召喚巫女の憂鬱

リコピン

文字の大きさ
上 下
26 / 78
第二章 巫女という名の監禁生活

11.

しおりを挟む
11.

神殿を後にした馬車の中、あの女への怒りがおさまらない。表に出すような馬鹿な真似はしたくないから、必死に押し込めるけど、どうしても、口数は減ってしまう。

あんな平凡な、巫女としての能力がなければ人にかしずかれることなんて絶対にあり得ない、自分よりも格下の女に―

手元、膝の上で扇子を握り締めている手に力が入る。

「…ドロテア様?」

力の入った手元を見られたか、向かいの座席に腰かける男が、心配そうに尋ねてきた。

「…申し訳ありません、クラウス様。子ども達の現状を少しでも知っていただきたいとお呼び致しましたのに、このような結果となってしまい」

「いや、そんな!ドロテア様にはいつも感謝しています。子ども達のために色々動いてくれて。本当に、ありがとうございます」

善良そうな笑顔を浮かべる男に、こちらも微笑み返せば、男は瞬時に顔を赤く染めた。

ネーエ修道院司祭、クラウス。彼は、ナハトと同じ、ゲームのサブ攻略対象。

平民でありながら、クラウスが司祭という地位に居られるのは、彼が元々その修道院で育った孤児だったということと、何よりナハトの裏の力によるところが大きい。

彼ら二人はともに孤児院で育ち、大人になった今でも仲がいい。実際、ナハトルートに入るためには、クラウスの好感度をある程度あげる必要がある。クラウスに近づく不審な女であるヒロインを怪しんで、普段は表に出てくることのないナハトが姿を現すからだ。

だから私も、先ずはクラウスの好感度を上げることにした。わざわざネーエへ赴き、孤児院への訪問、寄進を行ってクラウスとの仲を進め、ナハトを表に引っ張り出すことに成功したのだ。ナハトとの関係が深まった今、これ以上、クラウスと関わる必要は無いのだけれど―

「…巫女様は、この世界に来られたことを悲しんでいらっしゃるんですね」

クラウスがつらそうにつぶやく。

クラウスルートの場合、下町に召喚された浄化の巫女は、暴漢に襲われそうになったところを彼に助けられ、しばらくの間、孤児院に匿われることになる。そうして、神殿に巫女として保護された後も、孤児院を訪問することで好感度をあげていくのだけれど。

クラウスにも孤児院にも興味を示さなかったあの女が、自ら孤児院へ赴き、彼との仲を深めるとは、考えにくい。

そうなると―

「しかし、いくら何でも義姉上あねうえへのあの態度は許しがたい!悲しんでいるというが、こちらへ招いてから、既に一年が経とうというのですよ?子どもではないんだ、いつまでも駄々をこねられていては困る!」

わかりやすく憤慨し続けているフリッツを見やる。義姉である私に心酔し、命じれば、何でも言うことをきく。守護者であることから、神殿への立ち入りも許されている彼を使うしかないだろう。

「…フリッツ、言葉が過ぎます。巫女様の心痛を理解しきれていなかった私の落ち度です」

義姉上あねうえは優しすぎるのです!」

「フリッツ、私は既に巫女様に疎まれてしまっています。ですが、彼女をこのまま一人にするわけにはいきません。守護者であるあなたが、巫女様のお心をお慰めするのです」

「そんな!?義姉上あねうえ!」

今はこれだけの拒絶を示すフリッツが、万が一にもあの女に攻略されてしまうことなどないように、見張っていなくてはいけないけれど。

「フリッツ、私の代わりにどうか」

「…義姉上あねうえ

仮にも攻略対象なのだから、あの女の心をつかみ、瘴気を祓うくらいのことはやってみせてもらわねば、困る。黙って微笑めば、心底嫌そうな表情を浮かべているフリッツが、不承不承ながらもうなずいた。

反発しあいながらも仲を進めていくのがフリッツルート。だから未だ、どうにか出来る可能性は残っているはず。この世界は、あの女が救わなければならないのだから。




しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】

倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。  時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから! 再投稿です。ご迷惑おかけします。 この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!

しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。

処理中です...