お役御免の召喚巫女、失恋続きののち、年下旦那様と領地改革

リコピン

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第一章 召喚巫女、お役御免となる

8.初めまして、結婚します?

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結局、王太子に願い出た「お見合い」相手は、選択の余地のない一人になってしまった。その残った貴重な一人に実際に会って話がしたいと要求した私に対して、「セルジュ・アンブロスを選んだ理由は?」と尋ねた殿下に返せる返事は無く、ただ曖昧に笑う。

─消去法で

そうバカ正直に答えて、わざわざ見合い相手に不快な思いをさせる必要は無い。

顔合わせを望んだ日よりちょうど一週間後、東の辺境─アンブロス領─へは片道三日かかるということだから、最速で調えられた見合いの席に、今、残されているのは私とセルジュ・アンブロスの二人のみ。

「本日はお日柄もよく」と言わんばかりに、王宮の中庭で始まった顔合わせは、王太子殿下直々の仲人による紹介が済めば、「後はお若いお二人で」状態で、さっさと二人きりにされてしまった。

(…さて、何を話そうか。)

改めて、目の前に座るセルジュを眺める。

(…背、結構あるんだなぁ。)

写真では分からなかったこと。殿下やガイラスほどはないけれど、サキアと同じくらい、つまり、隣に並んだらちょっと見上げなければならないくらいには、セルジュの身長は高かった。かと言って、ガイラス達のような威圧感があるわけでもなく、どちらかと言うと細身の身体、襟足までの黒髪に前髪が僅かに長く、その下の顔立ちは写真通りのそこそこ整った─

(…ん?あれ…?)

「…」

「…」

(いや、これは、普通に…)

マジマジ観察してしまった。

凪いだ瞳に見つめ返されて、慌てて視線を逸らす。写真では黒に見えていた彼の瞳は、暗めの茶色だった。

(…うん。よし、本気でちょっと緊張してきた…!)

こちらに来てからというもの、王太子や彼の側近達という派手顔美人ばかりを見てきたせいで感覚が麻痺してしまっていたが、元の世界、私の人生基準で言えば、目の前のセルジュも間違いなくイケメン─というか美少年?美青年?─の類いに入る。

日本人には馴染み深い薄味イケメンで、こんな子が大学サークルにいたら、間違いなくキャーキャー言われて可愛がられていたはず。私では、恐れ多くて声もかけられなかっただろう。

(そんな子を、私、今、お見合いでゲットしようとしてる…)

「…」

「…」

セルジュの様子を窺ってみても、動かない表情からでは彼がこのお見合いをどう思っているのかは分からない。

ただ、先ほどから彼が行儀よく黙ったままなのは、目上の人間である巫女様わたしが話し始めるのを待っている、ということだろうから、まさに「権力で若い子に手を出そうとしている」図なのは間違いない。

(マジかー。心が痛む…)

思っていた以上に紳士的な年下男子。折れそうになる心をため息ごと飲み込んだ。

本当なら、セルジュに聞きたいこと、確かめたいことは色々ある。だけど、全てを知るための時間はないし、ついでに言うと、私には彼以外の選択肢もない。だから、まあ、確かめるのは、一つだけ。

「えーっと、アンブロス伯?」

「はい…」

返された声は高くもなく低くもなく。淡々としているが、冷たさは感じない。

「あー、えっと、確認しておきたいんですけど、今回のお見合いは、伯ご自身の意思というか何というか、『無理してこの場に居るわけではない』ってことでいいですか?」

「…」

焦る自分の言葉が、妙に上滑りして聞こえる。実際、目の前にしたセルジュの若さというか、肌の張りやら、若者特有の線の細さとか、そういうものに色々怖じ気づいて、ぴゃーっと逃げ出したくてたまらない。ただただ、沈黙が怖くて必死に言葉を紡いだ。

「いや、アンブロス伯にご迷惑をおかけしたくないというか、もし、伯に結婚の意思が無いんでしたら、こちらから上手く断ることも出来ますよというか…」

ゴニョゴニョと自分でも何言ってんだと思いながら言葉を探せば、彼の口がゆっくりと開いた。

「…巫女様は、どうなのでしょうか?」

「え?」

反射的に問い返す。

「巫女様は、私をお選びになりますか?」

「!」

選ぶ、というか、他に選択肢がない。年齢の割に落ち着いたセルジュの問いかけに、若干気圧されながら、コクコクと頷いて返す。

「…ありがとうございます、巫女様。あなたにお選び頂けるのなら、私はあなたとの婚姻を望みます。」

「!」

そう言って真っ直ぐに見つめてくる瞳に、言葉もなく、ただもう一度頷いた。

彼の若さに対する罪悪感とか、権力の濫用では?という不安とか、そう言ったものを完全に払拭することは出来ないけれど、言質はとった。せっかくの厚意には全力で乗っかっておこう。

流されてるだけ、ただの勢い、かもしれないけれど─






結局、その場でまとまってしまったお見合い話。その後もトントン拍子に話が進んでいった結果、僅か一ヶ月という貴族社会では異例の短さの婚約期間を経て、「結界の巫女の婚姻式」が王都で盛大に執り行われるに至った。







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