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後日談
王太子の悔恨
しおりを挟む「イヤよ!そんなの絶対にイヤ!」
「…エレオノーラ」
「どうして私がフェルンに行かなくてはならないの!?フェルン国王なんて知らない!私はガリオンとしか結婚しないわ!ガリオンを連れてきて!」
エレオノーラの私室、両親に慰められ、涙を流す妹の姿―
「…陛下、何とかならないのですか?フェルンはあまりにも遠すぎます。それに、フェルン国王は既に三人の妃をお持ちではないですか。せめて…」
「余とて、エレオノーラを他国に出したくはない、だが…」
他に、残された選択肢が無いのだ―
これが数年前ならば話は違った。降るようにあった縁談。だが、本人と父王の希望により全てに「否」をつきつけ、望んだのは、
「お兄様が、ガリオンとあんな化け物を結婚させるから!」
「…」
睨まれて、返す言葉を失った。
平民出身の近衛騎士では、王族の姫を娶ることは不可能。父王の命を受け、何とか釣り合いをとるためにガリオンを第三隊の隊長につけてはみたものの、流石にそれ以上となると保守派が言い顔をしなかった。そんな中、アクセルの起こした不祥事により都合よく空いた騎士団長の席。一度ガリオンをそこに据え、改めてエレオノーラとの婚姻を進めればいいと思ったのだ。それが、こんな事態を招くとは露ほども思わずに。
傲っていた―
計画のため、女一人排除することに何の疑問も抵抗もなく。むしろ、エレオノーラを降嫁させることで、騎士団の長を己の陣営に取り込むことが出来るとさえ考えていた。王妃派を黙らせ、安定した国の運営に繋げられると。
その結果が、この様だ―
「お父様も、お兄様も大っ嫌い!ガリオンに会わせてよ!」
「…エレオノーラ…」
「触らないで!出ていって!」
「…」
父王の手を振り払い母親にすがり付く妹の姿に、後悔と虚しさだけが募る。
―どこで、間違えたのだろう
彼女に、ガリオンを与えようとした父、そのために動いたのは自分自身。
最初から―
エレオノーラに身分も何もかもを捨てさせて、ガリオンとの婚姻を認めてやれば良かったのか?平民として生きる道を?
目の前、泣きじゃくる妹を眺める。肉親として、エレオノーラを大切に思う気持ちに嘘はない。だが、だからこそ、彼女が市井に降りることなど不可能だと断言出来てしまう。
やはり、ガリオンを与えるためには今回の方法が最善だったと、思考が同じところをグルグルと回り始めて、
結局―
相手が悪かったのだ、あまりにも。
そして、それを見抜けなかった自分が無能だったのだ、救いようのないほどに。
「…すまない、エレオノーラ」
口に出した謝罪、返る返事はないままに部屋を後にする。
どれだけエレオノーラが拒絶しようが、今回の婚姻は必ず成る。でなければ、再び国を危険に晒すことになってしまうからだ。それだけは、絶対に避けなければならない。
女一人を犠牲にして国の安寧をはかる―
まさに、己がしようとしていたことではないか。ただ、犠牲にする人間が大切な妹にすりかわっただけ―
「っ!」
どれだけ悔やんでももう遅い、己の傲慢が招いた結果に、それでも悔やまずにはいられない。
痛感する己の無力を、ほの暗い怒りに変える。前へ進むための、力へと―
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