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第二章 巫女という名の監禁生活
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「ドロテア、開けて」
自室のバルコニー、そのガラス戸を叩く音にハッとする。待ち望んだ人の声、急いで窓辺に駆け寄って扉を開けた。
「ナハト!」
窓の外の暗闇に溶けるような黒装束、その顔に甘い表情を浮かべる男に抱きついた。
「待ってたわ!」
優しく抱き締めてくれる腕にすり寄る。大切な宝物みたいに私を扱ってくれるこの腕が好き。
「お待たせ。外は寒いよ」
優しく誘われて、明るい室内へと戻った。ナハトが来てくれたのは、巫女の情報を伝えるため。裏にも表にも顔の広いナハトは、今は商人として神殿に出入りしている。人たらしでもある彼は、神殿に仕える人達に取り入るのがうまい。巫女に関して、今までにもたくさんの情報を手に入れてくれている。
「どうなの?巫女は、相変わらず?」
「みたいだね。人を寄せ付けずに、巫女の間に閉じ籠ってばかりだそうだ」
「…全然ダメじゃない」
使えない巫女にイライラする。元はゲームなのだとしても、私達にとってこの世界は現実。巫女が世界を浄化しなければ、世界は瘴気によって滅んでしまう。だから、彼女にはその役目をきっちり果たしてもらわないといけないのに。
彼女が召喚されてから、もうすぐ一年。だけど、浄化はほとんど進んでいない。ゲームなら、
「…滅亡エンド一直線よ」
「ドロテア?」
ナハトの問いかけに、何でもないと首を振る。
浄化が、全く進んでいないわけではない。本来なら一年近く前に起きてしまっているはずのレオナルトのトラウマイベント。それが今ようやく始まったところだから、多少は瘴気が薄まっているのは間違いないのだけれど。
「エミーリアが瘴気で倒れたの」
「…シリングスの。君の婚約者殿の妹だね?」
ナハトの言葉にうなずく。レオナルトルートでは、浄化の進捗が悪いと、彼の妹が死んでしまうというフラグイベントが発生する。これが発生すると、『妹を助けられなかったレオナルトは自分が許せずに、旅に出てしまう』というバッドエンドを迎えることになる。
レオナルトルートに入るためのフラグは折ったし、イベントも起きていないみたいだから、ヒロインがレオナルトエンドを迎えることはないはず。でももし、レオナルトがバッドエンドと同じ選択をしてしまったら、婚約者である私の立場はどうなるというのか。最悪な展開しか浮かばない。
「巫女には、さっさと浄化を終わらせてもらわないと。このままじゃ、大公妃の座がダメになっちゃう」
「…酷い女だね、君は」
俺の気持ちを知っているくせに、と笑うナハトの瞳が妖しく光る。強く抱き寄せられて、降りてくるキスを受け入れた。
「…だって、あなたの隣でずっと命を狙われ続ける生活なんて、私には無理だもの」
「つれないなぁ」
細身の割に逞しい腕に抱き上げられて、ベッドへと下ろされる。
「でも、覚えておいて。君が大公妃になろうと、何をしようと、君は俺のものだから」
「…」
この瞬間が最高に好き。これだけ格好よくて、何でも手に入れられるはずの男が、私を愛して求めてくれる。
ナハトの首に腕を回した。
「覚えておく。けど、あなたが私のものだってことも忘れないで」
ベッドの上に押さえつけられて、激しいキスが降ってきた。それを受け入れて、幸せな時間に身を委ねる。
前世では得られなかったたくさんのもの。綺麗な容姿に地位と財産。皆が羨ましがるような秘密の恋人。どれも、手放すつもりなんてない。
―私なら、上手くやれる
この幸運を、絶対に終わらせたりしない。
「ドロテア、開けて」
自室のバルコニー、そのガラス戸を叩く音にハッとする。待ち望んだ人の声、急いで窓辺に駆け寄って扉を開けた。
「ナハト!」
窓の外の暗闇に溶けるような黒装束、その顔に甘い表情を浮かべる男に抱きついた。
「待ってたわ!」
優しく抱き締めてくれる腕にすり寄る。大切な宝物みたいに私を扱ってくれるこの腕が好き。
「お待たせ。外は寒いよ」
優しく誘われて、明るい室内へと戻った。ナハトが来てくれたのは、巫女の情報を伝えるため。裏にも表にも顔の広いナハトは、今は商人として神殿に出入りしている。人たらしでもある彼は、神殿に仕える人達に取り入るのがうまい。巫女に関して、今までにもたくさんの情報を手に入れてくれている。
「どうなの?巫女は、相変わらず?」
「みたいだね。人を寄せ付けずに、巫女の間に閉じ籠ってばかりだそうだ」
「…全然ダメじゃない」
使えない巫女にイライラする。元はゲームなのだとしても、私達にとってこの世界は現実。巫女が世界を浄化しなければ、世界は瘴気によって滅んでしまう。だから、彼女にはその役目をきっちり果たしてもらわないといけないのに。
彼女が召喚されてから、もうすぐ一年。だけど、浄化はほとんど進んでいない。ゲームなら、
「…滅亡エンド一直線よ」
「ドロテア?」
ナハトの問いかけに、何でもないと首を振る。
浄化が、全く進んでいないわけではない。本来なら一年近く前に起きてしまっているはずのレオナルトのトラウマイベント。それが今ようやく始まったところだから、多少は瘴気が薄まっているのは間違いないのだけれど。
「エミーリアが瘴気で倒れたの」
「…シリングスの。君の婚約者殿の妹だね?」
ナハトの言葉にうなずく。レオナルトルートでは、浄化の進捗が悪いと、彼の妹が死んでしまうというフラグイベントが発生する。これが発生すると、『妹を助けられなかったレオナルトは自分が許せずに、旅に出てしまう』というバッドエンドを迎えることになる。
レオナルトルートに入るためのフラグは折ったし、イベントも起きていないみたいだから、ヒロインがレオナルトエンドを迎えることはないはず。でももし、レオナルトがバッドエンドと同じ選択をしてしまったら、婚約者である私の立場はどうなるというのか。最悪な展開しか浮かばない。
「巫女には、さっさと浄化を終わらせてもらわないと。このままじゃ、大公妃の座がダメになっちゃう」
「…酷い女だね、君は」
俺の気持ちを知っているくせに、と笑うナハトの瞳が妖しく光る。強く抱き寄せられて、降りてくるキスを受け入れた。
「…だって、あなたの隣でずっと命を狙われ続ける生活なんて、私には無理だもの」
「つれないなぁ」
細身の割に逞しい腕に抱き上げられて、ベッドへと下ろされる。
「でも、覚えておいて。君が大公妃になろうと、何をしようと、君は俺のものだから」
「…」
この瞬間が最高に好き。これだけ格好よくて、何でも手に入れられるはずの男が、私を愛して求めてくれる。
ナハトの首に腕を回した。
「覚えておく。けど、あなたが私のものだってことも忘れないで」
ベッドの上に押さえつけられて、激しいキスが降ってきた。それを受け入れて、幸せな時間に身を委ねる。
前世では得られなかったたくさんのもの。綺麗な容姿に地位と財産。皆が羨ましがるような秘密の恋人。どれも、手放すつもりなんてない。
―私なら、上手くやれる
この幸運を、絶対に終わらせたりしない。
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