58 / 78
第四章 聖都への帰還と決意
1.
しおりを挟む
1.
その日は突然訪れた。聖都の結界を覆う黒いモヤ。目で見ることが出来るほどの酷い瘴気が突然、聖都の周囲に広がって、聖都中がパニックに襲われた。
「っ!何なのよ!これ!」
窓の外、結界の隙間から染み込んで来ているであろう瘴気が恐くて、窓を開けることも出来ない。
おかしい、突然、こんなことが起きるなんて。だって、ゲームはノーマルエンドで終わったのだ、世界は間違いなく救われたはずなのに!
抑えきれない苛立ちに、部屋の中を歩き回りながら考える。
何が原因?なんで、こんなイベントが発生してしまったの?あの女がイレギュラー過ぎたせいで、どこかでストーリーが狂ってしまった?
考えても、それを確かめる手段はない。あの女は、もう聖都には居ないし、居場所を知っているナハトも、何日か前から姿を消してしまっている。
本当にわからないことだらけで混乱しているところに、家人が来客を告げに来た。告げられた名に、期待が生まれる。来客室への廊下を急ぎ、勢いよく扉を開く。そこに居た男の顔に、とびきりの笑顔を向けた。
「クラウス!」
「…ドロテア様」
―変だ
いつもなら、照れたように笑い返してくるはずのクラウスの表情が暗い。ナハトの不在、突然のクラウスの訪問に、嫌な予感が膨らむ。
「…クラウス?何?何かあったの?」
「ドロテア様、ナハトが」
「ナハト!彼が?彼は今どこに居るの?」
クラウスが来たということは、彼のところに?
「…ナハトがあなたに会いたがってるんです」
「私だって会いたいわ!なのに、ナハトったら、全然会いに来ないのよ!」
そう訴えれば、クラウスが顔を伏せる。
「…ナハトは、あいつは、瘴気に倒れました」
「!?そんな!嘘よ!」
そんなはずない!だって、最後に会った時のナハトにそんな様子は無かった。それに、だって、ナハトが倒れてしまうなんて、そんなイベントはゲームにはなかったんだから!
「ドロテア様、どうかお願いします。彼に、会いに来て下さい」
「…彼は、今どこに?」
「…私のところ。ネーエの、孤児院に居ます」
「!?」
クラウスが来たのだ、ある程度は予想出来ていたこと。だけど―
「意識はあるのですが、かなりの重症で、自力で起き上がることが出来ません。ただ、あなたに会いたいと言い続けていて…。どうか、お願いします。ネーエへ、」
「無理よ!!」
「!?」
だって、そんなの当然だ、
「こんなに瘴気が濃い中、ネーエへなんて、行けるわけがないじゃない!」
「…」
言ってしまった言葉。クラウスの表情に、自分のミスを悟った。
「ご、ごめんなさい、クラウス。でも、私、本当に、」
「いいえ、いいんです、ドロテア様。おっしゃる通り、今、聖都の外へ出るのは危険だ」
「…あの、クラウス?」
言葉は優しい。だけど、表情を消してしまったクラウスに、何と言えばいいのか。
「お時間を頂き、ありがとうございます。突然の訪問、申し訳ありませんでした。レオナルト閣下にも、よろしくお伝えください」
「っ!待って!」
私が呼び止めたのに、振り返りもせずに去っていくクラウス。
―失敗した!
今のクラウスの反応。明らかに選択肢を間違えたのはわかる。なのに、私は何と答えるべきだったのか。ゲームが終わった今、正解の選択肢がわからない。
その日は突然訪れた。聖都の結界を覆う黒いモヤ。目で見ることが出来るほどの酷い瘴気が突然、聖都の周囲に広がって、聖都中がパニックに襲われた。
「っ!何なのよ!これ!」
窓の外、結界の隙間から染み込んで来ているであろう瘴気が恐くて、窓を開けることも出来ない。
おかしい、突然、こんなことが起きるなんて。だって、ゲームはノーマルエンドで終わったのだ、世界は間違いなく救われたはずなのに!
抑えきれない苛立ちに、部屋の中を歩き回りながら考える。
何が原因?なんで、こんなイベントが発生してしまったの?あの女がイレギュラー過ぎたせいで、どこかでストーリーが狂ってしまった?
考えても、それを確かめる手段はない。あの女は、もう聖都には居ないし、居場所を知っているナハトも、何日か前から姿を消してしまっている。
本当にわからないことだらけで混乱しているところに、家人が来客を告げに来た。告げられた名に、期待が生まれる。来客室への廊下を急ぎ、勢いよく扉を開く。そこに居た男の顔に、とびきりの笑顔を向けた。
「クラウス!」
「…ドロテア様」
―変だ
いつもなら、照れたように笑い返してくるはずのクラウスの表情が暗い。ナハトの不在、突然のクラウスの訪問に、嫌な予感が膨らむ。
「…クラウス?何?何かあったの?」
「ドロテア様、ナハトが」
「ナハト!彼が?彼は今どこに居るの?」
クラウスが来たということは、彼のところに?
「…ナハトがあなたに会いたがってるんです」
「私だって会いたいわ!なのに、ナハトったら、全然会いに来ないのよ!」
そう訴えれば、クラウスが顔を伏せる。
「…ナハトは、あいつは、瘴気に倒れました」
「!?そんな!嘘よ!」
そんなはずない!だって、最後に会った時のナハトにそんな様子は無かった。それに、だって、ナハトが倒れてしまうなんて、そんなイベントはゲームにはなかったんだから!
「ドロテア様、どうかお願いします。彼に、会いに来て下さい」
「…彼は、今どこに?」
「…私のところ。ネーエの、孤児院に居ます」
「!?」
クラウスが来たのだ、ある程度は予想出来ていたこと。だけど―
「意識はあるのですが、かなりの重症で、自力で起き上がることが出来ません。ただ、あなたに会いたいと言い続けていて…。どうか、お願いします。ネーエへ、」
「無理よ!!」
「!?」
だって、そんなの当然だ、
「こんなに瘴気が濃い中、ネーエへなんて、行けるわけがないじゃない!」
「…」
言ってしまった言葉。クラウスの表情に、自分のミスを悟った。
「ご、ごめんなさい、クラウス。でも、私、本当に、」
「いいえ、いいんです、ドロテア様。おっしゃる通り、今、聖都の外へ出るのは危険だ」
「…あの、クラウス?」
言葉は優しい。だけど、表情を消してしまったクラウスに、何と言えばいいのか。
「お時間を頂き、ありがとうございます。突然の訪問、申し訳ありませんでした。レオナルト閣下にも、よろしくお伝えください」
「っ!待って!」
私が呼び止めたのに、振り返りもせずに去っていくクラウス。
―失敗した!
今のクラウスの反応。明らかに選択肢を間違えたのはわかる。なのに、私は何と答えるべきだったのか。ゲームが終わった今、正解の選択肢がわからない。
16
お気に入りに追加
711
あなたにおすすめの小説
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
捕まり癒やされし異世界
波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。
飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。
異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。
「これ、売れる」と。
自分の中では砂糖多めなお話です。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
脳内お花畑から帰還したダメ王子の不器用な愛し方
伊織愁
恋愛
ダメダメな王子がやらかす婚約破棄を前に、真実の愛に浮かれていたお花畑から、そんなお花畑がないと知り、現実の世界に帰還。 本来の婚約者と関係改善を図り、不器用ながら愛を育んで幸せな結婚をするお話。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】
倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。
時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから!
再投稿です。ご迷惑おかけします。
この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる