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二章

18 エンディング トゥルーエンド

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(…始まった、かな?)

王立学園の卒業祝賀会。在校生代表として正装を決めたギャレン様が、中央の演台に立ち、こちらを向いた。

「ナディア・シュタイラート!」

「はい…」

「貴様の学園における悪事の数々、これ以上、看過することは出来ん!貴様の罪をこの場で白日の下に晒すとともに、この私、ギャレン・アーベラインとの婚約を破棄とする!」

「承知、致しました。」

既定路線、婚約破棄は喜んで受け入れる。問題は─

「…お嬢様、これは一体何事ですか?」

「ジェイク…」

異常を察知して駆け寄って来たジェイクに、ちょっと驚いた。原作の断罪シーン、悪役令嬢の隣に執事の姿なんてあっただろうか?モブ、背景と化していたのかもしれないけど、やっぱりちょっと嬉しい。隣に、ジェイクが居てくれるだけで。

「ナディア!」

「…はい。」

「貴様が犯した最大の罪、殺人未遂について、何か申し開きすることがあるか!?」

いつの間にか、話が「殺人未遂」にまで進んでいた。

「昨日午後三時頃!学園の中央棟の三階階段で、貴様!ここに居るエンジェ・ローゼを背後より突き落とし、大怪我をさせたこと、身に覚えがあるだろう!?」

「いいえ、全く身に覚えの無い、」

「その証拠がコレだ!」

「…」

ギャレン様、こっちの話ガン無視。あと、大怪我おったはずのエンジェちゃんが、ギャレン様の横でピルピルしてるのは如何なものかと─

「この髪飾りは、王宮より貴様に下賜された一点もの!これが、何よりの証拠!」

「いえ、私はそのようなものを下賜された覚えが、」

「黙れ!この期に及んでの言い訳など見苦しい!どれだけ貴様があがこうと、真実は変わらぬ!貴様が否定するこの髪飾りに残されていたもの、これでもまだシラを切るつもりかっ!?」

「あ。」

「どうだ?いくら貴様でも、これ以上は否定のしようがないだろう?」

ギャレン様が差し出すものに、ぐぬぬとはならなかったけれど、あ、やっべーとはなった。

「…お嬢様、あの?」

「ああ。遠すぎて見えない?」

「…申し訳ありません。」

「いや、あれ、髪だよ髪。私の髪。」

「なぜ、証拠品にお嬢様の髪が残って…?」

私の無実を端から疑っていないジェイクの言葉に救われる。

「多分、最近売っぱらったやつじゃないかな?カツラ用の。…私の魔力、ガンガン残ってるっぽいし。」

「…お嬢様、まだお髪でお小遣い稼ぎなどなされていたのですか?」

「うっ。」

それを言われると弱い。ジェイクに止められてからは、時々こっそり、自分で売りに行っていたから。これは、ちょっとやらかしたかもと反省。

黙ったこちらに、ギャレン様がふんぞり返って腰の剣を抜いた。その刀身が、キラキラと輝いている。

(…あれって、お父様が人命犠牲にしてまで国外から取り寄せたって魔剣。)

かつて、シュタイラートから献上し、ギャレン様に突っ返された魔剣。私が誕プレにしたかった魔剣と間違えられたソレが今、ギャレン様の手の内で煌めいている。

(結局、ギャレン様、受け取ってたんだ。)

