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第二章 巫女という名の監禁生活
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見送りは必要ないというレオナルトとは庭園で別れを告げ、自室へとひきあげた。その間も、何とかして大公妃につけるルートについて考え続けている。記憶を必死に探っていたところで部屋の扉をノックされ、思考が遮られた。
「…どうぞ」
おざなりに入室を許可すれば、現れたのは外出着姿のフリッツ。外から戻ったばかりなのだろう、部屋に入ってきた彼が、さっと室内を一瞥した。
「ただ今戻りました。義姉上、レオナルト様はお帰りになられたのですか?」
「…ええ」
「そうでしたか。俺もご挨拶したかったんですが」
心底、残念そうにこぼす義弟から、わざとらしくならない程度に、そっと目をそらす。
「…義姉上?泣いていらっしゃったのですか?」
「…恥ずかしいところを見られてしまったわね。大したことはないの、気にしないで」
「気にしないはずが無いでしょう!」
焦った声をあげたフリッツが、側へと寄ってくる。
「…本当に、何でも無いのよ」
「義姉上が涙されるなど!よほどのことではないですか!一体、何があったと言うのです!?」
大げさなほどに騒ぎ立てるフリッツに、諦めたように嘆息して見せる。
「…レオナルト様に、婚約の破棄を願われてしまったわ」
「何と!何故ですか!?何故そのようなことに!?」
さっきまでのレオナルトとの会話をかいつまんで聞かせれば、フリッツの握りしめた拳がフルフルと震え出す。
「っあの女!あの女のせいで、義姉上とレオナルト様のご婚姻が!」
浄化もまともに出来ない巫女への怒りをたぎらせるフリッツ。その震える右手を、そっと両手で包み込んだ。
「…私のために怒らないで、フリッツ。巫女様もおつらいのよ。あの方を責めるだけでは何の解決にもならないわ。むしろ、巫女様が孤立してしまえば、事態は悪化するだけ」
握りしめた手に一瞬だけ向けられたフリッツの視線が、落ち着き無くさ迷い出す。
「…しかし、このままでは姉上のご婚約が」
―わざわざ言われなくても、そんなことはわかってる
大体、フリッツ自身はわかっているのだろうか?この最悪な状況を招いたのが、彼の力不足のせいでもあるということを。守護者である彼が、巫女との仲を進めていれば、こんなことにはならなかったのだから、フリッツへの失望は大きい。
だけどまだ、完全にダメになったわけでもない。確か、フリッツのノーマルエンドに、結婚式エンドがあったはずだ。エンドを迎えた時点ではぎこちない二人が、これから歩み寄っていく未来を思わせるエンド。
重要なのは、そのフリッツの結婚式に、先にレオナルトと結婚している私も参列していたということ。義妹となる巫女のことを完全に認めたわけでは無いけれど、『これから共に聖都を守っていこう』という終わり方だった。
まだ、間に合うだろうか。あのエンドに―
「…フリッツ。巫女様には、誰か、孤独な彼女を支えてあげられる存在が必要なのです。私は、あなたにならそれが可能だと、そう思っています」
「義姉上!俺は、あんな女!」
「フリッツ!」
彼の子どもみたいな我儘に腹が立ち、思わず、語気が強まってしまった。
「…ごめんなさい。でも巫女様のことをそのように言うのはお止めなさい」
「…申し訳ありません」
「考えてみて。巫女様はこの世界にいらして、周囲に頼れる人が誰も居ないの。ハイリヒ様にもお心を開けていないご様子だったわ」
あの女がさっさとハイリヒとでもくっついていれば、こんな厄介な状況になることもなかった。
「フリッツ、あなたなら、頼る者が誰も居ない、この彼女の心細さをわかってあげられるでしょう?」
「っ!?それは…」
あまりフリッツが巫女に心を寄せすぎるのも問題だけれど、もう、悠長に手段を選んでいられる暇はない。さっさと話を進めて、あの女をノーマルエンドに導いてしまわなければ。
「…お願い、フリッツ。巫女様を救って差し上げて。あなたなら、きっと出来るわ」
「…義姉上は、そう、望まれるのですね?」
