召喚巫女の憂鬱

リコピン

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第四章 聖都への帰還と決意

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瘴気を祓うためにしなければならないこと。まずは、私の内に溜まりきった瘴気を浄化する必要がある。ある程度は、守護者達の協力を求めることになるだろうけれど、その前に―

「ヴォルフ、行きたい場所があるの。ついてきてくれる?」

「ああ」

瘴気を何とか吸収出来ている今のうちに、行っておきたい場所。今ならまだ、私の側が一番瘴気が薄いと言えるから、ヴォルフには一緒に居て欲しい。

ヴォルフとともに訪れたのは、聖都を覆う瘴気を抜けた先。かつて、私とヴォルフが引き離されてしまったネーエの街。その路地裏を抜けて、レンガ造りの一軒家にたどり着いた。

あちこち傷んでしまっているが、宝珠の記憶から、ここが神殿管轄の孤児院だということを知っている。司祭のクラウスとはドロテアを介して面識があり、ドロテア自身も、しきりに慰問を勧めていた場所。

決して治安がいいとは言えない場所に、ヴォルフが周囲を警戒しているのがわかる。

「…トーコ、ここに何かあるのか?」

「ヴォルフが教えてくれたでしょ?ナハトがネーエの孤児院に引き取られたって」

「ああ。館の女に頼まれた。『お前が案じているだろうから』とな」

ここにあの男が居るのかと問うヴォルフに、うなずいて返す。

訪問を告げるために戸を叩けば、中から現れたのは、一度だけ顔を会わせたことのあるクラウス。彼の足元には、数人の子ども達がまとわりついている。

「これは、巫女様…」

驚いてはいるようだが、疲弊した様子のクラウスの声には力が無い。訪問の理由を告げれば、暫しの逡巡のあと、身を引いて扉の中へと招き入れられた。

通された部屋、ベッドに横たわる男の顔には血の気がなく、その瞳からは、かつて見せた獰猛な光が失われている。

「…何のようだ」

クラウスに手伝われながら、どうにか上半身を起こした男の声にも、生気が感じられない。

これが瘴気の、私の引き起こしたことの結果―

「…あなたに提案があって来た」

「提案?俺を殺しに来たのでも、無様な姿を笑いに来たのでもなく?」

そう言って揶揄する言葉にも、覇気がない。

笑って見せる男の顔を見つめる。その表情を、確かめるために。

「あなたを蝕む瘴気を浄化してあげると言ったら、どうする?」

「…」

男の顔から笑いが消えた。憎悪に燃える眼差しが向けられる。

「もしあなたが、今後私の言うことに従うと言うなら、あなたを私の守護者にしてあげる。そうすれば、」

「断る」

「!?ナハト!なぜ!?せっかく助けて下さるとおっしゃっているのに!」

一瞬の躊躇いもなく拒絶を示したナハトに、クラウスが悲痛な声をあげる。その必死な形相に、彼がどれだけナハトを案じているのかが伝わってきたけれど、

「俺はドロテアのものなんだよ。だから、他の誰のめいもきかないし、守護者なんてものには、死んでもならない」

ナハトの瞳に、先ほどまでは失われていた輝きが僅かに戻っている。そこに、彼の動かしがたい想いを感じてしまう。

「…私には守りたい人達がいる。そこに、あなたは含まれない。あなたへの提案はこれが最初で最後。本当に、それでいいのね?」

「くどいね、巫女様も。返事は変わらない」

さっさと帰ればと返された返事に、心を決める。

「…わかった」

「巫女様!?」

「…」

いつか、この選択を後悔する日が来るかもしれない。だけど、

「行こう、ヴォルフ」

「ああ、そうだ、巫女様。そう言えば、聞きたかったんだ」

ナハトに呼び止められ、振り向いた先。細められた瞳。

「俺のこのざまは君のせいなの?」

「…」

「…そっか、油断したなぁ」

沈黙に、勝手に答えを見いだしたナハトは、それ以上何も言わない。再び、彼に背を向けた。

「っ!?巫女様!お待ちください!」

引き止めるクラウスの声は聞かないことにする。ナハト本人にその意思が無い限り、守護石は渡せない。巫女としての私には不可欠なもの。それを渡す覚悟に、応える覚悟がないのならば―




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