召喚巫女の憂鬱

リコピン

文字の大きさ
上 下
18 / 78
第二章 巫女という名の監禁生活

3.

しおりを挟む
3.

ヒロインの様子を確認するため、翌日には神殿に出かけた。確認すると言っても、ムカつくことに、きっと一言二言、立ち話をするくらいしか出来ないはず。

初めて守護者達が巫女と顔を会わせた時、『巫女顕現のお告げを受けた者』として、私も同席していた。その際、巫女には効率的な浄化の方法をいくつか教えたのだけれど、それ以来、ずっと接触を避けられている。

何度か面会を申し込んでいるのに、『巫女が嫌がっている』という理由で、一度も許可が下りていない。ゲームでは、ある程度浄化が進まないとドロテアは登場しなかったから、それも関係しているのかもしれないけれど―

白く輝く神殿の廊下。その奥、全身を白い装束に身を包んだ女が歩いてくるのが見えた。周囲の人間が次々に頭を下げる中、視線を上げたまま、毅然と巫女を見すえる。

「…巫女様」

「…」

白いレースのベールを着けた女が無言でこちらを振り向いた。厚いベールの向こうの顔、巫女の表情が、こちらからは全く見えない。

「少々、進言したいことがございます。お時間を頂けますか?」

「…」

女は何も言わない。

仮にも侯爵令嬢である私に対してこの態度。ゲームにだって、『無視する』なんて選択肢はなかったはず。出会って以来、ずっとこんな調子。本当にこちらを認識しているのかも怪しい、薄気味悪さ。大体、ヒロインはこんなベールを着けていただろうか?

「巫女様?」

ヒロインの立ち絵はなかったから普段の姿はわからないけれど、少なくとも、イベントスチルではベールなんて身に着けていなかったはず。

表情が全く見えないことに落ち着かない気分にさせられて、それが余計に腹立たしい。

「…」

「!?お待ちください!巫女様!」

最悪!完全に無視された!

何も言わずに、さっさと歩き出した女を慌てて引き留める。こっちだって、好き好んで話しかけているわけではない。無能な巫女に、    
浄化の進め方ゲームの攻略を教えなければならないだけで―

「ドロテア嬢、巫女様はお忙しい身。無理に引き留めるのは、お止めください」

「…ハイリヒ様」

横から入ってきたのは、攻略対象の一人、神殿長のハイリヒ・シュピラー。いつの間に現れたのか、巫女を逃がそうと邪魔をされた。

ゲームでは、巫女を信仰する彼の好感度は最初から高く、しかも接触が多いためか、好感度は簡単にマックスまで上がってしまう。ゲームでは攻略しやすくて楽なキャラだったけれど、今は巫女側の人間。そのために、私の邪魔をするというのなら、私の、敵だ―

「…わたくしは、巫女様にこの聖都の現状を知っていただきたく、参上しているだけです。何も、わざと巫女様を煩わせようというわけではなく、」

「ええ、そうでしょうとも。ドロテア様の献身は十分に理解しております。ですが残念なことに、今は巫女様の都合が悪く」

言って苦笑する男の顔には、全く残念だという思いはうかがえない。

「そうですね。では、巫女様の代わりに、私がお話をおうかがいしましょう」

のちほど巫女様にお伝えしておきます、と言う男は、その端正な顔にニコニコと邪気のない笑顔を浮かべている。

「…致し方、ございません」

既に巫女は去ってしまっている。去っていく時も、私達のやり取りなど気にもしていなかった。

―どこまでも、バカにしている

もしかして、あの女も転生者なのだろうか?過去に一度だけだが、自分以外の転生者に会ったことがあるから、その可能性は捨てきれない。

―私を、ゲームのキャラだと侮っている?

だとしたら、絶対に許せない。私はただのゲームキャラじゃない。ゲーム知識を持ち、それを活かすことが出来ている私は、この世界で一番優位に立っている、特別な存在なんだから。

私を侮ったことを、絶対に後悔させてやる―

「ドロテア嬢、では、私の部屋へどうぞ」

先導して、巫女が去ったのとは反対の方向へ歩き出したハイリヒの後に従った。

この男が、私を蔑ろにしない、出来ないことはわかっている。巫女の顕現を告げたことで、巫女に関して、私は誰にも無視できない存在になったのだから。誰にも、巫女本人にだって、私を無視するなんてことを許すつもりはない。




しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

ひとりぼっちだった魔女の薬師は、壊れた騎士の腕の中で眠る

gacchi
恋愛
両親亡き後、薬師として店を続けていたルーラ。お忍びの貴族が店にやってきたと思ったら、突然担ぎ上げられ馬車で連れ出されてしまう。行き先は王城!?陛下のお妃さまって、なんの冗談ですか!助けてくれた王宮薬師のユキ様に弟子入りしたけど、修行が終わらないと店に帰れないなんて…噓でしょう?12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

初恋の還る路

みん
恋愛
女神によって異世界から2人の男女が召喚された。それによって、魔導師ミューの置き忘れた時間が動き出した。 初めて投稿します。メンタルが木綿豆腐以下なので、暖かい気持ちで読んでもらえるとうれしいです。 毎日更新できるように頑張ります。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

処理中です...