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二章
6 共通イベント 春のピクニック1
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(あ、やっぱりねぇ、そうなるよねぇ。)
諸々覚悟を決めて飛び込んだ王立学園。無事に入学を果たしたそこで、本当に久しぶりに自分の婚約者様をお見掛けした。
(攻略対象選択からのゲームスタート、途中分岐無しだから、初恋王子様イベント見ちゃった時点でエンジェちゃんの攻略対象はギャレン様固定。)
教室の窓から見下ろす中庭、木の下でお昼寝中のギャレン様に引っ掛かったエンジェちゃんが見事にスッ転び、「何でこんなところに人が!?」「うるさい女だ」「こんなところで寝てるあなたが悪いんでしょう!」の、出会いイベントが終了した。
(うーん、ギャレン様の目がエンジェちゃんに釘付け。)
今頃、「フッ、この俺を知らないとは、面白い女だ」の独白をしているところなんだろう。
(…というか、あの二人は授業に出なくていいの?)
今日は授業らしい授業は無いとはいえ、明後日行われる春のオリエンテーリング、ピクニックイベントの班決めがあった。当然、あの二人&私は同じ班なわけだけど、
(確か、当日まで、お互い同じ班だって知らない、んだよね?あれ?)
てことは、彼らは明日もサボりか。まあ、いいか。
終業を報せるチャイムと共に立ち上がる。お目当ての人物は律儀にも、教室の直ぐ外、廊下の壁にピタリと張り付くようにして直立不動で立っていた。
「…ジェイク、お待たせ。」
「お嬢様。」
「ジェイクさぁ、学園まであなたを連れてきた私が言うのもなんだけど、授業中くらい好きに、というか、せめて楽にしてたらいいのに。」
「はい。私は、私の好きにさせて頂いております。」
「え、でも…」
「壁の向こうのお嬢様の存在を常に感じながら、お嬢様が学ばれる全てを把握し、お嬢様の発言を一言ももらさず耳にする。…執事として、これ以上の至福はございません。」
「…」
(…私が発言するのなんて、1日に一回あるか無いかなんだけど…)
いつの間にやら変な方向に執事魂を進化させているジェイクに苦笑する。
(…やっぱり、可愛いなぁ。)
本当、嬉しそうにニコニコしてこちらを見下ろすジェイク。その無邪気な笑顔を見上げて、
「…ねぇ、ジェイク?お願いがあるんだけど。」
─今度のピクニック、ジェイクもついてきてよ
お嬢様の願いであれば、何処へなりと。そう返した己に笑って下さったお嬢様。あの笑顔をお守りするためならば、地獄までもお供する。そう、決めてはいたけれど─
「お、お嬢様お嬢様、あぶ、危ぶないです。危険です。よろしくありません。ここは料理長にお任せして、」
「大丈夫だよ、ジェイク。サンドイッチ作るくらいで怪我しないって。」
鼻歌混じりに、されたことも無い料理に挑まれるお嬢様。本日は日の出前にご起床され、お止めする間もなく厨房へと向かわれた。
(…学園に入学するまでは、王太子殿下とも久しくお会い出来ていませんでしたからね。その分、お嬢様も本日のお出かけを楽しみにされている、それは分かるのですが…)
お嬢様に、「意中の彼に手作りサンドイッチ作戦」なるものを聞かされた時には、眩暈がするほどの恐怖を覚えた。例えそれが、お嬢様のおっしゃる「乙女心」なのだとしても、やはり─
「っ!?ほ、包丁!?お嬢様!?包丁など持って!どうなさるおつもりですか!?」
「え?切るんだよ。…包丁だよ?」
「な、何をお切りになるのです!?危ないです!危険です!即刻、お離し下さい!」
「…包丁無いとトマトもキュウリも切れないよ。」
「そのまま!そのままで構いません!丸のままお入れ下さい!」
「無理だよ!?」
サンドイッチだよ?と苦笑するお嬢様に申し訳ないとは思うものの、恐ろし過ぎて、お嬢様の手元を見ていられない。
(っ!私が!私が代わりにっ!)
