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第三章 堕とされた先で見つけたもの
7.
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7.
「おらよっ」
「っ!」
二階に並ぶ部屋、男に運び込まれたその一室、ベッドの上へと放り落とされた。スプリングなんてあるはずもなく、背中を打ち付け、痛みに思わず声がもれる。
「ははっ!いいねぇ!」
「…」
苦痛に歪んだ顔を見て、男が心底楽しそうに嗤う。
「俺は、女のそういう顔が好きなんだよ!たまんねえなぁ」
顔に伸びてきた手を、はたいた。
「…触らないで」
「…てめぇ」
怒りから、男の顔に朱がさす。男の目が据わった。
「舐めたまねしてんじゃねぇ。殺すぞ」
「っ!」
いきなり髪を掴まれた。男の動きが早すぎて、今度は避けることも出来ず、ギリギリと髪を引っ張られて頭を持ち上げられる。
「俺に、逆らうんじゃねぇ」
「…」
手を離されるが、頭はズキズキと痛んだまま、男の手には抜けた髪が束で残っている。
「…いい顔するじゃねぇかぁ」
下卑た男の顔に、猛烈な怒りがわいた。それを原動力に、逃げ道を探す。部屋の扉は男の背後、逃げるなら、そこしかない。ベッドの上、掴んだ掛け布を力一杯男に投げつけた。一瞬でも、視界を遮れれば―
「くそったれ!」
ベッドから跳ね起きる。男の悪態を背後に扉へと駆け出す。だけど、
「逃がすかよ」
「あっ!」
肩を掴まれ、思いっきり引き戻された。力ずくで床の上に押し倒される。背中に馬乗りに乗られ、息が上手く出来ない。
「ははっ!動くと痛い目見るぜ!」
背中に当てられた固い感触に血の気が引いた。それがスッと滑っていく感触とともに、背中に空気が触れるのがわかった。
―服を、切られた?
「っいや!触るな!!」
恐慌に襲われて、必死に手足をばたつかせる。
「あー?動くんじゃねえよ。怪我させたら、出禁になっちまうだろうが」
背中から重みが消えた。飛び起きて、男から背中が見えないように対峙する。切られた服が落ちないよう手で抑えたまま、男から距離をとろうとするけど。
「諦めろ。逃げられねぇよ」
「…」
狭い部屋の中、直ぐに背中が壁についてしまう。逃げ場を無くしたこちらに、薄笑いを浮かべた男がゆっくりと近づいてくる。
息を吸う。ゆっくりと吐いて、必死に気持ちを落ち着かせる。
覚悟を、決めなければいけない。このままでは―
「ぐわっ!?」
「!?」
覚悟を決めようとしたその時、突然、男が横にふっ飛んでいった。
こんなことが、前にも―
男の立っていた場所、代わりに立つ大きな体。今は、その横顔しか見えないけれど。半年ぶり、目にした姿に、涙が込み上げてきて。
―会いたかった
ずっと、ずっと。
彼が、ゆっくりと、こちらを振り向く。
「…無事か?遅くなった」
「…」
近づいてくる彼に、首を振る。
「…だめ、来ないで」
もう、駄目だと思った。諦めるしかないと思った。
なのに―
いつも、突然現れて、助けてくれる。当たり前のように、心配してくれる。なんで?
―言ったのに
酷いことを、たくさん。彼を切り捨てるようなことを。それなのに、
彼が、また、来てくれた―
込み上げて来る涙を、止められなくなった。
「おらよっ」
「っ!」
二階に並ぶ部屋、男に運び込まれたその一室、ベッドの上へと放り落とされた。スプリングなんてあるはずもなく、背中を打ち付け、痛みに思わず声がもれる。
「ははっ!いいねぇ!」
「…」
苦痛に歪んだ顔を見て、男が心底楽しそうに嗤う。
「俺は、女のそういう顔が好きなんだよ!たまんねえなぁ」
顔に伸びてきた手を、はたいた。
「…触らないで」
「…てめぇ」
怒りから、男の顔に朱がさす。男の目が据わった。
「舐めたまねしてんじゃねぇ。殺すぞ」
「っ!」
いきなり髪を掴まれた。男の動きが早すぎて、今度は避けることも出来ず、ギリギリと髪を引っ張られて頭を持ち上げられる。
「俺に、逆らうんじゃねぇ」
「…」
手を離されるが、頭はズキズキと痛んだまま、男の手には抜けた髪が束で残っている。
「…いい顔するじゃねぇかぁ」
下卑た男の顔に、猛烈な怒りがわいた。それを原動力に、逃げ道を探す。部屋の扉は男の背後、逃げるなら、そこしかない。ベッドの上、掴んだ掛け布を力一杯男に投げつけた。一瞬でも、視界を遮れれば―
「くそったれ!」
ベッドから跳ね起きる。男の悪態を背後に扉へと駆け出す。だけど、
「逃がすかよ」
「あっ!」
肩を掴まれ、思いっきり引き戻された。力ずくで床の上に押し倒される。背中に馬乗りに乗られ、息が上手く出来ない。
「ははっ!動くと痛い目見るぜ!」
背中に当てられた固い感触に血の気が引いた。それがスッと滑っていく感触とともに、背中に空気が触れるのがわかった。
―服を、切られた?
「っいや!触るな!!」
恐慌に襲われて、必死に手足をばたつかせる。
「あー?動くんじゃねえよ。怪我させたら、出禁になっちまうだろうが」
背中から重みが消えた。飛び起きて、男から背中が見えないように対峙する。切られた服が落ちないよう手で抑えたまま、男から距離をとろうとするけど。
「諦めろ。逃げられねぇよ」
「…」
狭い部屋の中、直ぐに背中が壁についてしまう。逃げ場を無くしたこちらに、薄笑いを浮かべた男がゆっくりと近づいてくる。
息を吸う。ゆっくりと吐いて、必死に気持ちを落ち着かせる。
覚悟を、決めなければいけない。このままでは―
「ぐわっ!?」
「!?」
覚悟を決めようとしたその時、突然、男が横にふっ飛んでいった。
こんなことが、前にも―
男の立っていた場所、代わりに立つ大きな体。今は、その横顔しか見えないけれど。半年ぶり、目にした姿に、涙が込み上げてきて。
―会いたかった
ずっと、ずっと。
彼が、ゆっくりと、こちらを振り向く。
「…無事か?遅くなった」
「…」
近づいてくる彼に、首を振る。
「…だめ、来ないで」
もう、駄目だと思った。諦めるしかないと思った。
なのに―
いつも、突然現れて、助けてくれる。当たり前のように、心配してくれる。なんで?
―言ったのに
酷いことを、たくさん。彼を切り捨てるようなことを。それなのに、
彼が、また、来てくれた―
込み上げて来る涙を、止められなくなった。
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