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第一章 突然始まった非現実
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目を開く前から、異変を感じていた。
突然止んだ雪、身を包む暖かさ。恐々開いた目に飛び込んできた光景に、息をのんだ。
―ここは、どこ?
さっきまで、家から駅までの道の途中に居たはずなのに。
目の前に広がるのは、鬱蒼と生い茂る植物。映像でしか見たことのないような、空を覆うほど背の高い木々。大きな葉を広げ、蔦を絡ませている。ジャングルと言う言葉が浮かんだ。
何が起きたのか理解できずに、膨らむ恐怖心を押し込めて、足元を見下ろす。姉から譲られた草履。おろしたての足袋は、雪に降られて湿ったまま。足の裏、柔らかい土の上に立っているのを感じられる。
さっきまでは、確かに堅いアスファルトの上を歩いていたのに。
わけがわからない。ただ、浮かんでくるのは嫌な想像ばかり。恐怖に叫び出しそうになった時、ガサリと大きな葉ずれの音を、耳が拾った。
目の前の大きな茂み。奥の方から、ガサリ、ガサリと近づいてくる何かは、それなりの大きさがある。
―ひと、かな?
この状況を説明してくれる誰かをわずかに期待して身構えた。だけど、茂みをわって現れた姿は、嫌な想像を遥かに凌駕した。
「っ!?」
悲鳴にもならない、高い音が口からもれた。
現れて、目が合ったのは、巨大な熊。四つ足でさえ、自分と視線の高さが変わらない。恐怖に、手が震える。足が笑う。逃げ出したくてたまらないのに、体が言うことをきかなくて頭が真っ白になった。
恐い恐い!どうしよう!?どうしたら!?
熊が、一歩踏み出した。その前足の大きさに、ゾクリとする。あんな大きな手で攻撃されたら、ひとたまりもない。迫る死を意識して、体が動いた。
「っ!」
熊に背を向け、走り出す。背を向けたらだめなのかも。走って逃げたらだめなのかも。それでも、一度限界を越えた恐怖に、立ち止まることは出来ない。背後から、草木をなぎ倒し、熊が追ってくる音が聞こえている。
なるべく、木のある所。あの巨体が通れないような狭い隙間を選んで逃げる。だけど、着ているものにも、履いているものにも動きを制限される。枝に引っ掛かる袖を、足を止めずに力尽くで振り払う。
音をたよりに、熊との距離を確かめながら、前だけを向いて走る。振り向く余裕もないし、振り向けば、きっと恐くて動けなくなる。
がむしゃらに走っていたら、突然に視界が開けた。
―湖?
水場の周り、障害になるものも、身を隠せるものも何もない。
背中に、大きな衝撃を受けて、転んだ。慌てて背後を振り向けば、間近に迫っていた大きく、鋭い爪。それが、大きく振り上げられる。ゆっくりに見える動きを目で追った。頭上でピタリと止まった黒光りする爪の恐ろしさに、痛みと死を覚悟して、きつく目をつぶった。
目を開く前から、異変を感じていた。
突然止んだ雪、身を包む暖かさ。恐々開いた目に飛び込んできた光景に、息をのんだ。
―ここは、どこ?
さっきまで、家から駅までの道の途中に居たはずなのに。
目の前に広がるのは、鬱蒼と生い茂る植物。映像でしか見たことのないような、空を覆うほど背の高い木々。大きな葉を広げ、蔦を絡ませている。ジャングルと言う言葉が浮かんだ。
何が起きたのか理解できずに、膨らむ恐怖心を押し込めて、足元を見下ろす。姉から譲られた草履。おろしたての足袋は、雪に降られて湿ったまま。足の裏、柔らかい土の上に立っているのを感じられる。
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わけがわからない。ただ、浮かんでくるのは嫌な想像ばかり。恐怖に叫び出しそうになった時、ガサリと大きな葉ずれの音を、耳が拾った。
目の前の大きな茂み。奥の方から、ガサリ、ガサリと近づいてくる何かは、それなりの大きさがある。
―ひと、かな?
この状況を説明してくれる誰かをわずかに期待して身構えた。だけど、茂みをわって現れた姿は、嫌な想像を遥かに凌駕した。
「っ!?」
悲鳴にもならない、高い音が口からもれた。
現れて、目が合ったのは、巨大な熊。四つ足でさえ、自分と視線の高さが変わらない。恐怖に、手が震える。足が笑う。逃げ出したくてたまらないのに、体が言うことをきかなくて頭が真っ白になった。
恐い恐い!どうしよう!?どうしたら!?
熊が、一歩踏み出した。その前足の大きさに、ゾクリとする。あんな大きな手で攻撃されたら、ひとたまりもない。迫る死を意識して、体が動いた。
「っ!」
熊に背を向け、走り出す。背を向けたらだめなのかも。走って逃げたらだめなのかも。それでも、一度限界を越えた恐怖に、立ち止まることは出来ない。背後から、草木をなぎ倒し、熊が追ってくる音が聞こえている。
なるべく、木のある所。あの巨体が通れないような狭い隙間を選んで逃げる。だけど、着ているものにも、履いているものにも動きを制限される。枝に引っ掛かる袖を、足を止めずに力尽くで振り払う。
音をたよりに、熊との距離を確かめながら、前だけを向いて走る。振り向く余裕もないし、振り向けば、きっと恐くて動けなくなる。
がむしゃらに走っていたら、突然に視界が開けた。
―湖?
水場の周り、障害になるものも、身を隠せるものも何もない。
背中に、大きな衝撃を受けて、転んだ。慌てて背後を振り向けば、間近に迫っていた大きく、鋭い爪。それが、大きく振り上げられる。ゆっくりに見える動きを目で追った。頭上でピタリと止まった黒光りする爪の恐ろしさに、痛みと死を覚悟して、きつく目をつぶった。
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