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第二章 巫女という名の監禁生活
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「巫女様におかれましては、浄化の進まぬ現状をどのようにお考えなのでしょう?お教え頂けますか?」
巫女への面会を度々求めてきていた、侯爵令嬢だという女性。今、巫女の部屋に堂々と押し掛けて居座る、ドロテアと言う名のこの年下の少女が、私は嫌いだ。
初めて会ったのは、守護者を名乗る人達に無理矢理引き合わされた時。同席する彼女が、『巫女顕現のお告げを受けて神殿を動かした』という話に、猛烈に腹が立った。宝珠の記憶から、夢告げをする人間が過去にも居たことは知っていた。だけど―
彼女のせいなのだ。私がヴォルフから引き離され、拐われる原因になったのは。巫女という存在にされて、神殿に捕らえられてしまっているのも。
「…巫女様はお気づきではないのかもしれませんが、巫女とは他者と心通わせることで初めてその力を発揮するもの。守護者の皆様や、周囲の者と、もっと交流を持たれてはいかがですか?」
初対面の時から、こうして巫女への『助言』を与えようとする彼女。夢告げの力なのか、その何もかも見透かした上で巫女を思い通りに動かそうとする言動に、嫌悪が増す。
第一、他者との交流をと語る彼女自身は、巫女との仲を深めようという態度を一切見せないのだから、矛盾している。突然、部屋に押し掛けてきたこの面会も―ハイリヒの許可を得ているとは言っていたけれど―一方的で、不快なだけ。元からそんなつもりはないけれど、彼女の言葉に従う気になど、全くなれない。
「…巫女様、ベールだけではなく、手袋までされていらっしゃるのですか?昨日まではそのようなもの、身につけていらっしゃらなかったはずですが?」
気づかれるとは思っていなかった指摘に、思わず拳を握る。私の背後、控えているヴォルフにチラリと視線を送ったドロテアが、不快そうに顔を歪め、ため息をこぼした。
「本当に、どこまで他者を拒絶なされば気がすむのです?」
苛立ちを隠しもせずに言い放つ。彼女が何を言おうと、私に世界を浄化する意思は無い。それは最初に告げた。だから、後は沈黙するだけだ。
苛立ちが募っているのか、ドロテアがイライラと爪を噛む。
「…巫女様の保護が遅れたという話は聞いています。顕現されてから発見までに間があいてしまったと」
「…」
「その際に、何かお辛い目にあったのだということもうかがいました」
―あなたに、何がわかる
辛い目にはあった。家族と引き離され、命の危機に怯え。だけど、私は救われた。私を救ってくれた人がいたから。
「素性の怪しい男に連れ回されたとか?それは、確かに不幸な出来事だったとは思いますが、」
「…帰って」
「…巫女様?」
「帰れ。二度と私の前に現れないで」
「なっ!?」
言い捨てた言葉にドロテアの顔から血の気がひいた。次いで、怒りからか、その顔が真っ赤に染まる。
「帰らないなら、力ずくで追い出す。放り出されたくなかったら、さっさと出ていって」
「っ!」
屈辱でも感じているのか、唇を震わせながら、腰かけていたソファからドロテアが立ち上がった。
「このような!」
「いいから、出てって。出来ないなら、」
ヴォルフに視線を向ければ、ドロテアの顔から再び血の気がひいた。唇を噛み、結局、何も言わずに身を翻して部屋から出ていった。それを見送って、ようやく苛立ちが収まる。背後、気配を全く感じさせない彼を振り返った。
何を考えているのか、ドロテアの言葉に何を感じたのか、全く読み取れない表情―
「…ヴォルフには、救ってもらって感謝してる」
一年前はずっと、彼に伝わる言葉で、救ってもらったお礼を伝えたいと思っていた。
「この世界に来たことも、巫女になったことも不幸だと思ってるけど。ヴォルフに見つけてもらったことだけは、幸運だったと思ってる」
言うだけ言って、顔を背ける。真っ直ぐに見返す彼の視線が怖かったから。
彼に再会するとは思っていなかった。だけど、浄化をしないことが、彼の命も脅かすのだと認識していた。命を救ってくれた彼を、私は切り捨てようとしたんだ。