煌めく剣先がこちらへと向けられた。

「…申し開きはないようだな。…衛兵、そやつを捕らえろ!」

「っ!?」

ギャレン様の命令に、最初に反応したのはジェイクだった。私を背後に庇い、向かってくる衛兵達に対峙しようとするから、その背中の服を掴んで引っ張る。

「ジェイク。駄目。」

「っ!しかし!このままでは、お嬢様がっ!」

「大丈夫。まだ、時間はあるから、直ぐに処刑ってことはないよ。」

「ですがっ!」

「お願い、ジェイク。」

「っ!」

この場で一番立場が不安定、あやふやなのは彼だ。ジェイクは、ゲームに描かれない人物。もし、この後の展開にジェイクが必要ないと判断されたら─

「…ジェイク、私、大人しく捕まるからさ。一緒に来てくれる?」

「…私は、いつでもお嬢様のお側に。」

「うん、ありがとう。」

結局、衛兵だって公爵家のご令嬢にあまり無体はしたくなかったんだろう。こちらも大人しくしていたから、手荒に扱われることもなく、王宮の一室へと軟禁された。

最後の温情、何か望みはあるかと聞かれたので、「ジェイクと二人で話がしたい」という私の願いはあっさり叶えられた。

さて、何をどこからどう説明するか、と迷ったところで、ジェイクが手を取り跪いた。

「お嬢様、ご安心下さい。私が直ぐに屋敷へ戻り、閣下に事情を説明して参ります。一刻も早く、お嬢様の嫌疑が晴れるよう、」

「ジェイク、聞いて。」

「お嬢様?」

「うん。あのね、お父様は動かない。今までの経験から、これはもう、絶対だと思う。」

「…」

「でね?ジェイクに今から話すこと、信じられないような話だけど、それでも、ジェイクに信じて欲しいの。」

「私が、お嬢様のお言葉を疑うことなどあり得ません。」

「うん、そうだね。…うん、ありがとう。」

躊躇いなく告げられた言葉に、そんな場合じゃないのに泣きそうになる。

「…私ね、今から先の未来が、少しだけ分かるの。」

「未来、…お嬢様には先見さきみの力が?」

「うん、まあ、そういうものだと思って。ただ、分かるのは、本の少し先の未来まで。…そこから先は、私にも全く分からないの。」

「…」

分からない。だからこそ、エンドロール後の世界が怖くてたまらない─

「…私、多分、このまま有罪確定して、国外追放を言い渡されるんだよね。」

「なっ!?そんな、馬鹿なことがっ!?」

「うん。あり得ないけど、それは、まあ、いいの。この国出て行けるのは万々歳だし。ただ、実際は国外追放じゃなくて、ギロチン、…断首刑になる、と思う。」

「っ!?」

今度こそ、ジェイクが言葉を失った。大きく開かれた目に頷いてみせる。

「この後、信じられないバッドなタイミングで王宮がドラゴンに襲われるの。」

「ドラゴンとは、もしや…」

「そう。あいつ。」

いつぞや倒し損ねたドラゴンの姿が脳裏に浮かぶ。ジェイクがつけた傷が完治していなければ、もしかしたら、襲撃はないかもしれないけれど、その可能性にかける気にはなれない。

「…でね?あのドラゴン、何故か、私が捕まってるこの部屋に、ピンポイントで突っ込んで来るんだけど、」

「そんなっ!?それでは、お嬢様の身が危ういではありませんか!?」

「ああ、大丈夫大丈夫。そこは、私、奇跡的に無傷で助かるから。」

「それでは…」

「うん。ただね?無傷で助かっちゃうからこそ、『ドラゴンを操って王都を襲撃した』とかいう罪状にグレードアップして、首、切られちゃうんだよね。」

「…」

「ドラゴン襲撃で、結構、人も死んじゃうから、まあ、本当に犯人だったら、そうなるよねっていう…」

顔面を蒼白にしたジェイク。黙ったまま、必死にこちらの言葉を理解しようとしている。こんな、荒唐無稽な話を─

「…お嬢様、それで、…それでは、私はどうすれば。…どうすれば、お嬢様をお救いすることが出来るのですか?」

「…」

信じて、理解して、それでも、私を救おうとしてくれる─

「…大丈夫。私も、そんな簡単には諦められないからさ。言ったでしょ?死ぬつもりはないって。」

「お嬢様…」

「逃げるよ。私は逃げる。今は無理でも、ドラゴンが突っ込んで来たタイミング、逃げるには最大のチャンスじゃない?だから、絶対逃げ出して、生き延びてみせるよ。」

「…承知、致しました。では、私は、」

「ジェイク。」

言いかけた、彼の言葉を遮った。

「…ねぇ、ジェイク、お願いがあるの。…あなたのお嬢様から、最後のお願い。」





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