しかし、その願いは既に却下済み、今は、無様に指をくわえてお嬢様を見守ることしか許されていない。
(お嬢様…)
己の心配など露ほども気にしない、楽しそうに料理をなさるお嬢様。その穏やかな笑顔が嬉しくて、苦しくて、何だか、泣きたくなった。
諸々覚悟を決めて飛び込んだ王立学園。無事に入学を果たしたそこで、本当に久しぶりに自分の婚約者様をお見掛けした。
(攻略対象選択からのゲームスタート、途中分岐無しだから、初恋王子様イベント見ちゃった時点でエンジェちゃんの攻略対象はギャレン様固定。)
教室の窓から見下ろす中庭、木の下でお昼寝中のギャレン様に引っ掛かったエンジェちゃんが見事にスッ転び、「何でこんなところに人が!?」「うるさい女だ」「こんなところで寝てるあなたが悪いんでしょう!」の、出会いイベントが終了した。
(うーん、ギャレン様の目がエンジェちゃんに釘付け。)
今頃、「フッ、この俺を知らないとは、面白い女だ」の独白をしているところなんだろう。
(…というか、あの二人は授業に出なくていいの?)
今日は授業らしい授業は無いとはいえ、明後日行われる春のオリエンテーリング、ピクニックイベントの班決めがあった。当然、あの二人&私は同じ班なわけだけど、
(確か、当日まで、お互い同じ班だって知らない、んだよね?あれ?)
てことは、彼らは明日もサボりか。まあ、いいか。
終業を報せるチャイムと共に立ち上がる。お目当ての人物は律儀にも、教室の直ぐ外、廊下の壁にピタリと張り付くようにして直立不動で立っていた。
「…ジェイク、お待たせ。」
「お嬢様。」
「ジェイクさぁ、学園まであなたを連れてきた私が言うのもなんだけど、授業中くらい好きに、というか、せめて楽にしてたらいいのに。」
「はい。私は、私の好きにさせて頂いております。」
「え、でも…」
「壁の向こうのお嬢様の存在を常に感じながら、お嬢様が学ばれる全てを把握し、お嬢様の発言を一言ももらさず耳にする。…執事として、これ以上の至福はございません。」
「…」
(…私が発言するのなんて、1日に一回あるか無いかなんだけど…)
いつの間にやら変な方向に執事魂を進化させているジェイクに苦笑する。
(…やっぱり、可愛いなぁ。)
本当、嬉しそうにニコニコしてこちらを見下ろすジェイク。その無邪気な笑顔を見上げて、
「…ねぇ、ジェイク?お願いがあるんだけど。」
─今度のピクニック、ジェイクもついてきてよ
お嬢様の願いであれば、何処へなりと。そう返した己に笑って下さったお嬢様。あの笑顔をお守りするためならば、地獄までもお供する。そう、決めてはいたけれど─
「お、お嬢様お嬢様、あぶ、危ぶないです。危険です。よろしくありません。ここは料理長にお任せして、」
「大丈夫だよ、ジェイク。サンドイッチ作るくらいで怪我しないって。」
鼻歌混じりに、されたことも無い料理に挑まれるお嬢様。本日は日の出前にご起床され、お止めする間もなく厨房へと向かわれた。
(…学園に入学するまでは、王太子殿下とも久しくお会い出来ていませんでしたからね。その分、お嬢様も本日のお出かけを楽しみにされている、それは分かるのですが…)
お嬢様に、「意中の彼に手作りサンドイッチ作戦」なるものを聞かされた時には、眩暈がするほどの恐怖を覚えた。例えそれが、お嬢様のおっしゃる「乙女心」なのだとしても、やはり─
「っ!?ほ、包丁!?お嬢様!?包丁など持って!どうなさるおつもりですか!?」
「え?切るんだよ。…包丁だよ?」
「な、何をお切りになるのです!?危ないです!危険です!即刻、お離し下さい!」
「…包丁無いとトマトもキュウリも切れないよ。」
「そのまま!そのままで構いません!丸のままお入れ下さい!」
「無理だよ!?」
サンドイッチだよ?と苦笑するお嬢様に申し訳ないとは思うものの、恐ろし過ぎて、お嬢様の手元を見ていられない。
(っ!私が!私が代わりにっ!)
しかし、その願いは既に却下済み、今は、無様に指をくわえてお嬢様を見守ることしか許されていない。
(お嬢様…)
己の心配など露ほども気にしない、楽しそうに料理をなさるお嬢様。その穏やかな笑顔が嬉しくて、苦しくて、何だか、泣きたくなった。
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