召喚巫女の憂鬱

リコピン

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第五章(最終章) 自分のための一歩

2.

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2.

―やっと、振り切ったと思ったのに

ハイリヒを置いて神殿を出たところで、今度はフリッツに遭遇してしまった。黙ったまま、彼を避けて通ろうとすれば、その道を塞がれてしまう。

「巫女、待ってくれ」

「…」

「瘴気発生の元凶を探しに行くと聞いた。俺も、連れていってくれ」

「嫌」

考えるまでもなく即答したというのに、フリッツが食い下がってくる。

「頼む。お前が俺を疎んじていることは理解した。だが、それでも俺はお前の力になりたい。剣の腕なら自信があるんだ、だから!」

「なれない」

「巫女!」

彼の言葉を信じるのなら、戦力としては期待出来るのかもしれないけれど―

「本気で私の力になりたいと思っているなら、ついて来ないで。あなたに煩わされたくないの。私はヴォルフのことだけを考えていたい」

「っ!」

「ヴォルフのことだけ考えているのが、浄化の効率が一番いいの。あなたが側に居ても、浄化の妨害にしかならない」

瘴気の発生源に近づくのだ。どれ程の濃度があるのかわからない場所に。雑音は少しでも入れたくない。

「…それでも、俺はお前についていきたい。あの日、神の御前で、俺はお前と向き合うと誓ったんだ」

「そう。それで?」

「『それで』、とは?」

戸惑うような素振りを見せるフリッツだが、彼は本当の意味で理解しているのだろうか。

何をどう誓ったかなんて知らない。だけど、当時の私は何も感じなかったし、今さらそんな話をされても、『それで?』としか思えない」

「!?」

だから、フリッツを連れていくことは絶対にない。

守護石を宿さないヴォルフが一緒に来ると言ってくれたのだ。彼を瘴気から守りたい、彼が瘴気に侵されてしまうような危険は絶対に避けなければ。

―邪魔を、しないで

拒絶の視線を向けるが、フリッツがそれで引く様子はない。

「…だが、」

まだ、何かを言おうとする彼の言葉を遮る。

「名前」

「え?」

「私の名前を、あなたは知っているの?」 

「!?」

彼が『向き合う』と誓ったと言う、その相手は、一体誰だったと言うのか―

「巫女ではない私の名前。それすら知ろうとしなかったあなたの言葉を、私は信じない」

「…」

言葉を失ったフリッツに背を向ける。行こうと小さくヴォルフに言葉をかけて歩き出す。今度こそ、ソフィー達の元へ。今度はいつ来るかもわからない聖都を後にした。




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