召喚巫女の憂鬱

リコピン

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第二章 巫女という名の監禁生活

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「巫女様が心を許される、友人でも親しい侍女でもいいのです、そういった相手はいらっしゃらないのですか?」

「親しい相手、ですか?」

ハイリヒが考え込む様子を見せる。

ゲームでは、攻略が進まない場合、サポートキャラの女が攻略のヒントをくれる。

―浅はかで、愚かだった女

大公家主催の夜会で初めて出会ったとき―下位貴族の娘に過ぎないくせに―いきなり馴れ馴れしく話しかけてきたあの女は、いや、あの女も、自分と同じ転生者だった。フリッツやレオナルトと仲良くする私を見て声をかけてきた女は言ったのだ、

―あなたも転生者なんでしょ?レオナルト様推し?私はナハト推しなんだ!だから、

信じられないくらい馬鹿な発言。だって、ナハトは私のものだ。誰にも渡したりしない。だから、『転生者』なんておかしなことをいう女には表舞台から消えてもらうことにした。ナハトにお願いして聖都から追い出した女は、今はどこかの修道院に入っていると聞いたけれど、興味がない。もう忘れた。

「うーん、おりませんねぇ。敢えてあげるならば、巫女様に一番近しいのは『私』だと思っておりますよ?」

そう微笑むハイリヒだが、私から見れば、彼だって巫女には全く相手にされていない。

サポートキャラが居なくなったせいで、浄化が進まないのだとしたら、あの女の代わりに、攻略方法を知っている私がこれまで通り進言をし続けるしかないのだろう。格下相手に下手したてに出るのはしゃくだが、浄化が終わるまで。それまでは巫女の浄化の力が必要なのだから。

「やはり一度、巫女様との正式な面会を希望します。私ならば、必ずや巫女様の浄化をお助けすることができます」

「…それも、夢見のお告げなのでしょうか?」

「そう、思っていただいて構いません」

逡巡しゅんじゅんしていたハイリヒだけど、最後にはうなずいて、面会を取り付けることを約束してくれた。これで少しは浄化が進むはず。本当に巫女には余計な労力ばかりかけさせられる。大人しく、私の助言に従っていればいいものを。

「では、お見送り致しましょう」

微笑んで立ち上がったハイリヒに従って、彼の部屋を出る。巫女の話が済んでしまえば、この男と話すことなど何もない。当たり障りのない会話をしながら廻廊を進めば、突然、金属のぶつかり合う音が響いた。音のした方へ視線を向けると、神殿騎士達が中庭で手合わせをしている姿が見えた。

「…ああ、巫女様の新しい護衛騎士を決めているのです。巫女様が周囲に人を置くことをお嫌いになるので、護衛騎士は一人にしているのですが。前任の者が巫女様の不興を買ってしまいましてね」

『護衛騎士』という言葉に、記憶の中の何かが引っ掛かった。

「一人でも巫女様をお守りできる実力のある者でなければなりませんから、ああして選抜を行っているのです」

「…」

引っ掛かった何かを何とか思い出そうと、目の前の試合を目で追った。流していた視線の先、一人の男を見つけて記憶が蘇る。

―あの男、バッドエンドの

『浄化の巫女』には、いくつかのバッドエンドが存在する。その中には、もちろん成人向け、かなりエグいエンドというのも存在していて、人によってはトラウマものだというようなものまである。

その中の一つに、浄化は成功していても、全攻略対象の好感度が低すぎると発生する『鳥籠エンド』というものが存在した。

誰とも結ばれることなく、浄化の巫女として神殿に囲われる最後なのだけれど、その最後のスチルが護衛騎士による凌辱シーンなのだ。シーン自体に至るストーリーはほぼ無し。ただ、巫女が護衛騎士を拒絶、嫌がっていることがわかるセリフで終わるという、何とも後味の悪い最後。

そのスチルの男が、今まさに、巫女の護衛騎士に選ばれようとしている。腕は立つのだろう、勝ち進んでいる様子に、思わず口角があがる。

「ドロテア嬢?彼が何か気になりますか?」

「いいえ」

彼が現れたということは、『鳥籠エンド』のフラグが立ったということだろうか。巫女がどんな目に会おうが関係無いけれど、鳥籠エンドならば浄化は成功するということになる。このままいけば―

「あの男は、腕は確かなのですが、平民出身なもので。巫女のお側におくのはいかがなものかと悩んでおりまして、」

「いいえ!彼がいいわ!」

思わず、声が大きくなってしまった。訝しむハイリヒの視線を避けて、声をおとす。

「…失礼しました。ですが、護衛騎士には彼が適任です」

「…あの男が、巫女様のお役に立つと?」

「ええ」

断言して見せれば、ハイリヒは躊躇いながらもうなずいた。

「…わかりました。彼が真実、巫女様の助けになるというのでしたら、仕方ありません。しかし、ドロテア様?」

その声に、背筋に冷たいものが走った。微笑んでいるはずの男の目が、ほの暗く光っている。

「彼が巫女様を害すようなことがあれば、その時は―」

「!?」

笑っているはずの顔に恐怖を感じた。

―忘れていた、この男も

目の前の男、攻略対象者の中で、唯一狂愛エンドのある、浄化の巫女の狂信者。行き過ぎた愛で、巫女を塔に幽閉し、鎖に繋ぐ―

「…ですが、まあ、他でもないドロテア様のご助言ですからね。今は従っておきましょう」

背筋に流れた不快な汗。この男の対策も、考えておかなければいかないかもしれない。ハイリヒルートで、彼が巫女から離れるバッドエンドも確かあったはずだから。

「…さて、それでは私はここで失礼させて頂きますね?彼を護衛騎士につける準備をしなければなりませんので」

「…お待ちください。あの者の名は?」

「うーん、何という名だったか。冒険者としては、白銀クラスの実力の持ち主という触れ込みだったのですが。ああ、そう確か、」

告げられた名にうなずいた。いつか、巫女を汚し、巫女に拒絶される男の名に―




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