召喚巫女の憂鬱

リコピン

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第二章 巫女という名の監禁生活

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案内されたのは、何度か足を運んだことのあるハイリヒの執務室。ソファに腰かけたハイリヒが柔和な顔で、紅茶を進めてくる。

「…ハイリヒ様は、巫女様について、このままで良いとお考えなのですか?ご降臨から、直に一年が経とうというのですよ?」

「巫女様は、未だ戸惑っておいでなのです」

ほぼ一年前、ナハトが召喚を行って直ぐに『巫女に関するお告げを受けた』という口実で、神殿には出向いている。

本来なら、エクストラルートで巫女が現れたことを神殿に告げるのは別の貴族令嬢、ゲームでのサポートキャラの役目だった。

だけど、あの女はもういない。

「…一年前、巫女様の顕現に気づけた者は、聖都においてわたくしただ一人でした。私は、巫女様を教え、導く立場にあると自負しております」

「ええ、おっしゃる通りですよ、ドロテア嬢」

「でしたら、ハイリヒ様からも巫女様に忠告を。神殿の外に出ての慰問、守護者や巫女様を慕う方々との積極的な交流を勧めて下さい」

それが、ゲームでの効率のいい選択肢、浄化を進めるポイントなのだから―

この世界では―元が恋愛ゲームなだけあって―守護者達との仲を深めるほど瘴気の浄化が進む。ふざけたことに、浄化の効率だけでいうのなら、逆ハーエンドが一番効率がいいくらいなのだ。

そしてそれは、聖都の誰もが知る神殿の教えとも合致している。代々の巫女は一部の例外を除いて、幾人もの守護者を側近くに置いて、寵愛してきた。それが、世界の浄化に繋がるのだから、当然のことなのだという教え。本当に、馬鹿馬鹿しい。

浄化が成功するならノーマルエンドで十分だし、巫女と誰かとのグッドエンドなんて必要ない。

逆ハーエンドなんて、絶対にやらせない―

「ドロテア様のご助言はごもっともです。しかし、お忘れですか?あなたの言葉が完全に正しかったわけではない」

「…それは、」

一年前、巫女の顕現を告げれば、神殿は直ぐに動いた。聖都の隣にある、巫女が現れるはずの街をくまなく探して回ったのだ。けれど、巫女はなかなか見つからず、ようやく見つけることが出来たのは、一月後。

今思えば、意図的にエクストラルートを進めたことで、どこか、何かがズレてしまっていたのかもしれない。サブ攻略対象による召喚が行われる正確な時期は、ゲームでははっきりとしなかった。通常の召喚が行われる前、ということだけは確実だったのだけれど、召喚のタイミングが早すぎたのかもしれない。

「巫女様は、どうやら我々がお迎えするまでに色々と辛い目に合われたようなのです。体にはいくつもの傷がありましたし、発見時には、素性の怪しい男に連れ回されていたという情報もあります」

「…本当に?」

だとしたら、

―いい気味だ

こちらを見下す、すかした女が、過去とはいえひどい目に合ったのかと思うと、胸がすく。

「ええ、間違いありません。ですから、まだ怯えていらっしゃるのかもしれませんね」

ハイリヒは、仕方ないと思っているようだけれど。

そんなささいな理由で浄化が進まないなんて、冗談じゃない。確かに、召喚のタイミングを変えてしまったのは私だ。エミーリアの死亡イベントを起こさせないためには、通常よりも早い浄化、巫女の召喚が必要だった。

通常の召喚では、巫女が召喚された時点でエミーリアは瘴気に倒れてしまっている。救うためにはレオナルトルートを攻略するしかないが、レオナルトを攻略されるわけにはいかない。

だから、ナハトルートに入る危険を冒してまで、エクストラルートでの召喚を選んだのに。結局、エミーリアが倒れてしまい、私の大公妃の座が危うくなってしまっている。

本当に、ムカつく。無能な癖に、こちらの助言にも耳を貸さない女のせいで―




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