複雑そうな表情でこちらをうかがうフリッツの視線。それを真っ直ぐに受け止めて、静かに、だけどはっきりとうなずいた。
見送りは必要ないというレオナルトとは庭園で別れを告げ、自室へとひきあげた。その間も、何とかして大公妃につけるルートについて考え続けている。記憶を必死に探っていたところで部屋の扉をノックされ、思考が遮られた。
「…どうぞ」
おざなりに入室を許可すれば、現れたのは外出着姿のフリッツ。外から戻ったばかりなのだろう、部屋に入ってきた彼が、さっと室内を一瞥した。
「ただ今戻りました。義姉上、レオナルト様はお帰りになられたのですか?」
「…ええ」
「そうでしたか。俺もご挨拶したかったんですが」
心底、残念そうにこぼす義弟から、わざとらしくならない程度に、そっと目をそらす。
「…義姉上?泣いていらっしゃったのですか?」
「…恥ずかしいところを見られてしまったわね。大したことはないの、気にしないで」
「気にしないはずが無いでしょう!」
焦った声をあげたフリッツが、側へと寄ってくる。
「…本当に、何でも無いのよ」
「義姉上が涙されるなど!よほどのことではないですか!一体、何があったと言うのです!?」
大げさなほどに騒ぎ立てるフリッツに、諦めたように嘆息して見せる。
「…レオナルト様に、婚約の破棄を願われてしまったわ」
「何と!何故ですか!?何故そのようなことに!?」
さっきまでのレオナルトとの会話をかいつまんで聞かせれば、フリッツの握りしめた拳がフルフルと震え出す。
「っあの女!あの女のせいで、義姉上とレオナルト様のご婚姻が!」
浄化もまともに出来ない巫女への怒りをたぎらせるフリッツ。その震える右手を、そっと両手で包み込んだ。
「…私のために怒らないで、フリッツ。巫女様もおつらいのよ。あの方を責めるだけでは何の解決にもならないわ。むしろ、巫女様が孤立してしまえば、事態は悪化するだけ」
握りしめた手に一瞬だけ向けられたフリッツの視線が、落ち着き無くさ迷い出す。
「…しかし、このままでは姉上のご婚約が」
―わざわざ言われなくても、そんなことはわかってる
大体、フリッツ自身はわかっているのだろうか?この最悪な状況を招いたのが、彼の力不足のせいでもあるということを。守護者である彼が、巫女との仲を進めていれば、こんなことにはならなかったのだから、フリッツへの失望は大きい。
だけどまだ、完全にダメになったわけでもない。確か、フリッツのノーマルエンドに、結婚式エンドがあったはずだ。エンドを迎えた時点ではぎこちない二人が、これから歩み寄っていく未来を思わせるエンド。
重要なのは、そのフリッツの結婚式に、先にレオナルトと結婚している私も参列していたということ。義妹となる巫女のことを完全に認めたわけでは無いけれど、『これから共に聖都を守っていこう』という終わり方だった。
まだ、間に合うだろうか。あのエンドに―
「…フリッツ。巫女様には、誰か、孤独な彼女を支えてあげられる存在が必要なのです。私は、あなたにならそれが可能だと、そう思っています」
「義姉上!俺は、あんな女!」
「フリッツ!」
彼の子どもみたいな我儘に腹が立ち、思わず、語気が強まってしまった。
「…ごめんなさい。でも巫女様のことをそのように言うのはお止めなさい」
「…申し訳ありません」
「考えてみて。巫女様はこの世界にいらして、周囲に頼れる人が誰も居ないの。ハイリヒ様にもお心を開けていないご様子だったわ」
あの女がさっさとハイリヒとでもくっついていれば、こんな厄介な状況になることもなかった。
「フリッツ、あなたなら、頼る者が誰も居ない、この彼女の心細さをわかってあげられるでしょう?」
「っ!?それは…」
あまりフリッツが巫女に心を寄せすぎるのも問題だけれど、もう、悠長に手段を選んでいられる暇はない。さっさと話を進めて、あの女をノーマルエンドに導いてしまわなければ。
「…お願い、フリッツ。巫女様を救って差し上げて。あなたなら、きっと出来るわ」
「…義姉上は、そう、望まれるのですね?」
複雑そうな表情でこちらをうかがうフリッツの視線。それを真っ直ぐに受け止めて、静かに、だけどはっきりとうなずいた。
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