらしく─
「あら?トリシャは?一緒ではないの?」
「…トリシャは街に出ています。護衛はつけておりますので、ご安心下さい。…クリスティーナ様が到着されたこと、お伝えしましょうか?」
「必要ないわ。早く着き過ぎたのは私だもの。…フリード様が陛下に捕まってしまったから、私だけ先に逃げ出してきたの。」
「それは…」
不遜な感想しか出て来なかったために、口を噤む。
「…ウェスリーこそ、珍しいわね?トリシャについていかないなんて。」
「それは、まぁ、色々ありまして、…置いていかれました。」
表情は消していたつもりだが、「色々」を敏感に察してしまったらしい主の妻は、歩みを止めてこちらを見上げる。
「…先週、トリシャに聞かれたわ。『自分が嫁ぐべき相手はいるか』と。」
「はい…」
「…『居ない』と答えたのだけれど、『居る』と答えておくべきだったかしら?」
「…」
(…本当に、察しのいい。)
逸らすことを許さない瞳に、諦めて嘆息する。
「…聞かれましたよ、俺も。『誰と結婚すればいいか』って。」
「そう?それで、あなたは何て答えたの?」
「…多分、クリスティーナ様と同じです。…『トリシャの自由にすればいい』と答えました。」
「…それは、また。…随分と強がったわね…?」
「はは。」
強がったわけではない。ただ、そうしなければならなかっただけ。
「何故そこで求婚しないの?それじゃあ、体のいい断り、拒絶と取られてもおかしくないでしょう?」
「ですね…」
「…ウェスリー、あなた、その答えで、トリシャがどこかに行ってしまったらどうするつもり?トリシャが、あなた以外を選んだら…?」
「…それは、それでいいと思ってます。…」
「本気なの…?」
本気ではある。ただ、本意かと問われると─
「…そりゃ、トリシャが俺を望んでくれたら、スゲェ嬉しいですよ?…けど、選ぶのは、決めるのはトリシャで、俺から求めることは許されませんから。」
トリシャの一番近くに居るのが自分であることは間違いない。ただ、トリシャの想いが自身と同じ想いであるとは思っていない。己が彼女に対して持つ「欲」がトリシャには無い。
「兄妹」、或いは「友」の域を越えられない思いがあることも、己は知っているから─
「…俺は、そういう風に育てられたんですよ。」
「…」
「シュミットの人間にとっては、タールベルク家の意志が絶対。望まれれば応えます。けれど、トリシャが他を望むなら、俺はそれを祝福して、トリシャを支え続けます。」
それが、今まで通り、「隣で」という訳にはいかなくとも─
ため息が聞こえた。小さな呟き、
「…難儀ねぇ…」
「…」
主の妻の言葉に、肩をすくめて応える。
それでも、まだ、己の中に希望があったから。己が守り、隠し続けてきたトリシャの傍に、他の男の存在なんて欠片もなかったから─
「あら?トリシャは?一緒ではないの?」
「…トリシャは街に出ています。護衛はつけておりますので、ご安心下さい。…クリスティーナ様が到着されたこと、お伝えしましょうか?」
「必要ないわ。早く着き過ぎたのは私だもの。…フリード様が陛下に捕まってしまったから、私だけ先に逃げ出してきたの。」
「それは…」
不遜な感想しか出て来なかったために、口を噤む。
「…ウェスリーこそ、珍しいわね?トリシャについていかないなんて。」
「それは、まぁ、色々ありまして、…置いていかれました。」
表情は消していたつもりだが、「色々」を敏感に察してしまったらしい主の妻は、歩みを止めてこちらを見上げる。
「…先週、トリシャに聞かれたわ。『自分が嫁ぐべき相手はいるか』と。」
「はい…」
「…『居ない』と答えたのだけれど、『居る』と答えておくべきだったかしら?」
「…」
(…本当に、察しのいい。)
逸らすことを許さない瞳に、諦めて嘆息する。
「…聞かれましたよ、俺も。『誰と結婚すればいいか』って。」
「そう?それで、あなたは何て答えたの?」
「…多分、クリスティーナ様と同じです。…『トリシャの自由にすればいい』と答えました。」
「…それは、また。…随分と強がったわね…?」
「はは。」
強がったわけではない。ただ、そうしなければならなかっただけ。
「何故そこで求婚しないの?それじゃあ、体のいい断り、拒絶と取られてもおかしくないでしょう?」
「ですね…」
「…ウェスリー、あなた、その答えで、トリシャがどこかに行ってしまったらどうするつもり?トリシャが、あなた以外を選んだら…?」
「…それは、それでいいと思ってます。…」
「本気なの…?」
本気ではある。ただ、本意かと問われると─
「…そりゃ、トリシャが俺を望んでくれたら、スゲェ嬉しいですよ?…けど、選ぶのは、決めるのはトリシャで、俺から求めることは許されませんから。」
トリシャの一番近くに居るのが自分であることは間違いない。ただ、トリシャの想いが自身と同じ想いであるとは思っていない。己が彼女に対して持つ「欲」がトリシャには無い。
「兄妹」、或いは「友」の域を越えられない思いがあることも、己は知っているから─
「…俺は、そういう風に育てられたんですよ。」
「…」
「シュミットの人間にとっては、タールベルク家の意志が絶対。望まれれば応えます。けれど、トリシャが他を望むなら、俺はそれを祝福して、トリシャを支え続けます。」
それが、今まで通り、「隣で」という訳にはいかなくとも─
ため息が聞こえた。小さな呟き、
「…難儀ねぇ…」
「…」
主の妻の言葉に、肩をすくめて応える。
それでも、まだ、己の中に希望があったから。己が守り、隠し続けてきたトリシャの傍に、他の男の存在なんて欠片もなかったから─
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