召喚巫女の憂鬱

リコピン

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第五章(最終章) 自分のための一歩

4.

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4.

―魔王は、聖都の足元のダンジョン『カタコンベ』の最奥に居る

ソフィーのその言葉に従って、聖都へと舞い戻った。

目指すは、高坏たかつきの上ではなく、その台座部分。『カタコンベ』と名のついた―幸いなことに、ヴォルフが過去に踏破したことがあるという―ダンジョンの、その入口。土の壁にぽっかりと開いたそこには、暗闇に支配された地下へと続く石造りの階段が見えている。

「…トーコ、安心しろ。ダンジョンと名はつくものの、実際には地下三階までしかない、浅い階層の造りだ。大した魔獣も出現しない。ソフィーも言っていただろう?心配するな」

「うん」

暗闇を前に、怯えてしまっていることに気づかれたのだろう。安心させるように、ヴォルフが言葉をかけてくれた。

同時に、ソフィーの言葉を思い出す。

―またこんなこと言ったら、ダメなんだろうけど

そう言って笑っていた彼女。

―元が『乙女ゲーム』なんだからさ。そんな、ガチの戦闘なんて無いよ

魔王と言う存在に、固くなっていた私を、励ましてくれた言葉。

―油断はダメでも、あんたなら大丈夫。倒せるよ

根拠なんて無いけどあんたを信じると言ってくれた彼女の言葉を、私は信じよう。

「…ごめんね。行こう、ヴォルフ」

「ああ」

ヴォルフが、暗闇へと一歩を踏み出す。その後へと続いた―





暗闇の中、ヴォルフの持っていた懐中電灯のような古代遺物アーティファクトの光を頼りに進む。

次第に濃くなる瘴気を感じながら―魔獣との戦闘では完全に足手まといでしかないから―瘴気の浄化に全神経を注ぐ。ヴォルフが、瘴気に触れることがないよう―

そうして暫く進んだ先、ヴォルフが言ったように、階段を三つ下りた階層の最奥に大きな両開きの扉が現れた。

「…ここだ」

―ああ、やはり

ソフィーに魔王の居場所を告げられた時から、一つの推測、可能性が浮かんでいた。

カタコンベ―

宝珠の知識が教えてくれる、歴代の『巫女』とその守護者達が眠る墓所。今、彼女達が眠るはずのその扉の向こうから、目に見えるほどの濃い瘴気が滲み出してきている。

「…トーコ、前には出るなよ」

「うん」

ヴォルフが、扉に手をかけた。その腕の筋肉が盛り上がる。重たい扉が、ギシリと音を立てて開いていく。途端、中から溢れ出す瘴気を意識して吸い込む。彼には、触れさせない。

開ききった扉の向こう、壁際に円を描くように安置された棺の数々。その中心に置かれた、一際大きな棺の上に漂う、黒い影。

―意思を持たない、瘴気の塊

人の姿のようにも見えるそれが、ソフィーの言っていた、『魔王』なのだろう。

―だけど

実際には会ったこともないというのに。

見つけてしまった。その暗黒の姿に、かの人の面影を。

私は、『彼』を知っている―




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