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終章

24 エンドロールのその後で3(終)

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「はいはい、そこまで、ストップ。」

焼かれた痛みに起き上がることも出来ずに床に這いつくばる己の耳に、突如聞えた、場違いな声。

「エンジェちゃん、大丈夫?焼けてない?」

「え?え?なに?ナディアさん?なんで…」

「…ん、よし、エンジェちゃんはギリセーフ。…ギャレン様は、まぁ、ちょっと、アウト…?」

こちらをのぞきこむ人の気配に目を開こうとするが、上手くいかない。狭い視界に見えるのは、僅かな金。

「ジェイク。ドラゴン、ヤれそう?無理そうなら、二人連れて逃げるけど。」

「…問題ございません。お嬢さ、…ナディア様にお与え頂いた魔剣と氷結鎧があれば、こやつのブレスなど。」

「あー、うん。そうだね。やっぱり、最後にもの言うのはお金の力だよね。…私の全財産突っ込んだ鎧なんだから、ちゃんとジェイク守ってもらわないと。」

呟くような声が降ってきて、身体が引っ張られるのを感じた。

「よし!じゃあ、端っこ避けとくから、サクッとやっちゃって!何か、ちょっと、ギャレン様やばめだし。」

「承知いたしました。」

その声に続く轟音、ドラゴンの絶叫が聞こえたのを最後に、意識が遠ざかった。







「…えー、だから、その、何というか、まあ、罪悪感的な?このまま国外逃亡するつもりだったんだけど、ジェイクがドラゴン倒しきってないって言うから…」

「…申し訳ありません、お嬢、…ナディア様、私の力不足ゆえに、斯様なご迷惑をおかけすることに、」

「いやいやいや。ジェイクじゃなきゃ、そもそもドラゴンとやり合うのが無理だから。いや、本当、流石、私の強制力こいびと、無茶が過ぎる。」

「お、お、お、お嬢様!?わ、私が、お、お嬢様の、こ、こ、こ、恋人などとっ!?」

「ジェイク、『お嬢様』に戻っちゃってるよ。…約束、後で、罰ゲームね?」

「っ!?」

「何してもらおうかな♪」

(…俺は、何を見ている…?これは、幻か…?)

ドラゴンとの戦闘により不覚にも意識を失って、目覚めれば自室の寝台の上。目覚めを待っていたというかつての婚約者に、ドラゴン討伐の顛末を聞いていたはずが─

(…これが、この女が、ナディア・シュタイラートだと…?)

聞きなれぬ言葉で、己の従者に親し気な笑みを向ける女。その隣には、女の言葉に顔を朱に染め上げた女の従者、だった男。今や、この国の、…世界の救世主とでも言うべき英雄。その身一つでドラゴンを討伐した─

「あ、で、まぁ、そういう訳なので、勝手にドラゴン追って王都まで来ちゃったことは不問にして欲しいなってのと、私達はまた直ぐに出ていきますので、ってことなんですよ、ギャレン様。」

「…」

「?ギャレン様?」

首を傾げた女の肩の上、短い、貴族女性にはあり得ぬ長さの髪が揺れる。

「…ナディア、貴様、本当に、ナディア・シュタイラート、なのか…?」

「ああ、はい、すみません、今まで猫被ってました。」

「…」

「まぁ、じゃあ、そういうことで、後のことはよろしくお願いします。行こう、ジェイク。」

「はい、…ナディア様。」

「っ!ま、待て!」

「?まだ、何か?」

「魔剣とその鎧!国宝とも言うべきものを国外に持ち出すなど認められん!よって、貴様らを国外追放とする罪は、」

「よし!ジェイク!プランB!」

「承知いたしました。」

「なっ!?」

男の返答と同時、二人を包むようにして張られた結界。球状のそれに包まれた二人の身体が浮いた。

「これ、はっ!?」

「ジェイク、これどこまで飛べる?国境までイケる?」

「はい、問題ございません。」

「ま、待てっ!」

必死に呼び止めた。このまま、二人を行かせるわけにはいかない。それが、とてもマズいということだけは分かる。

「待て!待ってくれ!」

国を救う力ある者の放逐。ドラゴンさえも屠る力のある主従をここで手放しなどしたら、暗愚と呼ばれてもおかしくはない─

(クソッ!これだけの利用価値を、なぜ今まで隠していたっ!?)

「ナディア!頼む!俺は、俺は君を愛しているんだ!行かないでくれ!」

なりふり構わず引き留めようと叫んだ言葉に、ナディアが振り返った。

「ギャレン様、すみません。私、ジェイクが好きなんですよ。もう、ジェイクが可愛くて可愛くて、大好きで仕方ないんです。二人で幸せになる予定なんで、追っ手とか止めて下さいね?」

「まっ!?ナディアッ!?」

それきり、二度と振り返ることのないまま、二人の姿は上空へと消えた。

「…馬鹿な。」

王太子たる自分の言葉を一蹴し、一介の従者に過ぎぬ男を選んだナディア。いや、ただの従者ではない。ドラゴンを討った─

「ギャレンッ!!」

「…何だ。」

突如、開かれた扉。そこから飛び込んで来たのは、己の─

「ギャレン!ジェイクはっ!?ジェイクはどこに居るの!?」

「…」

「私、彼に助けられたのよ!お礼をしなくちゃ!ああ、そうだ!お礼だけじゃなくて、私の、王太子妃の騎士に任命してあげましょうよ!あれだけ強くて格好いいんだもの!きっと、彼、騎士にピッタリよ!」

「…」

自身の婚約者の前で、突然、妄言を吐き出した女の顔をまじまじと見てしまう。その瞳にある、確かな熱─

「っ!クソッ!クソクソクソッ!!」

失ったものの大きさに、残されたものの虚しさに、口をつく悪態を止められなかった。

全てが手遅れなのだと、分かっていても─








(終)
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