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第二章 巫女という名の監禁生活
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物心ついた時には、この世界が前世でプレイしたことのある、乙女ゲームの世界だということを知っていた。
たまに、知らないはずのことを知っていたし、あれ?これ見たことあるって経験が重なって、自分の中に、前世というものがあるのがわかった。
さすがに全部の記憶を思い出すことは出来なかったけど。見たことある景色や人―決定的だったのは、攻略対象である自分の婚約者―との出会いで、この世界、『浄化の巫女は鳥籠に鳴く』という乙女ゲームの存在を思い出した。
確か、『愛で世界を救う』みたいなキャッチフレーズの、R18指定恋愛ゲーム。最悪なのは、私がゲームの中の悪役令嬢、破滅フラグばっかりのキャラ―ドロテア・ケルステン―だってこと。
だけど、破滅するとわかっていて何もしないわけにはいかない。それに、実はチャンスだとも思った。今の私は、乙女ゲームのライバル役だけあって、容姿にも家柄にも恵まれている。何より、ゲームのストーリーを知っているという最大の強みがある。ゲームが始まれば強制力が働くかもしれないけれど、ヒロインが現れるまで、それまでに自分が優位に立っておくことも出来るはず。
守護者と呼ばれる攻略対象は全部で五人。『七守護者』という名称なのに、守護者の証である守護石が一つは行方不明、一つは継承者がいないという微妙な設定。ゲーム会社の都合で、製作途中で攻略キャラが減らされたのかもしれないけど。
守護者以外には攻略可能なサブキャラが3人。合わせて8人のルートの中で、『私』が登場するのは、義弟のフリッツ・ケルステンと婚約者のレオナルト・シリングスのルートだけ。都合よく、ヒロインが二人のルートを選ばずにいてくれればいいけれど、そんな保証はどこにもない。特にレオナルトはゲームのメイン攻略対象だからリスクが高い。
だから、二人とはなるべく仲良くなれるように努力した。平民の母親から産まれたフリッツを蔑んで虐めたりしなかったし、お堅い婚約者であるレオナルトをないがしろにしたり、邪険にしたりはしなかった。
ただ、ゲームで好きだったのは、サブ攻略対象のナハトだったから、最後までレオナルトを好きになることはなかったけれど―
ナハトの設定は裏稼業のボス。生きるために悪どいこともたくさんしているので、常に命を狙われ続けている。ナハトルートでは、敵対勢力に誘拐されるイベントもあるし、バッドエンドにはヒロイン死亡エンドもある。
彼の隣で命を狙われ続けるスリリングな生活。ゲームならいいけれど、実際にそうなりたいとは思わない。今のこの世界で、侯爵令嬢である私が彼と結ばれるのは厳しいし、将来の大公妃の立場を捨てて、裏の世界で生きるのは絶対に嫌だ。
それでも、ナハトの存在を無視することも出来なくて、彼のトラウマイベントを潰して、フラグもいくつか回収した。人目も立場もあるから大っぴらには出来ないけれど、彼は私を愛してくれている。私が望めば、どんなお願いだって、叶えてくれるほどに。
だから、ナハトに頼んだ。『巫女の間にある守護石に触れて』って。
ヒロインが召喚される時のルートは三通り。通常ルートの2つについては、ゲーム開始直後の選択肢で分岐する。『代わり映えのしない毎日、退屈している主人公を呼ぶ声が聞こえる』という始まりで、この声に答えると、異世界、つまりこの世界でのエンドを迎えることになる。
答えなかった場合は、攻略した相手をつれて元の世界に帰るんだけど、両方のエンドでそれぞれスチルが違う。両方見るにはそれぞれのスタートでゲームを周回、しかもそれを5人分やらないといけないという面倒なゲームだったことも覚えている。
ナハトに頼んだのは、そのどちらにも当てはまらない3つ目の召喚ルート。
ゲームでは、一回でもエンドを迎えると開くエクストラルートというものがあった。そのルートを選ぶと、ヒロインは神殿ではなく街中にトリップすることになる。そこで、ナハトを含む三人のサブ攻略対象に出会うことで、彼らの攻略が可能になる。
本当は、ヒロインにナハトには近づいて欲しくないから、エクストラルートに入るのはかなり嫌だった。だけど、レオナルトのバッドエンドの一つを潰すため―私の将来のため―には、どうしても正規の『召喚の儀』を待っているわけにはいかなかった。
エクストラルートに入るときのゲームのプロローグでは、サブ攻略対象の―この時点では正体は明かされない―誰かが、巫女の間の守護石に触れる。継承者が居なくて、巫女の間の奥に保管されている守護石。それがサブ攻略対象に反応して召喚が行われてしまう、というストーリーだ。
そしてゲームの最後で、サブ攻略対象の中で一番好感度の高い相手が、守護石の反応したキャラだったということになる。そのキャラが新しい守護者に選ばれて、ヒロインと結ばれるというハッピーエンドに繋がっていく。
だから、サブ攻略対象であれば誰でも、エクストラルートでの召喚を行える。ナハトにお願いしたのは、それがわかっていたから。
そして、一年前―
