召喚巫女の憂鬱

リコピン

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第四章 聖都への帰還と決意

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その日は突然訪れた。聖都の結界を覆う黒いモヤ。目で見ることが出来るほどの酷い瘴気が突然、聖都の周囲に広がって、聖都中がパニックに襲われた。

「っ!何なのよ!これ!」

窓の外、結界の隙間から染み込んで来ているであろう瘴気が恐くて、窓を開けることも出来ない。

おかしい、突然、こんなことが起きるなんて。だって、ゲームはノーマルエンドで終わったのだ、世界は間違いなく救われたはずなのに!

抑えきれない苛立ちに、部屋の中を歩き回りながら考える。

何が原因?なんで、こんなイベントが発生してしまったの?あの女がイレギュラー過ぎたせいで、どこかでストーリーが狂ってしまった?

考えても、それを確かめる手段はない。あの女は、もう聖都ここには居ないし、居場所を知っているナハトも、何日か前から姿を消してしまっている。

本当にわからないことだらけで混乱しているところに、家人が来客を告げに来た。告げられた名に、期待が生まれる。来客室への廊下を急ぎ、勢いよく扉を開く。そこに居た男の顔に、とびきりの笑顔を向けた。

「クラウス!」

「…ドロテア様」

―変だ

いつもなら、照れたように笑い返してくるはずのクラウスの表情が暗い。ナハトの不在、突然のクラウスの訪問に、嫌な予感が膨らむ。

「…クラウス?何?何かあったの?」

「ドロテア様、ナハトが」

「ナハト!彼が?彼は今どこに居るの?」

クラウスが来たということは、彼のところに?

「…ナハトがあなたに会いたがってるんです」

「私だって会いたいわ!なのに、ナハトったら、全然会いに来ないのよ!」

そう訴えれば、クラウスが顔を伏せる。

「…ナハトは、あいつは、瘴気に倒れました」

「!?そんな!嘘よ!」

そんなはずない!だって、最後に会った時のナハトにそんな様子は無かった。それに、だって、ナハトが倒れてしまうなんて、そんなイベントはゲームにはなかったんだから!

「ドロテア様、どうかお願いします。彼に、会いに来て下さい」

「…彼は、今どこに?」

「…私のところ。ネーエの、孤児院に居ます」

「!?」

クラウスが来たのだ、ある程度は予想出来ていたこと。だけど―

「意識はあるのですが、かなりの重症で、自力で起き上がることが出来ません。ただ、あなたに会いたいと言い続けていて…。どうか、お願いします。ネーエへ、」

「無理よ!!」

「!?」

だって、そんなの当然だ、

「こんなに瘴気が濃い中、ネーエへなんて、行けるわけがないじゃない!」

「…」

言ってしまった言葉。クラウスの表情に、自分のミスを悟った。

「ご、ごめんなさい、クラウス。でも、私、本当に、」

「いいえ、いいんです、ドロテア様。おっしゃる通り、今、聖都の外へ出るのは危険だ」

「…あの、クラウス?」

言葉は優しい。だけど、表情を消してしまったクラウスに、何と言えばいいのか。

「お時間を頂き、ありがとうございます。突然の訪問、申し訳ありませんでした。レオナルト閣下にも、よろしくお伝えください」

「っ!待って!」

私が呼び止めたのに、振り返りもせずに去っていくクラウス。

―失敗した!

今のクラウスの反応。明らかに選択肢ことばを間違えたのはわかる。なのに、私は何と答えるべきだったのか。ゲームが終わった今、正解の選択肢がわからない。




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