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第一章 突然始まった非現実
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こちらの世界に来て二十日、八ヶ所目に立ち寄った『ベギアデ』という街の大きさに驚いた。今までに見た街は、小説や映画に出てくるような中世ヨーロッパという雰囲気の街ばかりだった。それが、突如、見上げるような高い壁に周囲を囲まれた要塞のような巨大都市が現れて、唖然としてしまった。
「…初めて見ると驚くかもな。ベギアデは、古代遺跡を元に作られた街だ。今の技術では造れない設備も残っている」
『ベギアデ』という単語が聞こえたから、街の説明をしてくれたのかもしれないけれど、ヴォルフが平然としているということは、この世界では、こういう街も普通に存在するのかもしれない。歩き出したヴォルフの後を、慌てて追った。
たどり着いたのは、いつもより少し大きな宿で、泊まる部屋もいつもより少し広い印象がある。二つ並んだベッドの一つに、ヴォルフが腰かけた。
「…トーコ」
『はい?』
呼ばれて、もう一つのベッドに、ヴォルフと向かい合うようにして腰かけた。向かいのヴォルフが黙って取り出したのは、預かってくれている振袖。たまに、こうして出して私に持たせてくれているから、それだろうかと手を伸ばしたら、首を振られた。
「この街に、腕のいい縫製師がいるそうだ。織物の評判もいい工房で、汚れ落としもしてくれる。これを預けてみないか?」
ヴォルフが、穴の空いた箇所や、泥の汚れを指差しているから、多分、修繕?クリーニングかな?してくれるということだろうか。修繕はともかく―もう遅いかもしれないけれど―汚れは早く落としておきたいから、それならとても助かる。
言葉の意味については確信出来ないけれど、ヴォルフの顔をじっと見て、彼のことは信頼できると思った。
『お願いします』
大きく、伝わるようにうなずいた。それに、ヴォルフもうなずいて返してくれる。振袖を再びしまって、立ち上がったヴォルフ。彼はまだ、マントのような外套を脱いでいない。
「…工房に寄ってから、ギルドに顔を出してくる。待っていろ」
今までのパターンだと、多分、お仕事を貰いに行くのだろう。うなずいて、彼を見送るために立ち上がった。
『行ってらっしゃい』
「…行ってくる」
彼が出て行った後も、ドアを細く開けて、その背を見送る。廊下の向こうに彼が消えてから扉を閉め、内から鍵をかけた。これは、ヴォルフに何度もジェスチャーで言われたこと。私自身、一人になると不安だから、きっちりと鍵をかけて、彼の帰りを待つ。お仕事を貰いに行くだけだから、お仕事の時と違って、帰りは早いはず。今までにも何度もあったこと。だから、一人の留守番が不安なのは確かだけれど、
いつも通りだと、そう思っていた―
ここで、彼を待っていればいいのだと。まさか、彼に『お帰り』が言えないなんて、そんなこと思いもせずに。
こちらの世界に来て二十日、八ヶ所目に立ち寄った『ベギアデ』という街の大きさに驚いた。今までに見た街は、小説や映画に出てくるような中世ヨーロッパという雰囲気の街ばかりだった。それが、突如、見上げるような高い壁に周囲を囲まれた要塞のような巨大都市が現れて、唖然としてしまった。
「…初めて見ると驚くかもな。ベギアデは、古代遺跡を元に作られた街だ。今の技術では造れない設備も残っている」
『ベギアデ』という単語が聞こえたから、街の説明をしてくれたのかもしれないけれど、ヴォルフが平然としているということは、この世界では、こういう街も普通に存在するのかもしれない。歩き出したヴォルフの後を、慌てて追った。
たどり着いたのは、いつもより少し大きな宿で、泊まる部屋もいつもより少し広い印象がある。二つ並んだベッドの一つに、ヴォルフが腰かけた。
「…トーコ」
『はい?』
呼ばれて、もう一つのベッドに、ヴォルフと向かい合うようにして腰かけた。向かいのヴォルフが黙って取り出したのは、預かってくれている振袖。たまに、こうして出して私に持たせてくれているから、それだろうかと手を伸ばしたら、首を振られた。
「この街に、腕のいい縫製師がいるそうだ。織物の評判もいい工房で、汚れ落としもしてくれる。これを預けてみないか?」
ヴォルフが、穴の空いた箇所や、泥の汚れを指差しているから、多分、修繕?クリーニングかな?してくれるということだろうか。修繕はともかく―もう遅いかもしれないけれど―汚れは早く落としておきたいから、それならとても助かる。
言葉の意味については確信出来ないけれど、ヴォルフの顔をじっと見て、彼のことは信頼できると思った。
『お願いします』
大きく、伝わるようにうなずいた。それに、ヴォルフもうなずいて返してくれる。振袖を再びしまって、立ち上がったヴォルフ。彼はまだ、マントのような外套を脱いでいない。
「…工房に寄ってから、ギルドに顔を出してくる。待っていろ」
今までのパターンだと、多分、お仕事を貰いに行くのだろう。うなずいて、彼を見送るために立ち上がった。
『行ってらっしゃい』
「…行ってくる」
彼が出て行った後も、ドアを細く開けて、その背を見送る。廊下の向こうに彼が消えてから扉を閉め、内から鍵をかけた。これは、ヴォルフに何度もジェスチャーで言われたこと。私自身、一人になると不安だから、きっちりと鍵をかけて、彼の帰りを待つ。お仕事を貰いに行くだけだから、お仕事の時と違って、帰りは早いはず。今までにも何度もあったこと。だから、一人の留守番が不安なのは確かだけれど、
いつも通りだと、そう思っていた―
ここで、彼を待っていればいいのだと。まさか、彼に『お帰り』が言えないなんて、そんなこと思いもせずに。
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