ナハトが守護石に触れて一月もしない内に、本当に、現れたのだ。召喚の巫女、ゲームのヒロインが―
物心ついた時には、この世界が前世でプレイしたことのある、乙女ゲームの世界だということを知っていた。
たまに、知らないはずのことを知っていたし、あれ?これ見たことあるって経験が重なって、自分の中に、前世というものがあるのがわかった。
さすがに全部の記憶を思い出すことは出来なかったけど。見たことある景色や人―決定的だったのは、攻略対象である自分の婚約者―との出会いで、この世界、『浄化の巫女は鳥籠に鳴く』という乙女ゲームの存在を思い出した。
確か、『愛で世界を救う』みたいなキャッチフレーズの、R18指定恋愛ゲーム。最悪なのは、私がゲームの中の悪役令嬢、破滅フラグばっかりのキャラ―ドロテア・ケルステン―だってこと。
だけど、破滅するとわかっていて何もしないわけにはいかない。それに、実はチャンスだとも思った。今の私は、乙女ゲームのライバル役だけあって、容姿にも家柄にも恵まれている。何より、ゲームのストーリーを知っているという最大の強みがある。ゲームが始まれば強制力が働くかもしれないけれど、ヒロインが現れるまで、それまでに自分が優位に立っておくことも出来るはず。
守護者と呼ばれる攻略対象は全部で五人。『七守護者』という名称なのに、守護者の証である守護石が一つは行方不明、一つは継承者がいないという微妙な設定。ゲーム会社の都合で、製作途中で攻略キャラが減らされたのかもしれないけど。
守護者以外には攻略可能なサブキャラが3人。合わせて8人のルートの中で、『私』が登場するのは、義弟のフリッツ・ケルステンと婚約者のレオナルト・シリングスのルートだけ。都合よく、ヒロインが二人のルートを選ばずにいてくれればいいけれど、そんな保証はどこにもない。特にレオナルトはゲームのメイン攻略対象だからリスクが高い。
だから、二人とはなるべく仲良くなれるように努力した。平民の母親から産まれたフリッツを蔑んで虐めたりしなかったし、お堅い婚約者であるレオナルトをないがしろにしたり、邪険にしたりはしなかった。
ただ、ゲームで好きだったのは、サブ攻略対象のナハトだったから、最後までレオナルトを好きになることはなかったけれど―
ナハトの設定は裏稼業のボス。生きるために悪どいこともたくさんしているので、常に命を狙われ続けている。ナハトルートでは、敵対勢力に誘拐されるイベントもあるし、バッドエンドにはヒロイン死亡エンドもある。
彼の隣で命を狙われ続けるスリリングな生活。ゲームならいいけれど、実際にそうなりたいとは思わない。今のこの世界で、侯爵令嬢である私が彼と結ばれるのは厳しいし、将来の大公妃の立場を捨てて、裏の世界で生きるのは絶対に嫌だ。
それでも、ナハトの存在を無視することも出来なくて、彼のトラウマイベントを潰して、フラグもいくつか回収した。人目も立場もあるから大っぴらには出来ないけれど、彼は私を愛してくれている。私が望めば、どんなお願いだって、叶えてくれるほどに。
だから、ナハトに頼んだ。『巫女の間にある守護石に触れて』って。
ヒロインが召喚される時のルートは三通り。通常ルートの2つについては、ゲーム開始直後の選択肢で分岐する。『代わり映えのしない毎日、退屈している主人公を呼ぶ声が聞こえる』という始まりで、この声に答えると、異世界、つまりこの世界でのエンドを迎えることになる。
答えなかった場合は、攻略した相手をつれて元の世界に帰るんだけど、両方のエンドでそれぞれスチルが違う。両方見るにはそれぞれのスタートでゲームを周回、しかもそれを5人分やらないといけないという面倒なゲームだったことも覚えている。
ナハトに頼んだのは、そのどちらにも当てはまらない3つ目の召喚ルート。
ゲームでは、一回でもエンドを迎えると開くエクストラルートというものがあった。そのルートを選ぶと、ヒロインは神殿ではなく街中にトリップすることになる。そこで、ナハトを含む三人のサブ攻略対象に出会うことで、彼らの攻略が可能になる。
本当は、ヒロインにナハトには近づいて欲しくないから、エクストラルートに入るのはかなり嫌だった。だけど、レオナルトのバッドエンドの一つを潰すため―私の将来のため―には、どうしても正規の『召喚の儀』を待っているわけにはいかなかった。
エクストラルートに入るときのゲームのプロローグでは、サブ攻略対象の―この時点では正体は明かされない―誰かが、巫女の間の守護石に触れる。継承者が居なくて、巫女の間の奥に保管されている守護石。それがサブ攻略対象に反応して召喚が行われてしまう、というストーリーだ。
そしてゲームの最後で、サブ攻略対象の中で一番好感度の高い相手が、守護石の反応したキャラだったということになる。そのキャラが新しい守護者に選ばれて、ヒロインと結ばれるというハッピーエンドに繋がっていく。
だから、サブ攻略対象であれば誰でも、エクストラルートでの召喚を行える。ナハトにお願いしたのは、それがわかっていたから。
そして、一年前―
ナハトが守護石に触れて一月もしない内に、本当に、現れたのだ。召喚の巫女、ゲームのヒロインが―
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