召喚巫女の憂鬱

リコピン

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第三章 堕とされた先で見つけたもの

10.

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10.

翌朝。目が覚めると、部屋の中にヴォルフの姿はなかった。

本当に、ベッドに運んだ以外は私に指一本触れようとしなかったヴォルフ。私が寝付くまでは側に居てくれたはずだけれど、彼の姿が見えない不安に、急いで着替えを済ませて部屋を飛び出した。

階段を駆け降りた先、開店前の店に居たのはピロウだけで、見つからない姿に焦りが募る。

「っあの!ヴォルフは!?昨日、部屋に来た人は!?」

「あん?なんだ、あんたかい」

キセル片手に振り向いたピロウがこちらを認め、片眉をあげる。

「あの、」

「あんたの男なら帰ったよ」

「っ!」

その言葉に、自分でも驚くくらい気持ちが落ち込んだ。また、何も言わずに行ってしまった。もう、彼には会えないのだろうか?

「…アルマ、あんたは明日から客をとらなくていい」

「え?」

突然のピロウの言葉に戸惑う。

「ヴォルフって男が、半年先まで、あんたを買っていった」

「!?」

「自分が来ない日も他の客をつけるなって言われたからね。金を貰っちまったから仕方ない。あの男が来た時だけ相手しな」

何も言えなかった。だって、ヴォルフは私に何もしようとしなかった。それなのに、私を守るために―

昨日の夜、追い詰められて出来ると思った覚悟は、結局、朝目が覚めた時点で霧散してしまっていた。

「…酒場での客の相手は今までどおりやらせるからね」

告げたピロウは、そのまま自室へと戻っていく。

「あっ!」

一人、取り残された背後から、小さな声があがった。

「…ソフィー、さん」

振り返った先、部屋の扉で立ち止まったソフィーが、こちらを凝視している。

「あんた、やっぱり、その顔…」

「!?」

言われて、ベールをつけ忘れていたことに気づく。注がれる視線の厳しさ、その言葉に、やはり、彼女は私のことを知っているのだろうと思うけれど―

私がベールをつけ始めたのは、初めて巫女の間に入れられた直後。神殿内でさえ、私の顔を知っている人はごくわずか、だったのに。

「…ソフィーさんは、私のことを知っているんですか?」

「…顔だけはね」

「どこかで、お会いしましたか?」

その問いには、首を振られた。

「会ってるとしても、言わない。あんたのことに関しては、関わるつもりはないし、もうこれ以上は何も言わない」

「…どういう意味ですか?」

「あたしは、あんたを信用してないってこと。警戒心なく口を開くのがどんだけ危なくて、そんでどんだけ痛い目にあうかってのを、身をもって学んだから」

言って、そのまま身を翻し、扉の向こうへと消えていく後ろ姿を見送った。




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