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第五章(最終章) 自分のための一歩
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「トーコ!?」
「大丈夫、平気だから」
霊廟の中へと一歩、踏み出す。慌てて止めようとするヴォルフを制止し、部屋の中央に置かれた他よりも大きい棺、その上に漂い続ける影に歩み寄る。
手の届く距離まで近づいても、影がこちらに反応することはない。『意思を持たない』というのは、本当なのかもしれない。
「トーコ?」
背後から、ヴォルフの案ずる声がかけられる。
「…彼は、『魔王』は、私達を傷つけることはしないと思う」
「…何か、知っているのか?」
「…」
目の前の影を見上げて、その表情を探るが、そこにやはり『感情』を見つけることが出来ない。
背後のヴォルフを振り返る。『彼』とヴォルフが重なる。守護石を持たないヴォルフが、『彼』と同じはずはないのだけれど―
「…『彼』は、先代巫女の、守護者だった人。もしかしたら、その魂のような存在、なんだと思う」
「…」
先代巫女をただ一人愛し、先代巫女にただ一人愛された守護者―
宝珠にあった先代巫女の記憶が真実ならば、目の前の棺の大きさにも納得がいく。二人は、約束をしていた。そして、先代巫女の死後―当然、宝珠にその情報は遺されていなかったけれど―彼は、その約束を守ったのだろう。
目の前の棺には、先代巫女と、彼女に殉じたただ一人の守護者が眠っている―
「…先代の巫女は、守護者を一人しか側に置かなかったから。巫女の内に溜まった瘴気を全て浄化することが出来なかったみたい」
「…」
「常に瘴気が飽和に近い状態で、それでもギリギリなんとか世界を救ったみたいなんだけど」
その状態を誤魔化すために、守護者の役割を歪曲させ、一部を隠ぺいした。その影響が、今も残ってしまっているのだろうけれど、私は彼女を責められない。
―もしも、ヴォルフが守護者の一人だったら
私も、彼女と同じ選択をしていたかもしれないから。
ヴォルフを見上げれば、彼は油断無く影を見据えている。
「…この影がその守護者の男だと言うのは、どういうことだ?」
「巫女の死後、彼は彼女の後を追ったんだと思う。そして、共に埋葬されることを望んだ。瘴気が飽和した状態の巫女の体と共に」
「それは…」
言葉をのんだヴォルフに、頷く。
「自分が宿している『守護石』の力で、巫女の体の瘴気を浄化するか、封じ込めるかしようと思っていたみたい」
極限まで溜まった瘴気が溢れ出してしまわないように。
そして実際に、最近まではそれに成功していたのだ。それが、何らかの理由で限界を迎えてしまい、こうして『魔王』として出現してしまった。
目の前の影が、例え守護者だった『彼』の姿をしていても、意思を持たない、文字通りの『影』であることだけは、救いなのかもしれないけれど。
影と向かい合い、大きく息を吸う。
「…全部、祓うね」
「出来るのか?」
「多分」
巫女一人の内に溜まっていた量の瘴気。先代巫女と自分の巫女としての器に、大きな違いはない。後は、どれだけの想いで、『世界を救いたい』と願えるか―
両腕を軽く広げる。体全部で瘴気を受け入れるイメージを膨らます。背後には、大切な存在。彼だけを想う。
流れ込む瘴気の量が増していく。今までに無い程の不快感に、汗が流れ出す。ふらつきそうになる体を歯を食いしばって耐える。
黒い影が揺らぎだした。その姿が、薄まっていくのがわかる。
―耐えろ
意識を失えば、浄化のペースが落ちてしまう。ここで倒れることだけは、絶対に出来ない―
「トーコ!?」
「大丈夫、平気だから」
霊廟の中へと一歩、踏み出す。慌てて止めようとするヴォルフを制止し、部屋の中央に置かれた他よりも大きい棺、その上に漂い続ける影に歩み寄る。
手の届く距離まで近づいても、影がこちらに反応することはない。『意思を持たない』というのは、本当なのかもしれない。
「トーコ?」
背後から、ヴォルフの案ずる声がかけられる。
「…彼は、『魔王』は、私達を傷つけることはしないと思う」
「…何か、知っているのか?」
「…」
目の前の影を見上げて、その表情を探るが、そこにやはり『感情』を見つけることが出来ない。
背後のヴォルフを振り返る。『彼』とヴォルフが重なる。守護石を持たないヴォルフが、『彼』と同じはずはないのだけれど―
「…『彼』は、先代巫女の、守護者だった人。もしかしたら、その魂のような存在、なんだと思う」
「…」
先代巫女をただ一人愛し、先代巫女にただ一人愛された守護者―
宝珠にあった先代巫女の記憶が真実ならば、目の前の棺の大きさにも納得がいく。二人は、約束をしていた。そして、先代巫女の死後―当然、宝珠にその情報は遺されていなかったけれど―彼は、その約束を守ったのだろう。
目の前の棺には、先代巫女と、彼女に殉じたただ一人の守護者が眠っている―
「…先代の巫女は、守護者を一人しか側に置かなかったから。巫女の内に溜まった瘴気を全て浄化することが出来なかったみたい」
「…」
「常に瘴気が飽和に近い状態で、それでもギリギリなんとか世界を救ったみたいなんだけど」
その状態を誤魔化すために、守護者の役割を歪曲させ、一部を隠ぺいした。その影響が、今も残ってしまっているのだろうけれど、私は彼女を責められない。
―もしも、ヴォルフが守護者の一人だったら
私も、彼女と同じ選択をしていたかもしれないから。
ヴォルフを見上げれば、彼は油断無く影を見据えている。
「…この影がその守護者の男だと言うのは、どういうことだ?」
「巫女の死後、彼は彼女の後を追ったんだと思う。そして、共に埋葬されることを望んだ。瘴気が飽和した状態の巫女の体と共に」
「それは…」
言葉をのんだヴォルフに、頷く。
「自分が宿している『守護石』の力で、巫女の体の瘴気を浄化するか、封じ込めるかしようと思っていたみたい」
極限まで溜まった瘴気が溢れ出してしまわないように。
そして実際に、最近まではそれに成功していたのだ。それが、何らかの理由で限界を迎えてしまい、こうして『魔王』として出現してしまった。
目の前の影が、例え守護者だった『彼』の姿をしていても、意思を持たない、文字通りの『影』であることだけは、救いなのかもしれないけれど。
影と向かい合い、大きく息を吸う。
「…全部、祓うね」
「出来るのか?」
「多分」
巫女一人の内に溜まっていた量の瘴気。先代巫女と自分の巫女としての器に、大きな違いはない。後は、どれだけの想いで、『世界を救いたい』と願えるか―
両腕を軽く広げる。体全部で瘴気を受け入れるイメージを膨らます。背後には、大切な存在。彼だけを想う。
流れ込む瘴気の量が増していく。今までに無い程の不快感に、汗が流れ出す。ふらつきそうになる体を歯を食いしばって耐える。
黒い影が揺らぎだした。その姿が、薄まっていくのがわかる。
―耐えろ
意識を失えば、浄化のペースが落ちてしまう。ここで倒れることだけは、絶対に出来ない―
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