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第五章(最終章) 自分のための一歩
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―やっと、振り切ったと思ったのに
ハイリヒを置いて神殿を出たところで、今度はフリッツに遭遇してしまった。黙ったまま、彼を避けて通ろうとすれば、その道を塞がれてしまう。
「巫女、待ってくれ」
「…」
「瘴気発生の元凶を探しに行くと聞いた。俺も、連れていってくれ」
「嫌」
考えるまでもなく即答したというのに、フリッツが食い下がってくる。
「頼む。お前が俺を疎んじていることは理解した。だが、それでも俺はお前の力になりたい。剣の腕なら自信があるんだ、だから!」
「なれない」
「巫女!」
彼の言葉を信じるのなら、戦力としては期待出来るのかもしれないけれど―
「本気で私の力になりたいと思っているなら、ついて来ないで。あなたに煩わされたくないの。私はヴォルフのことだけを考えていたい」
「っ!」
「ヴォルフのことだけ考えているのが、浄化の効率が一番いいの。あなたが側に居ても、浄化の妨害にしかならない」
瘴気の発生源に近づくのだ。どれ程の濃度があるのかわからない場所に。雑音は少しでも入れたくない。
「…それでも、俺はお前についていきたい。あの日、神の御前で、俺はお前と向き合うと誓ったんだ」
「そう。それで?」
「『それで』、とは?」
戸惑うような素振りを見せるフリッツだが、彼は本当の意味で理解しているのだろうか。
「あなたが何をどう誓ったかなんて知らない。だけど、当時の私は何も感じなかったし、今さらそんな話をされても、『それで?』としか思えない」
「!?」
だから、フリッツを連れていくことは絶対にない。
守護石を宿さないヴォルフが一緒に来ると言ってくれたのだ。彼を瘴気から守りたい、彼が瘴気に侵されてしまうような危険は絶対に避けなければ。
―邪魔を、しないで
拒絶の視線を向けるが、フリッツがそれで引く様子はない。
「…だが、」
まだ、何かを言おうとする彼の言葉を遮る。
「名前」
「え?」
「私の名前を、あなたは知っているの?」
「!?」
彼が『向き合う』と誓ったと言う、その相手は、一体誰だったと言うのか―
「巫女ではない私の名前。それすら知ろうとしなかったあなたの言葉を、私は信じない」
「…」
言葉を失ったフリッツに背を向ける。行こうと小さくヴォルフに言葉をかけて歩き出す。今度こそ、ソフィー達の元へ。今度はいつ来るかもわからない聖都を後にした。
―やっと、振り切ったと思ったのに
ハイリヒを置いて神殿を出たところで、今度はフリッツに遭遇してしまった。黙ったまま、彼を避けて通ろうとすれば、その道を塞がれてしまう。
「巫女、待ってくれ」
「…」
「瘴気発生の元凶を探しに行くと聞いた。俺も、連れていってくれ」
「嫌」
考えるまでもなく即答したというのに、フリッツが食い下がってくる。
「頼む。お前が俺を疎んじていることは理解した。だが、それでも俺はお前の力になりたい。剣の腕なら自信があるんだ、だから!」
「なれない」
「巫女!」
彼の言葉を信じるのなら、戦力としては期待出来るのかもしれないけれど―
「本気で私の力になりたいと思っているなら、ついて来ないで。あなたに煩わされたくないの。私はヴォルフのことだけを考えていたい」
「っ!」
「ヴォルフのことだけ考えているのが、浄化の効率が一番いいの。あなたが側に居ても、浄化の妨害にしかならない」
瘴気の発生源に近づくのだ。どれ程の濃度があるのかわからない場所に。雑音は少しでも入れたくない。
「…それでも、俺はお前についていきたい。あの日、神の御前で、俺はお前と向き合うと誓ったんだ」
「そう。それで?」
「『それで』、とは?」
戸惑うような素振りを見せるフリッツだが、彼は本当の意味で理解しているのだろうか。
「あなたが何をどう誓ったかなんて知らない。だけど、当時の私は何も感じなかったし、今さらそんな話をされても、『それで?』としか思えない」
「!?」
だから、フリッツを連れていくことは絶対にない。
守護石を宿さないヴォルフが一緒に来ると言ってくれたのだ。彼を瘴気から守りたい、彼が瘴気に侵されてしまうような危険は絶対に避けなければ。
―邪魔を、しないで
拒絶の視線を向けるが、フリッツがそれで引く様子はない。
「…だが、」
まだ、何かを言おうとする彼の言葉を遮る。
「名前」
「え?」
「私の名前を、あなたは知っているの?」
「!?」
彼が『向き合う』と誓ったと言う、その相手は、一体誰だったと言うのか―
「巫女ではない私の名前。それすら知ろうとしなかったあなたの言葉を、私は信じない」
「…」
言葉を失ったフリッツに背を向ける。行こうと小さくヴォルフに言葉をかけて歩き出す。今度こそ、ソフィー達の元へ。今度はいつ来るかもわからない聖都を後にした。
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