召喚巫女の憂鬱

リコピン

文字の大きさ
上 下
36 / 78
第二章 巫女という名の監禁生活

21.

しおりを挟む
21.

翌朝、世界が激変していた。瘴気の観測施設で毎日測られているという、瘴気の濃度。そんなものを聞かなくてもわかるくらい、瘴気が薄まっている。

昨夜、どうしようもなく自覚させられた彼への想いが、世界を救おうとしている―

「…巫女様!」

寝室を出れば、ハイリヒに満面の笑みで迎えられた。扉の外で控えていたヴォルフは、沈黙のまま、いつものように背後へと控える。

「素晴らしい御力でございます!今朝がた、観測所からも喜ばしい観測値が届いております。これはやはり、フリッツ殿の申し出が、巫女様の御力を最大限引き出すことになったのでしょう、」

「違う」

咄嗟に否定してしまったけれど、では何故かと聞かれたら困ってしまう。幸い、興奮状態のハイリヒはこちらの言葉など気にした様子も無いけれど。

「巫女様、フリッツ様とのご婚姻、いえ、せめてご婚約だけでも早々に進めてしまいましょう。さすれば、巫女様のお力もますます高まることになるかと」

「ならない。勝手に決めないで。私のことは私が決める」

「ええ!それは、もちろん、巫女様の御心のままに。ですが、神殿としては、巫女様の御力の飛躍に尽力されたフリッツ殿、ケルステン侯爵家を蔑ろにするわけには参りません。先方の希望を最大限受け入れることで、彼の献身に応えたく、」

「やめて、勝手なことしないで」

ニコニコと、笑うだけの男は、きっとこちらの話など聞いていない。聞いていて、敢えて無視しているだけかもしれないけれど。

守護者であり、貴族でもあるフリッツから申し込みがあった時点で、彼と巫女との結婚は規定路線だったのだ。更に、このタイミングで浄化の力が強まってしまったことが、その動きに拍車をかけてしまっている。

―それでもきっと、ヴォルフならこの状況から救い出してくれるのだろうけど

「それでは、巫女様。色々と調整を進めねばなりませんので、私は御前を失礼させていただきます」

言うなり、部屋を出ていくハイリヒの背中を眺めながら、覚悟を決めた。

背後を振り向く―

「…」

振り向いて、視線が合っても、何も言わずにこちらの言葉を待ってくれる、ヴォルフを見つめる。

命を救ってくれた。笑わせてくれた。背負ってくれて、守ってくれて。たくさん、優しくしてもらった。

本当は、今でも、巫女の力なんていらない。巫女になんて、成りたくない。だけど、彼の優しさが、私の心を温かくする。彼の言葉に嬉しくなる。彼が私にしてくれることを喜んでしまう。感謝の気持ちが溢れて、もう、抑えられなくなってしまった。

きっと、このまま浄化は進んでしまう。だから、

「…ヴォルフ、今までありがとう」

「…トーコ」

「私、フリッツと結婚する」

「っ!」

苦しそうな、顔。表情の少ないヴォルフのこんな顔、初めて見る。私が、それをさせている。ヴォルフも、少なからず私を想っていてくれているってことなんだろうか。庇護すべき対象ではなく、女性として。

そうだったらいいのにって思ってしまうのは、私の醜いエゴ―

「だから、もう、ヴォルフには頼らない。甘えたりしない。守ってくれなくていい」

「…俺は、お前の護衛騎士だ」

「…じゃあ、それが終わるまで。私が神殿を出ていくまで。それまで、だから」

込み上げてくる熱いものに、言葉がつまる。泣き出しそうになるのを必死で堪えた。今、口にしたばかりなのだ。もう、ヴォルフには頼れない。彼の側には居られないから。




しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...