彼に知られるのが怖くて、彼の目を見ることが出来なかった。
「巫女様におかれましては、浄化の進まぬ現状をどのようにお考えなのでしょう?お教え頂けますか?」
巫女への面会を度々求めてきていた、侯爵令嬢だという女性。今、巫女の部屋に堂々と押し掛けて居座る、ドロテアと言う名のこの年下の少女が、私は嫌いだ。
初めて会ったのは、守護者を名乗る人達に無理矢理引き合わされた時。同席する彼女が、『巫女顕現のお告げを受けて神殿を動かした』という話に、猛烈に腹が立った。宝珠の記憶から、夢告げをする人間が過去にも居たことは知っていた。だけど―
彼女のせいなのだ。私がヴォルフから引き離され、拐われる原因になったのは。巫女という存在にされて、神殿に捕らえられてしまっているのも。
「…巫女様はお気づきではないのかもしれませんが、巫女とは他者と心通わせることで初めてその力を発揮するもの。守護者の皆様や、周囲の者と、もっと交流を持たれてはいかがですか?」
初対面の時から、こうして巫女への『助言』を与えようとする彼女。夢告げの力なのか、その何もかも見透かした上で巫女を思い通りに動かそうとする言動に、嫌悪が増す。
第一、他者との交流をと語る彼女自身は、巫女との仲を深めようという態度を一切見せないのだから、矛盾している。突然、部屋に押し掛けてきたこの面会も―ハイリヒの許可を得ているとは言っていたけれど―一方的で、不快なだけ。元からそんなつもりはないけれど、彼女の言葉に従う気になど、全くなれない。
「…巫女様、ベールだけではなく、手袋までされていらっしゃるのですか?昨日まではそのようなもの、身につけていらっしゃらなかったはずですが?」
気づかれるとは思っていなかった指摘に、思わず拳を握る。私の背後、控えているヴォルフにチラリと視線を送ったドロテアが、不快そうに顔を歪め、ため息をこぼした。
「本当に、どこまで他者を拒絶なされば気がすむのです?」
苛立ちを隠しもせずに言い放つ。彼女が何を言おうと、私に世界を浄化する意思は無い。それは最初に告げた。だから、後は沈黙するだけだ。
苛立ちが募っているのか、ドロテアがイライラと爪を噛む。
「…巫女様の保護が遅れたという話は聞いています。顕現されてから発見までに間があいてしまったと」
「…」
「その際に、何かお辛い目にあったのだということもうかがいました」
―あなたに、何がわかる
辛い目にはあった。家族と引き離され、命の危機に怯え。だけど、私は救われた。私を救ってくれた人がいたから。
「素性の怪しい男に連れ回されたとか?それは、確かに不幸な出来事だったとは思いますが、」
「…帰って」
「…巫女様?」
「帰れ。二度と私の前に現れないで」
「なっ!?」
言い捨てた言葉にドロテアの顔から血の気がひいた。次いで、怒りからか、その顔が真っ赤に染まる。
「帰らないなら、力ずくで追い出す。放り出されたくなかったら、さっさと出ていって」
「っ!」
屈辱でも感じているのか、唇を震わせながら、腰かけていたソファからドロテアが立ち上がった。
「このような!」
「いいから、出てって。出来ないなら、」
ヴォルフに視線を向ければ、ドロテアの顔から再び血の気がひいた。唇を噛み、結局、何も言わずに身を翻して部屋から出ていった。それを見送って、ようやく苛立ちが収まる。背後、気配を全く感じさせない彼を振り返った。
何を考えているのか、ドロテアの言葉に何を感じたのか、全く読み取れない表情―
「…ヴォルフには、救ってもらって感謝してる」
一年前はずっと、彼に伝わる言葉で、救ってもらったお礼を伝えたいと思っていた。
「この世界に来たことも、巫女になったことも不幸だと思ってるけど。ヴォルフに見つけてもらったことだけは、幸運だったと思ってる」
言うだけ言って、顔を背ける。真っ直ぐに見返す彼の視線が怖かったから。
彼に再会するとは思っていなかった。だけど、浄化をしないことが、彼の命も脅かすのだと認識していた。命を救ってくれた彼を、私は切り捨てようとしたんだ。
彼に知られるのが怖くて、彼の目を見ることが出来なかった。
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